あれよあれよと時間が過ぎ、気づけば日付が変わるまであと1時間程だった。

今日の片づけ当番である虎杖に洗い物を任せ、スズと五条は揃って家路につく。

他愛のない話をしながら歩いていると、あっという間にそれぞれの部屋が見えてくる。


「今日は本当にありがとね。すっごい楽しかった」

「いえ!喜んでもらえて安心しました」

「疲れてるだろうから、ゆっくり休めよ?」

「はい!先生もね」

「ありがと。じゃあまた明日。おやすみ」

「……先生!」

「ん〜?」


部屋に入ろうとしていた五条を呼び止めたスズはタタッと駆け寄り、振り返った彼に珍しく自分から抱きついた。

想い人からの突然の行動に、さすがの最強呪術師も目を見開く。

驚き過ぎてなかなか第一声が出ない五条に対し、スズは恥ずかしがりながらもゆっくりと話し始めた。


「…悟先生、生まれて来てくれてありがとうございます」

「!」

「私、先生に出会えて本当に良かったです。先生に見つけてもらってなかったら、今頃呪いにやられて死んでたかもしれない。

 あんなに素敵な人達にも出会えなかったし、自分の力が誰かの役に立つんだってことも知らずに終わってました。

 さっき先生が自分は幸せ者だって言ってたけど、私もすごく幸せ者です!だからこれからもよろしくお願いします!」

「…ダメだよ、スズ」

「え?」

「自分のことを好きな男の前で、そういうこと言っちゃダメ」

「ダ、ダメ…でしたか…?」

「うん。だって俺、もうスズのこと離したくなくなっちゃったもん」

「なっ…!」

「あ〜ぁ…せっかく大人しく帰ろうと思ってたのに。スズのせいでドキドキして寝れなくなっちゃった」

「わ、私のせいですか?」

「そう。だから…俺が寝るまで一緒にいて?」

「あ、あの…でも…」

「今日誕生日なんだけどな〜俺」

「…先生、ズルい」

「ふっ。大人の男はズルいもんなの。…それとも、本当にやだ?」

「……出会えて良かったって思ってる人を、嫌がるわけないじゃないですか…!」

「(あーもう…今日抑えられっかな…)じゃあ、部屋連れ込んでいい?」


覗き込んだスズの顔は、今までのどの時よりも真っ赤に染まっていた。

小さく頷く彼女に笑いかけ、五条はサッとその手を取ると自室へと入って行った。


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「何か温かいものでも飲もっか。何がいい?」

「んー…あ、先生の部屋ってハーブティーありましたよね?」

「あぁいいね、ハーブティー。じゃあぐっすり眠れるようにカモミールにするね」

「ありがとうございます!」


キレイな黄金色の液体が入ったカップを手渡すと、スズはそれを冷ましながら口元へ運ぶ。

美味しそうに飲む姿を見つめながら、隣に座った五条もまた同じように喉を潤した。

お互いに何も話さず、静かな時間が流れる中、不意に五条がスズの肩に頭を乗せる。


「先生?」

「ん〜…俺、スズと一緒にカモミール飲んだらすぐ寝ちゃうかも…」

「ふふっ。運んであげますから、いつでも寝ていいですよ」

「え〜やだよ、もったいねぇ」

「もったいない?」

「せっかく好きな女と2人っきりなのに…寝たら終わっちゃうじゃん。もっと…オマエのこと独り占めしたい」

「(い、色気がすごいんですけど…!これは29歳になったからなの…?)せ、先生こそダメですよ!」

「何が〜?」

「そういうこと、言うと…じょ、女性が皆、先生のこと好きになっちゃいますから…!」

「スズのバカ。オマエにしか言わねぇよ」

「くっ…!」

「……証明してやろうか?」


そう言って体を起こすと、五条はグイっと顔を近づけてくる。

"これは危ない!"と思い、スズは慌てて話題を変えた。


「ス、ストップ!先生、ベッド!ベッド行きましょう!」

「スズちゃん、積極的〜いいよ、行こう」

「違います!そういう意味じゃないですから…!」


終始アタフタしているスズを面白がりながら、五条は彼女の手を引いてベッドへと向かう。

先にゴロンと寝転がると、途端に五条のまぶたが重くなっていく。

スズに手を出すよう促せば、差し出された手をギュっと握り締めた。


「…スズがさっき言ってくれたこと…すげー嬉しかった。俺でも、誰かを幸せにできんだな〜って」

「何言ってるんですか。先生に救われた人は私だけじゃないです。先生は、皆の"光"ですよ」

「そうかな〜」

「そうです。私が保証します」

「なら間違いねぇな」

「ふふっ。はい!」

「……俺も、スズに会えて良かった。オマエがいなかったら、俺はもっと歪んだ人間になってたよ」

「そんなことないですよ。先生はいつだって真っ直ぐ生きてます」

「それは俺が危ない方に行きそうになったら、スズが元の道に引っ張ってくれてるから。

 前も言ったけどさ…スズには一生かかっても返せないぐらい、たくさん守ってもらってんの。ありがとな」

「へへっ。どういたしまして!さっ、先生寝ましょう。もう目が半分ぐらいになってますよ」

「…寝たら帰っちゃうの?」

「(可愛い…!)か、帰らない方が…よろしい、でしょうか?」

「うん。朝まで一緒にいたい」

「で、でしたら…下に布団を敷いて…」

「…」

「……ベッドの上、でしょうか?」

「さすがスズ。本当に俺のことよく分かるね〜」

「でも、あの、私の心臓が「俺、今日誕生日」

「それズルいって言ってるじゃないですか!」

「ふっ。ほら、早く来て」


ふわっと笑いかけられれば、もうどんな抵抗も無意味で…

スズはゆっくりとベッドへ上がり、寝ている五条の横に体育座りをした。


「それ今どういう状態?」

「気持ちを落ち着けているところなので静かにしてて下さい」

「眠いよ〜」

「先に寝てていいですよ」

「え〜じゃあ…おやすみのチューして?」

「ぶふっ!えっ!?な、何言ってるんですか!」

「じゃなきゃ寝れない」

「嘘だ!もう寝かけてるじゃないですか!」

「俺、今日誕生日なんだ〜」

「またそれ!」


テンパるスズに、五条の表情は緩みっぱなしである。

目を閉じて待っていれば、隣で人が動く気配がする。

そして…

触れるか触れないかのキスが、五条のおでこに贈られた。


「お誕生日おめでとう、悟先生。おやすみなさい」



to be continued...



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