辺りがひっそりと闇に包まれた頃…

伏黒は例の少年を追いかけ、杉沢病院へと辿り着いていた。


「虎杖悠仁だな。呪術高専の伏黒だ。悪いがあまり時間がない。オマエが持ってる呪物はとても危険なものだ。今すぐこっちに渡せ。」

「じゅぶつ…?」

「これだ持ってるだろ。」

「んー?…あーはいはい、拾ったわ。」


携帯に入っている呪物の写真を見せながら問いかければ、虎杖は呑気にそんな言葉を返す。

そして自分は別に構わないが、先輩がその呪物を気に入っているから渡す理由を説明して欲しいと。

それに対して伏黒は、呪いに関する最低限の知識を口早に説明していった。

手始めに、日本国内での怪死者・行方不明者は年平均10000人を超える、という話から…


「その殆どが人間から流れ出た負の感情、"呪い"による被害だ。」

「呪いぃ?」

「オマエが信じるかどうかなんてどうでもいいんだよ。続けるぞ。」


スズの方も気にかかる伏黒は、イライラを何とか抑えつつ説明を続ける。

学校や病院のような大勢の思い出に残る場所は、人が後悔や恥辱等の記憶を反芻する度に感情の受け皿となるため呪いが吹き溜まりやすい。

故に学校には、大抵"魔除け"の呪物が置いてあるのだと。

だがこれは毒で毒を制す悪習であり、今や呪いを呼び寄せ肥えさせる餌となってしまっている。


「その中でもオマエの高校に置かれていたのは、特級に分類される危険度の高いものだ。人死にが出ないうちに渡せ。」

「いやだから、俺は別にいいんだって。先輩に言えよ。」


そう言いながら虎杖が投げて寄越した呪物を受け取り、蓋を開けた伏黒だったが…


「(空…!?俺が追ってきたのは箱にこびりついた呪力の残穢…!)中身は!?」

「だァから!先輩が持ってるって!!」

「(! 先輩…ってことは、スズの方か!!)ソイツの家は!?」

「知らねぇよ。確か泉区の方…」

「なんだ?」

「そういや今日の夜学校で、アレのお札はがすって言ってたな。え…もしかしてヤバイ?」

「ヤバイなんてもんじゃない。ソイツ死ぬぞ。」


虎杖の先輩が学校にいるということは、その先輩を追っているスズも間違いなくそこにいる。

呪物のレベルを考えても、もしものことが起こった場合、彼女1人での対応は危険だ。

瞬時にそこまで思いを巡らせた伏黒は、すぐさま病院を出て走り出した。


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時は少し遡り、伏黒と虎杖が病院のロビーで会話をしている頃…

虎杖の先輩を追い、再び杉沢第三高校の正門前に立っているスズ。

体が引き寄せられる感覚は相変わらずで、もうだいぶ探している呪物の位置を把握できるようになっていた。


「(あの右上の部屋辺り…かな。ってかあの先輩、こんな時間に学校で何してんだろ?)」


そんなことを考えつつ、スズは自分の呪力を確かめるように手をグーパーする。

実は先輩を追う途中、前日の除霊依頼者から高専の方へ電話があり、追加の除霊任務を言い渡されていた彼女。

そのため呪力量が本調子ではなく、若干の不安を抱えていた。


「(恵に連絡した方がいいかな…いや、もう少し様子見るか。)」


伏黒の方もバタバタしているはず。せっかく二手に分かれたのだから、もう少し状況を把握してからの方がいい。

スズはそう判断し、1つ気合を入れると正門を乗り越えて中へと入っていった。



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