東京第1結界へと戻って来たスズは、すぐさま仲間達がいるホテルへと向かった。
笑顔で出迎えてくれた面々と情報交換をしながら一息つくと、途端に睡魔が襲って来る。
お風呂で心身の疲れを癒し、最後に伏黒の様子を確認してから、スズは早々にベッドに入った。
こうして、あちこちで内容の濃いイベントが発生した1日が終わりを告げるのだった。
第98話 仇名
翌日も引き続き、伏黒は眠ったままだった。
スズが定期的に様子を見に行き、体と呪力の具合を確認する。
どちらも順調に回復しており、目が覚めるのは時間の問題だった。
彼女以外のメンバーは各自体を動かしたり、外へ出て情報収集をしたり、買い出しに行ったりと自由に過ごしていた。
そして迎えた14日。
その日も皆が同じように過ごしていると、あっという間に辺りは薄暗くなっていた。
夕食後にデザートが欲しいとの声が上がり、ジャンケンの結果、羽とスズが買い出しへと向かった。
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2人が出かけてから15分程経った頃…
眠り続けていた彼が、ようやく目を覚ました。
「おはようございます。よく眠れましたか?運命の人。」
「……どれくらい寝てた?…オマエに聞いてんだぞ、虎杖。」
「2日…とか?今14日の夜だよ。」
来栖からの声かけを無視し、虎杖と会話を始める伏黒。
まだ頭が覚醒していないのか、その表情は少しぼんやりしていた。
そこへ、外に出ていた2人が戻ってくる。
「ただいま〜何か食べ物以外もいろいろ取ってきちゃった。」
「スズ!伏黒、目覚ました!」
「えっ!本当に!?」
駆け寄ってきた虎杖から報告を受けると、スズは荷物を放ってベッドルームへダッシュする。
バッと部屋に入れば、ベッドの上で体を起こしている伏黒と目が合った。
「恵!!」
「スズ。…久しぶり、だな。」
「本当だよ、もう!あ〜良かった〜…」
「おー起きたか少年!!腹減ってるだろ!!色々かっぱらってきたぞ!!」
「ちょっと羽さんストップ!ご飯の前に体の状態確認するから!」
「え〜先に食った方がいいんじゃないか?」
「すぐ終わりますから!悠仁と来栖さんも少し部屋出ててもらってもいい?」
「オッケー!」「分かりました。」
虎杖達が部屋を出ると、スズは扉の代わりに取りつけていたカーテンを閉める。
それからベッドに腰かけて、ケガ人の最終チェックを始めた。
痛い・気持ち悪いなどの症状はなく、ケガも完治。合わせて呪力も8割方回復している。
伏黒は見事に復活を遂げた。
「うん、バッチリだね!もう少し休めば、呪力も完全に戻ると思う。」
「そうか…ありがとな。」
「どういたしまして!…にしても、どうやったらあんなに呪力消費するのよ。」
「…領域展開のせい、だろうな。」
「やっぱりやってたか。無茶するよね〜」
「しょうがなかったんだよ…」
「…そうだね。強そうな呪力に囲まれてたもんね。…目が覚めて本当に良かった。」
「心配かけて悪かった。」
「いいよ。ちゃんと復活してくれたから許す!頑張ったね、お疲れ様!」
笑顔でそう言いながら、スズは伏黒の頭を優しく撫でる。
好きな相手からのスキンシップは、普段なら大喜びするところだ。
だが今の彼は少し違った。
「…あんまり、俺に触るな。」
「ごめん、嫌だった…?」
「そうじゃなくて……俺、風呂入ってねぇから…」
「へ?だから触っちゃダメなの?」
「だって…汚ねぇし、汗臭ぇだろ。」
スズから顔を背けながら、ボソボソと言葉を紡ぐ伏黒。
いつもクールで大人っぽい彼からは想像できないような幼い言動に、スズの母性がウズウズする。
抑えきれなくなったスズは"恵!"と呼びかけ、チラッとこちらを向いた同期にガバッと抱きついた。
「なっ…!おい!今の話聞いてたか!?」
「聞いてたよ。でも関係ないし。」
「関係ない…?」
「私達は普通の高校生じゃない。いつ死ぬか分からない呪術師でしょ?
そういう世界で、こうやって生きてるっていうのはすごいことなんだよ?だから他のことなんて何も気にならない。
恵がどんだけボロボロでも、汚れてても、汗かいてても…それは恵に触れない理由にはならない。」
スズに触れないよう腕を浮かせていた伏黒だったが、彼女からの温かい言葉に心が揺らぐ。
本当は、部屋で2人きりになった瞬間に抱き締めたかった。
でもすぐ隣には人がいるし、自分もキレイな状態じゃないし…と、何とか気持ちを抑えていたのだ。
それがまさか相手の方から来るとは、想像もしていなかった。
この状況でスズを突き放せる程、伏黒は大人ではない。
気づけば、浮かせていた腕は力強く彼女の背中に回っていた。
「オマエさ…」
「ん?」
「今、自分のことを好きな男に抱きついてるっていう自覚あんのか?」
「えっ。」
「惚れた女に抱きつかれて、男が何もしないと思ってんの?」
「え、いや、私そういうつもりじゃ…!」
「ダメだ、逃がさねぇ。」
「恵、あの…ほら、外に悠仁達いるし…!」
「関係ない。俺達いつ死ぬか分かんねぇんだろ?今を逃したら、次はもうないかもしれない。」
言うが早いか、伏黒はスズの体を反転させてベッドへ押し倒した。
突然仰向け状態になったスズは、上になっている同期がいつになく色っぽい表情をしているのに気づく。
まともに顔を合わせられず、視線が落ち着かないスズに対し、伏黒はさらに言葉を続けた。
「ちょうどベッドの上だし…な?」
「いや、ダ、ダメだって…!待って!」
「この状況で待てる男いねぇから。」
「恵、落ち着いて…!その色っぽい顔一旦やめて!」
「…エロい俺は嫌いか?」
「!」
「スズ…」
名前を呼びながら顔を近づけてくる伏黒に、スズは大パニック。
何とか出来た抵抗は、両手で顔を隠すことだけだった。
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