伏黒が宿儺に吹っ飛ばされたのと時を同じくして、木に寄りかかっていた人物にも変化があった。

何かに呼ばれるように目を覚ましたスズは、呪力を探しながら急いで状況を把握する。

絶え間なくぶつかっているのは、伏黒と宿儺の呪力…

まだ虎杖に戻ってないことも気がかりだったが、それより何より心配なのは伏黒の呪力だった。

明らかに呪力の残量が少なく、式神の力も弱い。


「(この呪力で宿儺と真正面からやり合ったら、確実に恵は死ぬ…)」


そうなる前に…と、スズはすぐに大きな音がした建物の方へ向かった。


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「つまらんことに命を懸けたな。この小僧に、それ程の価値はないというのに。」

「そんなことない。今の言葉は撤回して、宿儺。」

「スズ…!オマエ、大丈夫なのか…?」

「うん、心配かけてごめん。治療するから座って?」

「…虎杖の心臓が人質に取られてる。」

「あの穴はそういうことか。悠仁に戻った途端、死ぬってことね…」

「あぁ。」


領域展開で伏黒の治療をしながら、2人は静かに会話をする。

この間、宿儺は少し笑みを浮かべながら攻撃の手を止めていた。

それはひとえにスズへの愛着と、もう一つ理由がありそうだった…


「(意識のかなり深いところに仕掛けをしたんだが…それでも目覚めたか。精神力の強さも十分。やはり俺が見込んだだけのことはある。)」

「何笑ってるの。悠仁の体にこんなことして…」

「自分に今できることをやったまでだ。それより…オマエから近づいてくるのはまた乙なものだな。」


伏黒を領域内に残し、スズは心臓生成のため宿儺の前へ移動した。

真剣な表情のスズを前にしても、宿儺は相変わらずの態度で彼女に語りかける。

だがそのすべてを無視し、スズはぽっかりと空いた穴に手をかざし、呪力を込め始めた。


「やめておけ、スズ。今の呪力量じゃ、生成が完了する前にオマエが死ぬぞ。」

「それでもやる。悠仁はまだ呪術界に入って間もないの…そんな中で恐怖と戦いながら必死に頑張ってる。

 そういう人を見捨てたら、私は"人"じゃなくなるから…だからここで呪力を使い果たして死ぬことになっても、それはそれでいい。」

「駄目だ。俺はオマエが死ぬことを許さない。」

「何でよ!宿儺に関係ないでしょ!…ていうか、うるさい!!今集中してるんだから、静かにして!!」


こんな具合に2人がやり取りをしている間、伏黒はスズの領域内で静かに想いを巡らせる。

彼は常々思っていた…不平等な現実のみが平等に与えられている、と。

姉である津美紀は疑う余地のない善人で、誰よりも幸せになるべきだったのに…それでも呪われた。

自分の子供の性別も知らず、勝手に"恵"と名付けた父親は、今も何処かでのうのうと生きている。

因果応報は全自動ではない。悪人は法の下で初めて裁かれる。

呪術師はそんな"報い"の歯車の一つ。

少しでも多くの善人が、平等を享受できる様に…


「(俺は不平等に人を助ける。)」

「「!」」


突然感じた尋常でない呪力に、スズと宿儺は同時に力の源の方へ目を向ける。

そこには腕を上下に構え、さっきまでとは違う鋭い目をした伏黒の姿があった。



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