1時間後…
打ち合わせが終わり、スズの様子を確認するため応接室へ向かう家入。
その彼女の横には、足取りの軽い同期の姿があった。
「…いきなり大声出して騒ぐなよ」
「分かってるよ。スズの体調が最優先!」
「そう思うなら、会うのもう少し後にして欲しいんだけど…」
「僕さ…スズと出会ってから、こんなに長い間会えてないの初めてなんだよね。だから自分でもどういう反応するか想像できねぇの」
「久しぶりに再会した時に、ってこと?」
「そっ」
「興奮状態になったらすぐ追い出すからな」
そんな会話をしていると、あっという間に応接室前へと到着してしまう。
家入は、先に自分が入って様子を見てくるから五条はここで待っているようにと指示を出したのだが…
「僕も一緒に入る」
「ダメだ。絶対うるさくするだろ」
「しない。呪力消して、隣で静かにしてる」
「静かにしてるのは当然だが、何で呪力消す必要がある?」
「スズが僕のことどう思ってるか聞きたい」
「うげ…趣味悪っ。いくら呪力消しても、スズなら気づくんじゃない?」
「普段のスズならね。でも今は弱ってるし、そもそも僕が硝子と一緒に部屋に来るっていう考えがないから気づきにくいはず」
「…嫌われても知らないからな」
「スズはそういう子じゃないです〜」
呆れたような顔を見せながら、家入は静かに部屋のドアを開ける。
続いて入って来た五条は、予告通り呪力を完全に消していた。
目元をタオルで覆われた状態で、穏やかな寝息を立てているスズ。
家入によって顔色や脈を確認されている彼女を、背もたれ側に立っている五条は愛おしそうに見つめていた。
と、不意にスズの意識が覚醒する。
「硝子さん…」
「具合どう?」
「…だいぶ、いいです…ありがとうございます」
「なら良かった」
「打ち合わせは、もう…終わったんですか?」
「うん、終わった。…五条も合流したよ」
「良かった…悟先生は、落ち着いた…かな」
「落ち着いたよ。…会いたい?」
「はい…会いたいです。会って、たくさんお話したいです…」
「そうだね」
「あ、でも…」
「ん?」
「まずは…抱きついちゃうかも…」
「スズにしては積極的だな」
「…こんなに長い間会えないの、初めてな気がするから…甘えちゃいそうだなって」
「(あーもう…本当好き…)」
「(これは五条が夢中になるわけだ…)」
目こそ見えないが、口角の上がり方でスズが照れ笑いをしているのが分かる。
まさか本人がいるとは思わず素直な気持ちを吐露する少女に、五条はもちろん家入も表情が緩んだ。
音を立てないように立ち上がった家入は、"手は出すなよ"と目線で伝えながら応接室を出て行く。
そして代わりにソファの傍に座った五条が、低く穏やかな声で話しかけた。
「じゃあ、ギュってしたままお話しよっか」
「…へ?」
突然聞こえた男性の声に、一瞬動きが止まるスズ。
だがその声の主が誰か分かり、同時に呪力を感じ取ると、目元のタオルを慌てて取り去りガバッと体を起こした。
「スズ、平気?」
「さ、悟先生…?」
「うん」
「…本物の、悟先生…?」
「もちろん。こんなイケメン、他にいる?」
「いない、です…!」
「ふっ。……すぐ戻るって言ったのに、遅くなってごめん。どこも行かないっていう約束も破った。
俺がもっと早く戻ってれば、死ななくていい命は確実にあったし…スズにこんなに悲しい思いさせなかった。ごめんな」
「先生は何も悪いことしてないです!むしろ…謝らなきゃいけないのは、私の方です。
大変なのも、ツラい思いするのもいつだって先生ばっかりで…いろんなものたくさん背負ってるから、少しでもその負担を軽くしたいって思ってたのに…
私はまた何もできなくて、先生に"自分がいれば…"って思わせてしまいました。だから本当は合わせる顔がないんです…ごめんなさい、先生」
俯きソファの上で膝を抱えたまま、スズは震える声でそう話す。
今にも涙が溢れそうな想い人を前に、五条は膝立ちになるとその体をギュっと抱き締めた。
「そんなに思い悩まなくていい。背負い込まなくていいから。それは全部俺の役目だよ」
「ダメです!先生ばっかり、そんなの…!」
「他の奴なら心が折れたりすんのかもしんないけど、俺にはスズがいるから」
「!」
「スズがそうやって俺のために泣いてくれるから、俺は強くいられる。前に言ったろ?オマエがいれば何にも誰にも負けないって。だから俺は平気。ありがとう、スズ」
ゆっくり諭すように紡がれる五条の言葉にスズの涙は溢れ、着ていた服に点々とシミをつくる。
頭や背中を優しく撫でても、心音が聞こえるぐらいギュッと抱き寄せても、彼女の涙は流れ続けた。
「今日涙止まんねーな」
「…うぅっ」
「じゃあ…これ言ったら止まるかな」
「?」
「大丈夫、俺がついてるでしょ?」
五条が目線を合わせて笑いかけると、スズは一瞬目を見開く。
そして再び溢れてくる涙に構わず、床に座っていた五条に勢いよく抱きついた。
自分の腕の中で声を上げて泣くスズを、彼もまた強く抱き締める。
少ししてようやく涙が止まったスズは、目を擦りながら体を離す。
それから、名残惜しそうに自分の腰に手を回したままの五条の顔を正面から見つめた。
「悟先生」
「ん?」
「おかえりなさい!」
「! …ただいま」
想い人の満開の笑顔と聞きたかった迎えの言葉は、五条の想像を遥かに超えるものだった。
体の内から込み上げてくる何かを抑えるように、五条はもう一度目の前の少女を強く抱き締めた。
to be continued...
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