ベッドの上で意識を戻したスズは、隣で眠る来栖を起こさないよう静かに部屋を出た。

廊下の突き当たりにある非常扉を開けて外へ出ると、夜風にあたりながらさっきまでのやり取りを思い返す。

いや、"さっきまでの"だけではない。

これまでの宿儺との出来事を、可能な限り詳細に思い出そうとスズは目を閉じた。

特殊な呪力故に出会った時から興味を持たれ、それが気づけば好意に変わり、事あるごとに猛アタックされた。

一方で虎杖をはじめ数多くの仲間や一般人を傷つけた、紛うことなき呪いの王であることは忘れてはいけない。

邪悪さにかけては、右に出るものはいないのだ。

だがスズに対してはどんな状況においても味方であり、助けるためとあれば惜しみなく力を与えた。

彼のお陰で命拾いしたことも、一度や二度ではない。

王が与える安心感は、スズにとって五条にも匹敵するものだった。


どのぐらいそうしていただろう…

そろそろ他のメンバーが起き始める頃合いだった。

スズは静かに目を開けて、王の名を呼んだ。


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「早かったな。」

「そう、かな…」

「…覚悟は決まったのか?」


王からの問いかけには答えず、スズはゆっくりと話し始める。

出会った日のこと、守ってもらった日のこと、甘く優しい言葉をかけてもらった日のこと…

多くの人を傷つけ、許されないこともたくさんした。

でも自分に対しては、いつだって味方でいてくれたと…

そんなスズの言葉1つ1つを、宿儺は穏やかな表情で聞いていた。


「だから、宿儺には感謝してるんだ。」

「そうか。」

「うん……宿儺さ、私との縛りって覚えてる?」

「当然だ。俺が呼んだら、オマエが生得領域に来る。」

「私が呼んだら、私を守るために力を貸す。あの時宿儺の条件はシンプルだったけど、私の方はいろいろ追加したでしょ?」

「あぁ。」

「私が呼んだ時は、私にとっての敵だけを倒すっていう約束だった。味方や非術師には手を出さない。

 …今、宿儺は私の呼びかけに応えて出て来てくれたよね。

 だから今ここにいる宿儺は…気持ちの面だけじゃなくて、肉体的にも周りの人を傷つけられない体になってる。」

「…そうなるな。」

「その宿儺なら、私は好きになれる。」

「!」

「まだ宿儺と同じだけの想いは持ててないけど…誰も傷つけない宿儺なら、私はきっと好きになる。

 普通に考えたら、あんなに優しくしてくれて、自分を守ってくれる人を好きにならないわけない。」

「スズ…」

「最初の質問に答えるなら…覚悟は決まった。でも気持ちの部分は、ゆっくり待っててもらえないかな…?」


立ったまま話していたスズは、そう言うと不安そうに下を向いた。

耳に入って来た言葉を噛みしめ、少し笑みを見せた宿儺は、スッと立ち上がりスズの方へ歩み寄った。


「オマエはつくづく、俺好みの女だな。」

「へ?」

「俺が"待たない"って言うと思うのか?」

「じゃあ待っててくれるの?」

「仕方ないからな。だが、俺と同じだけの想いになるには時間がかかるぞ。」

「ふふっ。そんなに私のこと好きなの?」

「…あぁ。後にも先にも、オマエ以上の女はいない。」


愛おしそうにスズの頬を撫でながら、そう言ってまた笑みを見せる宿儺。

その妖艶で色気が溢れ出ている姿に、スズは途端に顔が熱くなる。

先程とは違う理由で下を向いている想い人を、宿儺はふわっと抱き寄せた。


「待ちかねたぞ。」

「ん?何を…?」

「ずっとここに触れたかった。誰にも許してないだろうな?」

「え、あ、うん…!」

「上出来だ。…目を閉じろ。」


王からの指示に、スズは素直にギュッと目を閉じる。

あまりに初心な反応に緩みそうになる口元を抑え、宿儺は自身の唇を重ねた。

顔を離して目が合った瞬間、力が抜けたように座り込んだスズは、真っ赤な顔を両手で覆う。


「ふっ。このぐらいで腰を抜かしていたら、この後が思いやられるな。」

「こ、この後!?」

「夜は長いからな、ゆっくり楽しめるぞ。」

「ひぇっ…!」

「…あーそうだ、スズ。1つ言い忘れていた。」

「な、何?」

「愛してる。」


初めて伝えた愛の言葉は、スズの顔にパッと笑顔の花を咲かせる。

照れ臭そうに笑う想い人の唇をもう一度奪ってから抱え上げると、王は上機嫌で寝室へと向かうのだった。



fin.



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