穏やかな寝息を立てるスズとは対照的に、伏黒と宿儺の間にはピリピリとした緊張感が漂っていた。
雨はさらに強さを増し、2人の体を濡らす…
「虎杖は戻ってくる。その結果自分が死んでもな。そういう奴だ。」
「買い被り過ぎだな。コイツは他の人間より多少頑丈で、鈍いだけだ。先刻もな、今際の際で脅えに脅え、ゴチャゴチャと御託を並べていたぞ。
助けに入ったスズにも散々泣きついていたしな。断言する…奴に自死する度胸はない。」
心臓部分がぽっかりと空いているにも関わらず、平然と話を続ける宿儺に対して、伏黒はこの後の作戦を必死に考える。
作戦の最終的なゴールは、虎杖が戻る前に心臓を元に戻すこと。
そのためには、心臓なしでは自分に勝てないと思わせる必要があった。
だが特級呪霊の前での自分、そして今の呪力量を考え、伏黒の中に不安が募る…
果たして自分にそんなことができるだろうか、と。
「(虎杖とスズ…2人を守る必要がある。できるかじゃねぇ……やるんだよ!!)」
強い眼差しと共に、伏黒は式神を呼び出した…!
第9話 呪胎戴天 ー肆ー
式神の"鵺"と"大蛇"、そして術師である自分の体術を使い、次々と宿儺へ攻撃を仕掛ける伏黒。
伏黒の攻撃で気を引いて、その隙をついて大蛇が噛みつき、さらに追撃で鵺が襲いかかる。
普通の呪術師や呪霊相手であれば、十分致命傷を与えられる程のいい攻撃だ。
だが相手があの呪いの王とあっては、そう簡単にはいかない…
自分に噛みついていた大蛇をあっさり破壊すると、次の瞬間には術師本人の傍に移動し、空中へと放り投げる。
すかさず、受け身が取れない伏黒に対して強力な打撃。
鵺が咄嗟にカバーに入り、何とかケガは最小限で済んだが、式神も術師本人ももう限界が近かった。
ツラい時いつもそうするように、伏黒は無意識に首に下げた勾玉を握りながら呼吸を整える。
「("鵺"も限界だ…壊される前に解いた方がいいな。生得領域を抜けるのに、式神一通り使っちまった。
しかも"玉犬[白]"と"大蛇"は破壊されてる。もう呪力が…)」
「オマエの式神、影を媒体にしているのか。」
「(バレた所で問題はない。)ならなんだ。」
「フム…(呪符を使うありきたりな術式ではない。応用も効く。)分からんな。オマエあの時、何故逃げた。」
「?」
「宝の持ち腐れだな。まぁいい。どの道その程度では、心臓は治さんぞ。」
「(バレバレか…)」
「つまらんことに命を懸けたな。この小僧に、それ程の価値はないというのに。」
「そんなことない。今の言葉は撤回して、宿儺。」
そう言いながらフラついた伏黒を支えたのは、さっきまでの穏やかな寝顔とは打って変わって、厳しい表情のスズだった。
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