宿儺と裏梅の嗤い声が遠くなっていくのを、ただ見つめることしか出来ない虎杖。
自分の不甲斐なさに拳を握り締める彼だったが、不意に近くから慣れ親しんだ温かい力を感じて視線を向ける。
そこには木に背を預け、死んだように動かないスズの姿があった。
第103話 浴
突如姿が見えなくなり、心配していた相手を思いがけないタイミングで発見し、虎杖は慌てて彼女の元へ駆け寄る。
名前を呼びながら顔を覗き込めば、スースーという寝息が聞こえてきた。
その事実に一旦胸を撫で下ろした虎杖は、そっとスズの頬に触れる。
「スズ…」
「…ん…悠仁…」
「…無事で良かった」
寝起き特有のぼんやりした表情で自分を見つめる想い人に少し笑みを向けると、虎杖は優しく彼女を抱き締めた。
スズの体温・匂い・柔らかな体を五感で感じていると、今まで心を支配していた負の感情がゆっくりと落ち着いていく。
代わりに出てきたのは、自分でも驚くほど情けない声と言葉だった。
「……俺、また何も出来なかった…」
「悠仁…?どうしたの?何が…っていうか、すごいケガしてる…!」
「こんなの何ともない」
「何ともないわけない!一旦ケガ見せて?治療するから」
「…俺の体のことなんか気にしなくていい」
その言葉を聞いた瞬間、スズはグッと虎杖の体を押す。
面と向かった彼女の顔は、悲しさと怒りが混ざったような表情で…
両手で虎杖の頬に触れると、諭すように話し始めた。
「誰を治すかは私が決める。悠仁の言うことは聞かない。
大切な仲間がこんなボロボロの状態なのに、放っておけるわけないでしょ…!
悠仁…お願いだから、もっと自分の体を大事にして。これ以上…仲間が死ぬのは、嫌だよ…」
「! ごめん……俺の体、スズに預けていい?」
頬に触れていた手を掴みながらそう言えば、スズはいつもの優しい笑顔で"もちろん"と言葉を返す。
そのたった一言で、虎杖の体は受けてきたダメージを思い出したように痛み出した。
普通の人間であれば死んでいてもおかしくないほどの傷。
いくら頑丈な虎杖でも、さすがに体が言うことをきかなくなっていた。
自分の肩に頭を乗せ、ぐったりともたれかかってくる虎杖を、スズは横に寝かせようとする。
だが体を動かそうとするスズに対し、虎杖は小さい子供がイヤイヤをするように首を振った。
「悠仁?」
「…スズにくっついてたい。このまま治療して?」
「わ、分かった…!」
滅多に言われない可愛らしいワガママにドキドキしたのも束の間、スズは表情を切り替え、正の領域を展開した。
傷が癒えていくのを感じながら、虎杖は静かに事の経緯を伝えていく。
宿儺が自分の体から出て、伏黒の体を乗っ取ったこと。
作戦の要である天使がやられたこと。
真希と応戦したが、手も足も出ず逃げられたこと。
そこまで話して、思い出したように虎杖は顔を上げた。
「真希先輩…!」
「ん?」
「真希先輩も、あの氷に巻き込まれてる…まだ中にいると思う」
「えっ!……カグツチ!!」
『おう!』
「そこの氷の中に真希先輩がいるみたいなの。すぐに助けて出して欲しい…!」
『まぁ氷相手なら俺だな。んー探すのめんどくせぇし、全部溶かすってことでいいか?』
「うん、お願い!」
「んなこと出来んのか?かなり範囲広いけど…」
『おい、悠仁…あんま俺を馬鹿にしてると、また鍛え直すぞコラ!こんぐらい朝飯前だわ』
ニヤリと笑ったカグツチは、言葉通りあっという間に辺り一帯の氷を水に変えた。
発見された真希は凍死寸前だったが、カグツチの力でゆっくりと体温を上げていく。
合わせてクグノチも呼び出し、彼女の治癒の力で比較的軽傷だった真希の体を治していくのだった。
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