裏梅にとって、主である宿儺の命令は絶対だ。
それがどんな内容であろうと、どれだけ時間が経っていようと関係ない。
10月31日。あの日渋谷で下された命令…
"俺が肉体を抜けた後、木下スズという女を守れ"
中止の指示が出ない限り、裏梅は命令を守り続ける。
今、彼女の前には穏やかな寝息をたてるスズの姿があった。
第102話 呪胎戴天 ー伍・陸・漆ー
宿儺によって眠りに落ちたスズを抱えた裏梅は、すぐさま場所を移動した。
それから渋谷の時と同じように3m四方の氷の部屋を造ると、そこへ彼女を寝かせたのだった。
我が主の想い人を見守りながら、裏梅は少し前まで行動を共にしていた羂索との会話を思い出していた。
それは宿儺に必要な"浴"という儀式を行う場所を案内してもらっていた時のこと…
「そういえばさ、君の主様はどのぐらい木下スズのことを気に入ってるの?」
「それを聞いてどうする」
「いや、別にどうもしないよ。ただ気になっただけ。だってあの呪いの王が1人の女…しかも人間の女に現を抜かすなんて、ねぇ?」
「…私も最初は驚いた。宿儺様にそういう感情があると思わなかったからな」
「だよね」
「私はそういった感情を理解できないが、1つ言えるのは…宿儺様は心の底からスズ様を好いている。それは確かだ。
命に代えても惜しくないと、そう仰っていたからな」
「えっ、そこまで?ん〜まぁ確かに彼女の呪力は私も魅力的だと思ってるけど、女性としてはそんな飛び抜けた何かを持ってるわけじゃないよね?」
「知らん。私に聞くな。…ただスズ様の話をするときの宿儺様は、普段は見せない顔をしていらっしゃる」
「渋谷のときも随分彼女を助けてたみたいだしね。相当本気ってことか。じゃあ彼女に手を出そうものなら…」
「貴様の命はないだろうな。私も黙ってはいないから、やるならそれなりの覚悟を持って行動した方がいい」
「お〜怖い怖い。となると厄介なのは…万だね。スズは彼女の恋敵だ。宿儺がスズを大切にすればするほど、彼女の怒りはスズに向かう」
「そんなことは百も承知だ。当然お護りする。あんな下󠄀に、スズ様を傷つけさせるわけがないだろう」
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その時話題に上がった万が動き出した。
まだスズの存在は知らないだろうが、女の勘というのは恐ろしいもの…
宿儺の心にいる同性の存在に感づくのは時間の問題だ。
彼自身が万の相手をするまでは、スズを護るのは自分の役目。
そんな決意を抱きながら、裏梅は彼女の寝顔を見つめるのだった。
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