治療がひと段落すると、クグノチは外の様子を確認するため一旦部屋を出た。

その間に、伏黒はこの後すぐに始まる戦いに向けて呼吸を整える。

と、今まで倒れていた謎の女・麗美が不意に意識を取り戻した。


「う"う…」

「…これで分かったろ。アイツらオマエを守る気なんてないぞ。分かったら、とっとと失せろ。」


そう言って、クグノチの後を追うように伏黒もまた玄関の方へと向かう。

だがそんな彼に麗美は最後の抵抗を見せた。

気づいた時には、彼女の長い髪の先端が伏黒の脇腹に突き刺さっていた。


「オマエ…大概にしろよ。」

「……じゃあ言ってよ…レジィ様は言ってくれたもん。私を守るって!!私を好きって!!言ってよぉ!!」

「…たまにいるよ。オマエみたいに行動じゃなくて口先が全てのクズ人間。」

「何よ…この場にいない女にあれだけ好きって言ってたじゃない!!あんな顔、私には一度も向けなかった!!」

「自分を誰と比べてるか分かってんのか?アイツは…スズはオマエとは真逆の人間だ。

 いつだって誰かを守ろうとして行動してる。その結果自分がどうなるかは二の次で…無茶なこともする。

 だから守りたいし、傍にいたい。俺が惚れたのはそういう女だ。オマエと同じ土俵にいると思うな。」


そう言って、伏黒は恐ろしく冷たい目で麗美を睨みつけた。

キンと冷えた空気の中、玄関からまた新たな人物が現れる。

針千釣という名の男もまた、先刻まで伏黒が相手にしていた術師だった。

なるべく多くの点数を得るためにはどう動けば良いか…

天津麻羅、クグノチとはどう連携を取っていくのが効率的か…

瞬時に思考を巡らせる伏黒だったが、それを打ち消すかのように各泳者のコガネが突然騒ぎ出す。

内容は、数分前に追加された"点の譲渡可能"というルールを知らせるものだった。

事前に決めていた内容のルールが追加された…それはつまり、自分達側の誰かが追加したということ。

その事実に少し口角を上げ、スズの式神達を呼ぶ伏黒。

どれだけ離れていてもすぐに傍へ来てくれる優秀な式神に、伏黒は協力を求めた。


「クグノチ!天津麻羅!」

「は〜い。」「呼びましたか?」

「コイツらのこと頼む。」

「了解です。」

「うわ〜何かむさ苦しいおじさんが増えてます〜」

「クグノチ、うるさいですよ。恵は?」

「俺は…降りかかる火の粉を払うだけだ。」

「分かりやすくていいですね。気をつけて。」

「また後で〜」

「あぁ、後でな。2人ともありがとう。」


そう言った伏黒は、鵺と共にマンションを飛び出して行った。


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30分後…

針千釣を含めたマンション周りの術師やら呪霊やらを片づけた式神コンビは、再び伏黒の呪力を追う。

戦いながら、相当量の呪力がぶつかり合うのを感じていた2人。

それが終わった今、伏黒の呪力が限りなく弱まっていることに焦りを見せていた。


「もう〜せっかく治したのに、すぐボロボロになるじゃないですか〜」

「この状況です、仕方がないでしょう。それよりも早く恵のところに行かないと。」

「呪力が追いにくいです〜」

「危険な状況ですね…クグノチ、こっちです。ここを曲がれば恐らく…」


そう言いながら道を曲がった天津麻羅は、捜していた人物が倒れているのを発見した。

だがようやく見つかってホッとしたのも束の間、彼の傍に1人の女性が立っていることに気がつく。

頭上に金色の輪を冠し、背中には見事な羽が生えた彼女は、誰がどう見ても"天使"としか言いようがなかった。


「わぁ〜天使です〜」

「今貴女の足元にいる彼は、僕達の大切な仲間です。傷ついているので手当てをしたいのですが…邪魔をしますか?」

「しません。私も助けようとしてましたから。目的が一緒なら協力した方がいいと思います。ですがその前に…」

「「?」」

「そちらが彼の仲間だと言う証拠はありますか?」

「証拠〜?どうします、天津麻羅?」

「んー…どうしたら信じてもらえますか?」

「そうですね…彼の名前を言ってください。仲間なら絶対に知っているはずでしょう?」

「それはもちろん。彼の名は伏黒恵、式神を使う術師です。」

「そうです、彼は伏黒恵。私の…」

「…貴女の、何ですか?」

「いえ、何でもないです。近くに休める場所があるので案内します。」


天使はそう言って、ふわりと空へ浮かび上がる。

怪しい部分は残るが、伏黒を助けると言っていた以上、この状況で彼をどうにかすることはないだろう。

天津麻羅とクグノチは顔を見合わせて頷くと、伏黒の体を両脇から抱え、天使と同じように空へ飛び立った。



to be continued...



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