「棘先輩!!」


スズの声に振り返った狗巻は、元気そうな後輩の姿にパッと表情を明るくする。

長いこと一緒にいるパンダが、友人のそんな変化に気づかないわけはなく…

ポスッと狗巻の足を叩くと、意味深な笑みを向けた。


「あんま目立つことはすんなよ」

「?」

「チューはダメだぞ、ってこと」

「こんぶ!!」


"するわけない!"と怒る狗巻に、パンダは悪びれる様子もなく楽しそうにしている。

そんな2人の元へ笑顔で駆け寄って来たスズは、先輩コンビの対照的な表情を不思議そうに見比べた。


「どうかしたんですか?」

「ん?棘に大事な忠告してただけだ」

「忠告?…って、うわっ!」


ニヤニヤ顔を隠さないパンダをキッと睨むと、狗巻は突然スズの腕を掴んで歩き出す。

後ろから聞こえてくる声を無視してズンズン歩いて行く彼に、スズはまた頭に?を浮かべるのだった。


狗巻の足が止まったのは、大ホールの中にいくつかある小部屋のうちの1つ。

入口にドアやカーテンがあるわけではないが、ホールにいる人間からは見えにくく、声も届きにくい…そんな部屋だ。

部屋に入ってからも腕を話さない狗巻に、スズは静かに声をかける。


「先輩?」

「……パンダに言われたんだ」

「何をですか?」

「…チューはダメだよ、って」

「えっ…!」

「皆いるから、目立つ行動はするな…って」

「そ、それが…さっきの忠告、ですか?」

「うん。でもさ…ここなら少しぐらいいいよね?」


後ろを振り返った狗巻は、スズと目線を合わせるといつになく色っぽい表情を見せる。

急な展開に鼓動が早まり、思わず視線を外すスズに微笑みかけると、狗巻は掴んでいた腕を自分の方へ引き寄せた。

そしてパッと手を離すと、そのまま片腕で想い人をギュっと抱きしめる。

耳元で聞こえた声には、しばらく会えてなかったスズへの想いが溢れていた。


「…会いたかった」

「! 棘先輩…」

「逐一情報は入って来てたし、無事なのも分かってたけど…やっぱり顔見ないと安心できなくてさ。ずっと不安だった」

「自分の体が大変なことになってたのに…私のこと、心配してくれてたんですか…?」

「当たり前じゃん」

「左腕…なくなってるんですよ?」

「でも生きてる。こんなの大したことないよ。俺はスズが傷つく方が嫌だ」

「…棘先輩、優しすぎます」

「ふふっ。…好きな子にだけだよ?」


さっきまでのドキドキはどこへやら…

狗巻の言葉を受け取る度に、スズの涙腺は緩んでいく。

片腕の損失は戦いの場でマイナスになるだけでなく、日常生活への支障も大きい。

今まで簡単に出来ていたことが、何倍もの時間がかかるようになる。

自分へのイライラが収まらないこともあっただろう。

それなのに、そんな状況なのに、自分のことをこんなにも気にかけてくれる。

狗巻の温かい優しさに、スズは涙が止まらなかった。


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ようやく涙がおさまり、赤い目のまま顔を上げれば、穏やかな表情の狗巻と目が合う。

スズが恥ずかしさからまたすぐに下を向こうとするのを、狗巻は頬に手を添えることで阻止した。


「下向かないで、俺のこと見て?」

「あ、いや、でも…!」

「スズ…」

「棘、先輩…」


魅入られたように、スズは熱を帯びた紫色の目から視線を外せなくなる。

鼻先が触れそうなぐらい近づいた顔に、スズが反射的に目を閉じたその時…!


「目立つことはダメだぞ〜」

「! パンダ先輩…!」

「高菜〜…」

「そんな恨みがましい目で見るなって〜悠仁と真希が合流したから呼びに来たんだよ」

「あ、2人とも目覚めたんですね!良かった…!」

「おぅ!てことで早く行くぞ〜」


テテテッと前を行くパンダの後を追いかけるスズ。

そんな彼女の腕を、狗巻は咄嗟に掴んだ。

驚いてこちらへ顔を向けるスズの肩に手を添えると、頭に触れるだけのキスを落とす。

ネックウォーマー越しでも、その感触と熱は確実にスズへ伝わっていた。

一気に顔が赤くなる想い人に楽しそうな笑顔を向け、狗巻は先に部屋を出て行くのだった。


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大ホールに次々と集まってくる高専メンバー達。

ガヤガヤしている輪から少し離れたところで、家入は柱に寄りかかったまま物思いにふける。

彼女の脳内には、いつかの五条の姿が映し出されていた。


"育てる、強く聡い奴らを。もう誰も独りにさせない"


「(実はオマエらどっちかのことを愛してた…なんてことは天地がひっくり返ってもないけどさ…私がいたろ。何が独りだ、馬鹿野郎。

 もうウジャウジャいるぞ。オマエの帰りを待ってる化け物どもが。帰ってこい、五条。

 これ以上、心底惚れた女を悲しませるような野暮なマネ…するんじゃないよ)」


家入の視線の先には、ツラそうに獄門彊を見つめるスズの姿があった。



to be continued...



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