「契闊」


突如自分の内から聞こえたその声に、虎杖は目を見開く。

次の瞬間、体の主導権は王に奪われていた。


虎杖が高専に入学して間もない頃、宿儺が強制的に結んだ1つの縛り。

宿儺が"契闊"と唱えたら、1分間体を明け渡すこと。

そして…この約束を忘れること。

それを宿儺はこのタイミングで発動したのだった。


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残された2人はしばらく呆然と立ち尽くす。

スズも伏黒も、今しがた目の前で起きた出来事を全く受け入れられずにいた。

そんな中、戸惑いで溢れる脳内をいち早く落ち着けたのはスズの方であった。


「恵…恵、しっかりして…!」

「……スズ…」


いつもの冷静沈着な彼を思い起こせないほど、今の伏黒は動揺し憔悴していた。

名前を呼ばれれば虚ろな目でスズを見つめ、そして力が抜けたように彼女へ体を預ける。

自分の肩に頭を乗せて、弱々しく服を掴んでくる同期を、スズはギュッと抱き締めた。


「大丈夫。大丈夫だよ、恵。皆いる。傍にいるから…!」

「スズ…」

「いつまでそうしてるつもりだ?」

「「!」」

「俺の女からさっさと離れろ」

「宿儺…!?なんで…!」


突然聞こえてきた声に振り返ると、そこには虎杖から肉体の主導権を奪った呪いの王が立っていた。

伏黒に対し鋭い視線を向けていた王だが、瞬間的にその立ち位置はスズの傍へと変わる。

先程までとは打って変わり優しげな表情を浮かべた宿儺は、想い人の頬をそっと撫でた。


「顔色が良くないな。疲れが取れていないように見える」

「ちょっと、いろいろ…あって…」

「だから昨日俺が呼んだ時も目覚めなかったんだな」

「そうだったの?」

「あぁ。…オマエは少し休め」

「いや、そんな場合じゃないの!」

「駄目だ。俺の命令は絶対だと、前に言っただろ?」


そう告げた宿儺はスズを抱き寄せると、頭を軽くポンと叩いた。

途端に意識を失う彼女を受け止め、その場に座らせる。

と、次の瞬間…

スズの体はいつぞやと同じ冷気に包み込まれ、そのまま姿を消した。


「スズ!?おい、スズに何した!!」

「オマエ達が揃いも揃ってアイツに負担をかけるから、休みを与えただけだ」

「どこに連れてった…」

「言うと思うか?それより…オマエは自分の身を心配した方がいいぞ」


言いながら、自身の小指に呪力を集中させる宿儺。

そして顔色一つ変えずその指を引き千切ったかと思えば、突然ゲラゲラと笑い出し、興奮した様子を見せる。

さっきから目の前で起きていることが何一つ理解できない。

だが呪いの王が言っていた通り、自分が危機的状況であることだけは伏黒にも分かった。

この緊急事態に、彼は術式の奥義を繰り出すべく構えを取る。


「布瑠部由良由良…」


詠唱はそこまでしか続かなかった。

素早く移動した宿儺によって掌印を崩された伏黒は、一瞬の隙を突いて王の指を口へ入れられてしまう。

反射的に嚥下運動が起こり、彼の体は特級呪物を取り込んだ。


「覚えているか?」


聞こえてきた声は、先程まで弱々しくスズの名を呼んでいた声…

奥義を繰り出すべく、詠唱していたあの声…


「面白いものが見れると…言ったろう、小僧」


虎杖の前に立っている伏黒は、妖しく冷たい視線を向けながらそう言った。

チーム1年のリーダー的存在であった彼の顔には、特徴的な文様が浮かび上がっていた。



to be continued...



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