スズの覚醒までまだしばらくかかると踏んだ裏梅は、自身に課せられたもう一つの任務を遂行すべく動き出す。
それは主が必要とするであろう"浴"の準備であった。
準備が終わったら、スズを連れて宿儺の元へ向かう予定だったのだが…
再び氷の部屋へ戻って来た時、スズはまだ眠りの中だった。
「(呪力はほぼ回復している。目覚めないのは体の疲れのせいか?余程神経をすり減らしておられたのだろう…)」
優しくスズの髪を撫でた裏梅は、しばし考えを巡らせる。
本来なら彼女の目が覚めるまでここで見守るべきだろう。
だが"浴"の準備ができた今、少しでも早く主へ報告し、次の行動を起こした方がいい。
ではスズを置いて行けば良いか?答えは否だ。
スズをここに残していくのは主が喜ばないだろうし、自分自身も腑に落ちなかった。
「(この状態のままお連れして、宿儺様に判断を仰ぐのが良いだろうな)」
そう決断すると、裏梅はスズをそっと抱えて移動を開始した。
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裏梅とスズが移動している頃、主である宿儺は虎杖達を相手に暴れまわっていた。
圧倒的パワーで虎杖を蹴り飛ばし、伏黒の術式で真希や羽を撃墜する。
そして五条解放の要である天使をも、宿儺はその見た目を利用してなぶり殺した。
裏梅が到着した時は、ちょうど虎杖・真希のペアと戦っている最中で…
かなりの実力を持つ2人を相手にしていても、王の表情は全く崩れず、余裕さえ感じさせた。
一旦スズを安全な場所へ寝かせると、裏梅は虎杖と真希の前へ姿を見せる。
「! おっ」
「出力最大…"霜凪"!」
その一言で、辺りは一瞬にして氷漬けになった。
突如変わった景色に、王は大変満足気だ。
「はっはっ。絶景絶景」
「差し出がましい真似を致しました。どうかお許し下さい」
「良い」
「それから一応虎杖悠仁の凍結を弱めましたが…」
「小僧はもう用済みだ。どうでもいい。だがあの女に呪力を偏らせたのは正解だ。スズの様子は?」
「呪力はほぼ回復しておられますが、未だ目を覚まされません」
「ちっ。奴らがスズをこき使うからだ。…今どこにいる?」
「1人にするのは気が進まなかったので、こちらにお連れしています」
そう言って場を離れた裏梅は、寝かせていた場所からスズを抱えて戻ってくる。
彼女の姿を認めた途端、宿儺の表情から一切の邪気が消えた。
そしてスズを軽々受け取ると、その顔を愛おしそうに見つめる。
「よく寝ているな」
「えぇ。先程より顔色も良くなっていますし、直に目を覚まされるかと」
「…いつまででも眺めていられる」
「邪魔する者は排除致します」
「ふっ。だが今はあまり時間がない。…肉体を仕上げる。"浴"の用意をしろ」
「既に出来ております。少々ご足労いただくことになりますが…」
「スズのことといい、相変わらず痒い所に手が届く」
主からのお褒めの言葉に、密かに喜びを噛みしめる裏梅。
そんな彼女に気づく様子もなく、宿儺は凍っていない場所を見つけてスズの背を木に預けて座らせた。
てっきり一緒に連れて行くと言われると思っていただけに、裏梅は驚きの表情を見せる。
「"浴"の場までお連れしなくていいのですか?」
「離れたくはないが…あの光景は、人間にとって気持ちの良いものではないだろう。それをスズに見せたくない」
「! …それだけ好いておられるのですね」
「どうだろうな。ただ今まで他の女に抱いたことのない感情であることは確かだ」
「(万が聞いたら発狂する言葉だな…)そうですか」
そうして少しの間スズの顔を見つめていた宿儺だったが、気持ちを切り替え、移動のため"鵺"を呼び出した。
"鵺"の足へ乗り込む前に、宿儺は今一度想い人を振り返る。
「…この姿を見せるのは次の機会だな。その時には、いつもの顔を見せろ」
静かにそう話しかけると、お決まりの別れの挨拶とでも言うようにスズのおでこへ唇を寄せる呪いの王。
最後に彼女へ微笑みを向けた宿儺が、"鵺"の足に乗り込んだ直後…
ピシッという氷の割れる音が聞こえ、脱出した虎杖が上空に向かって声を上げる。
「宿儺ぁ!!!」
「殺しますか?」
「待て待て。よく見ろ、笑えるぞ」
「なんと情けない」
遥か下にいる虎杖へ馬鹿にしたような笑みを向けながら、2人は"鵺"と共に上空へと消えて行った。
to be continued...
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