スズと別れ高専を出た五条は、用意されていた車の後部座席に乗り込む。
座ってすぐ窓の外に見える高専に目をやる当主を乗せ、伊地知は渋谷へ向かって車を発進させた。
第110話 人外魔境新宿決戦@
「…五条さん。少し…話しかけてもいいですか?」
「いいよ。何?」
「木下さんは…お連れしなくて良かったんですか?」
「何で?」
「いや、傍にいて欲しいんじゃないかと思ったので…」
「そんなの…いて欲しいに決まってんじゃん」
「まだ、戻れますよ…!」
「いい。戻ったら、困るのは伊地知だよ?」
「え?」
大一番を控えた五条のためになることをして、何故自分が困るのか…
言われている意味が分からず、返事に窮する伊地知に対し、五条は静かに話し始める。
「僕ね…スズの顔見てると、疲れたとかイライラするとか、そういう負の感情がスーッてなくなるんだよね。
笑顔で僕の名前呼んでくれるだけですごく幸せな気持ちになって、気づいたら自分も笑ってて、スズ以外のことはどうでもよくなる。
…そのぐらい、スズのことが好き。だから、さっきみたいな状況じゃないと離れられないと思った」
「! 皆さんがいる前で、ってことですか?」
「そう。戻って、一瞬でもスズと2人になったら、ぜーんぶほっぽり出して海外とか行っちゃうかもしれない。そしたら困るでしょ?」
「困り、ますね…」
「だから開戦の合図をするまでは、スズとは離れててあげる」
そう言って少し笑みを見せた五条は、再び窓の外に目をやる。
2人の仲が良いことは知っていたが、これほどまでに五条の想いが強かったことに伊地知は驚きを隠せない。
だが同時に安心してもいた。
周りからは最強呪術師として一目置かれ、その破天荒さから敵も多い。
何をするのも1人で、孤独を感じることも多かっただろうと想像できる。
そんな彼が普通の人達と同じように、1人の女性に恋をした。
彼女の前では雰囲気も表情も柔らかくなり、彼女の話をする時の声はとても優しい。
話題を振れば、"好きだ"・"傍にいたい"と素直に言葉を紡ぐ。
その様子は、自分達と何ら変わりのないものだった。
遠い存在だと思っていた五条家当主が見せる至極普通な一面に、伊地知は安心したのだ。
と同時に、現代最強呪術師を"ただの五条悟"にすることができる木下スズという少女の存在に、改めて感謝と尊敬の思いを向けるのだった。
「夜はお会いになるんですか?」
「うん、僕の部屋に集合って伝えてる。イブだし、イチャイチャしたいじゃん?」
「良いと思います。木下さんならきっと、疲れた心と体を癒してくれますよ」
「知ってる〜でもスズってさ、そういうのすっごい恥ずかしがるんだよ」
「あんまり無茶なこと言っちゃダメですよ?」
「平気だよ。スズは、どんな僕でも受け止めてくれるから」
「そうですね。…1秒でも早く、木下さんのところへ帰りましょう」
「当然でしょ」
不適に笑うその姿は、自信に満ち溢れたいつもの最強呪術師の彼だった。
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