伏黒から立ち昇る強烈な呪力に、宿儺は一気に嬉しそうな表情を見せる。
相手がまだ戦えると知った喜びからか、興奮気味に体を動かそうとする彼を止めながら、スズもまた伏黒に目を向ける。
だが彼の立ち姿を見て、これから何をしようとしているか分かった途端、一気に彼女の血の気が引く。
「いい…いいぞ。命を燃やすのはこれからだったわけだ。」
「ちょっと宿儺、動かないで!!恵もやめて!!」
「魅せてみろ!!伏黒恵!!」
「馬鹿!煽らないで!!恵も!その構えが何呼び出すか分かってんの!?」
「(分かってるよ、スズ…でもやるしかねぇんだ。)布瑠部由良由良…八握…っ!」
「! ……悠仁?」
スズがこの場に来てからずっと辺りに漂っていた、呪いの王が発する禍々しい呪力。
それが面白いぐらいあっさりと消えた。
代わりに現れたのは、いつも感じているあの優しく穏やかな彼の力だった…
自分の名前を呼んだスズに少し笑顔を見せながら頭にポンと手を置くと、虎杖はそのまま彼女に体を預けた。
「悠仁待って…まだ戻ってきちゃ駄目…!」
「…俺は、オマエを助けた理由に論理的な思考を持ち合わせていない。
危険だとしても、オマエの様な善人が死ぬのを見たくなかった。それなりに迷いはしたが、結局は我儘な感情論。
でもそれでいいんだ。俺は正義の味方じゃない。呪術師なんだ。
だからオマエを助けたことを、一度だって後悔したことはない。」
「…そっか。伏黒は頭がいいからな。俺より色々考えてんだろ。オマエの真実は正しいと思う。でも俺が間違ってるとも思わん。」
「悠仁、もう喋んないで…!今治すから!」
「…スズごめんな。さっきも今も、助けてもらってばっかだ…」
「そんなこといいから!お願いだから…治療させて…!!」
「俺、スズに何もできてねーけどさ…会えて良かった。ありがとな。」
「そういう別れの言葉とかいらないから!」
「…あー悪い。そろそろだわ。スズも伏黒も釘崎も、五条先生…は心配いらねぇか。長生きしろよ。」
スズを抱きしめるような態勢で会話をしていた虎杖だったが、そう呟くと同時に彼の全身から力が抜けた。
咄嗟のことで支えきれず、スズも一緒に地面に崩れ落ちる。
動かなくなった同級生の頭を膝の上に乗せたまま、スズは静かに雨に打たれていた。
伏黒は、そんな彼女の肩に手を置いて声をかけるが…
「スズ、風邪引くぞ。」
そう言って手に力を込めた瞬間、スズの体がグラっと傾きその場に倒れ込んだ。
目の前で起きた予想外の事態に、伏黒は彼女の名前を呼びながら体を揺する。
「スズ…?おい、スズ!!」
だがスズは一向に起きる気配を見せない。
慌てて脈と呼吸を確認すれば、どちらも虎杖と同じ状態…
それはつまり…彼女の死を意味していた。
「嘘だろ…何でだよ…さっきまで普通にしてたじゃねぇか…!」
同級生を一度に2人も失うことになるのかと、伏黒は取り乱しそうになる気持ちを必死に抑える。
スズの場合、脈も呼吸もないが、僅かながら呪力はある。
助かる見込みをそこに託して、伏黒は彼女を抱きかかえながら迎えの車を待った。
to be continued...
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