11月上旬のある日、病院から伏黒に1本の連絡が入る。
看護師が告げた言葉は、彼がずっと待ち続けていたものだった。
"お姉さんが目を覚ましました"
内心の安堵や喜びを出さないよう、いつも通りの落ち着いた口調でお礼を伝える伏黒。
だが電話を切った彼は、口調とは裏腹に力が抜けたようにその場へ座り込んだ。
周辺調査のため一緒に行動していたスズが、驚いて駆け寄ってくる。
「恵、大丈夫!?」
「…」
「疲れが出たかな…一旦戻って「津美紀が…」
「え?」
「…津美紀が目覚ましたって」
「嘘…本当に?」
「うん、今病院から連絡来た」
そう言った伏黒の安心したような顔を見て、スズは一気に喜びが爆発した。
伏黒と同じように、スズもこの1年近くずっと気にかけていたのだ。
"良かったね!"と温かい眼差しを向けてくれるスズに、伏黒もようやく笑顔を見せた。
「落ち着いたら、付いてくれてる補助監督の人から死滅回游のことを伝えてもらう。…五条先生のことも」
「そっか。2〜3日ゆっくりしてもらいたいけど、そうも言ってられないよね…」
「あぁ、今は1秒も無駄にできない。俺も明日には会いに行こうと思ってる」
「分かった。悠仁達に伝えとくね」
「…スズ」
「ん?」
「一緒に来てくれないか」
「えっ、あ、私は全然構わないけど…いいの?久しぶりの姉弟水入らずなのに」
「…久しぶり過ぎて上手く話せるか分かんねぇから、いてもらえると…助かる」
「ふふっ。しょうがないなぁ〜じゃあお供してあげましょう!」
ニヤニヤしながら頭を撫でてくるスズに、"やめろって!"と抵抗する伏黒の顔は何とも照れ臭そうで…!
いつもは同期の中でもリーダー的ポジションの彼が見せる弟らしさに、スズはからかっていたのも忘れ、思わずキュンとなる。
その姿は、自分達が初めて出会った頃の伏黒を思い起こさせるものだった。
翌日、病院の待合室で津美紀が来るのを待っていたスズと伏黒。
10分程して、補助監督が押す車椅子に乗った状態で彼女は現れた。
「恵」
「おう」
「何年ぶり…?私はあんまり時間経ってる感じしないんだけど…」
「1年と7か月…大体」
「そっかーそりゃ歩くのも難しいわけだ。…隣にいるのって、スズちゃん?」
「お久しぶりです、津美紀さん…!」
「本当久しぶりだね。あれからずっと恵と一緒にいてくれてるの?」
「はい、今は同じ高校の同級生です。…あっ、不良っぽいことはしてないので安心してください」
「それは昔の話だろ…!」
「ふふっ。相変わらず仲が良くて安心した」
長い昏睡状態を感じさせない口調や表情、そして記憶もちゃんとあることに、2人は改めてホッと胸を撫で下ろした。
と、不意にスズのスマホに伊地知から連絡が入る。
一言断りを入れてから席を立った彼女を見送り、伏黒は死滅回游について切り出した。
「…死滅回游のこと聞いたか?」
「うん、五条さんのことも。昔から2人が何か大変な仕事をしてるのは分かってたけど…」
「何も心配いらない。俺と俺の仲間がなんとかできる。なんなら津美紀はもうちょい寝とけ」
「! …ふふっ。相変わらず減らず口。あ、そうだ…」
「?」
「スズちゃんには告白した?」
「…なんだよ急に」
「え〜だって恵、昔からスズちゃんのこと好きだったじゃない」
「なっ…!んなことねぇよ!」
「じゃあ嫌いだった?」
「嫌い、じゃ、ない…」
「ほら〜好きなんじゃない。で、告白は?したの?」
「……した」
「うわぁ!頑張ったんだね〜偉い偉い。でもその感じだと、返事はまだってとこかな」
「…」
「いい返事だといいね」
「うん。…って、俺のことはいいんだよ!」
「おやおや?恵君、お姉ちゃんとケンカかな?ダメだよ〜」
「スズ…!」
「聞いてよ、スズちゃん。恵ってね、昔からスズちゃんのこと「津美紀!」
女性陣にからかわれている伏黒は、どうしても弟っぽさが全面に出てしまう。
付き添っていた補助監督が微笑ましく思うほど、3人のやり取りはとても可愛らしいものだった。
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そんなことを思い出していた伏黒は、ふと近くに人の気配を感じ目を開ける。
目の前には、屋上の隅で座っていた自分を呼びに来たスズの心配そうな顔があった。
「恵〜大丈夫?」
「スズ…」
「そろそろ津美紀さん来る頃だからと思って呼びに来たんだけど、もう少し座ってる?」
「いや、平気だ。ありがとな」
「うん!じゃあ行こっ」
笑顔で差し出されたスズの手を取って、伏黒は立ち上がった。
そしてそのまま握った手に力を込めると、スズが不思議そうな表情を向けてくる。
「どうした?」
「俺…たぶん昔からスズのことが好きだった」
「えっ!」
「オマエが俺の中学に遊びに来てた時から、気になってたのかもしれない。少なくとも津美紀の目にはそう映ってたらしい。病院行ったときに言われた」
「そんな話してたんだ…!」
「スズが電話してる時にな。…この馬鹿げたゲームが落ち着いたら、もう少し詳しく聞いてみようかと思ってる」
「! いいな〜お姉ちゃんと恋バナとか最高じゃん!私も混ぜてもらおっ」
「話すのオマエのことだけど耐えられるか?」
「うっ…が、頑張る」
「ふっ」
「……早く、全部終わらせようね」
「あぁ」
強い眼差しを向け合った2人は、虎杖達がいる方へと足を進める。
時計の針は、15:05を示していた。
to be continued...
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