移動を開始して30分、スズは池袋のとある劇場前にいた。

呪いの王の呪力が入った影響か、疲れを知らず走り続けた白虎のお陰で、思っていたよりも短時間でここまで来ることが出来た。

お礼と共に白虎を解除すると、スズは辺りに目を配る。

と、目の前の劇場から見覚えのある人物が姿を見せた。


「悠仁!!」

「(! 今の声!どっから…あっ)スズ!!大丈夫?ケガとか、襲われたりとか…そういうのなかった?」

「うん!大丈夫。ありがとう!合流できて良かった…!」

「結界入った瞬間離れるとか有り得ねぇよ…本当ゴメン。」

「ううん、たぶん結界自体にそういう仕組みが設定されてるんだと思う。だから悠仁のせいじゃない。それよりケガしてる…!」

「大丈夫!大したことないから。スズの呪力は温存しといた方がいい。」

「もうそれは気にしなくていいの。」

「え?」

「実はね…」


そうしてスズは虎杖を治療しながら、呪力が戻った経緯や式神達との会話の内容を伝えた。

宿儺の行動には複雑そうな、伏黒の件には安心したような表情を見せながらスズの話に聞き入る虎杖。

話が終わる頃には、彼の体は元通りになっていた。


「ありがとう!」

「どういたしまして!…そういえば、日車って人には会えた?」

「うん、会えた。今そこで戦って…って、あれ?コガネからルール追加のこと聞いてない?」

「聞いてない…っていうか、今の今までコガネのこと忘れてた。…コガネ!」

「……出て来ないね。コガネ!泳者のコガネがいなくなることってあんの?」

『泳者が死んだときにはいなくなるぜ!だから木下スズは死んだってことだな!』

「え?今目の前にいんじゃん。」

「…宿儺の生得領域に行ってる間って、私仮死状態みたいになってるんだよね?」

「あっ…それをスズのコガネが死んだって勘違いしていなくなった?」

「それしか考えられない気がする…コガネ!死んだってことは、私は今泳者じゃないの?」

『そういうことだな!』

「なら、結界を自由に出たり入ったりできるかも…!」

「それってもしパンダ先輩とかがケガしたら治しに行けるってこと?」

「そういうこと!」


治癒の力を持ったスズが自由に移動できるということは、高専側のメンバーにとっては自分達専用の救急車を持っているのと同じことだ。

すぐに駆けつけて治してくれるとなれば、多少の無理や無茶が許される。

それがこの殺し合いの中で、どれだけ重要なことか。

宿儺の気まぐれに端を発したスズ絡みのイベントは、結果として高専側にとって大いにプラスとなったのだった。


「今パンダ先輩の方ってどんな感じ?」

「ん−…今のところは大丈夫そう。捜してる最中って感じかな。」

「そっか!じゃあこっちはとりあえず伏黒と合流だな。」

「だね!」


そうと決まれば、早速移動を開始する2人。

再び呼び出した白虎の背に乗った虎杖は、前に座るスズの腰に手を回す。

無事に再会できたこと、渋谷で失った呪力が戻っていること、今自分の腕の中に彼女がいること…

その全てに安心し、虎杖は回した腕にギュッと力を込めた。



to be continued...



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