20分程走っただろうか…
伊地知が運転する車は、予め決めておいたビルの前に到着した。
屋上へと向かいながら、五条は渋谷のその後について尋ねた。
「なーんかすげぇ久しぶりな気がするわ、渋谷」
「獄門彊の中の時間感覚はどうだったんですか?」
「……仕事がクソ忙しいときに近いかな。1週間とかあっという間に過ぎるんだけど、絶対にやり直したくはないくらい長い矛盾」
「最悪ってことは分かりました」
「…地下5階の人たちはどうなった?」
「ここは渋谷事変で湧いた呪霊の爆心です。東京の非術師は、渋谷に近いほど生存率が低い。
ですが地下5階は、五条さんの残穢で呪いが全く寄りつきませんでした」
「"無量空処"の後遺症は?」
「ありません。既に全員社会復帰を果たしています」
「そりゃ結構。じゃあぼちぼち始めようか…歌姫、お爺ちゃん」
屋上には、先に到着していた歌姫と楽巌寺が準備を整えていた。
伊地知の結界でこちらの気配を隠し、歌姫の呪詩・掌印・舞、そして楽巌寺が奏でる楽で五条の呪力総量及び出力を底上げする。
そして彼自身も一切の手順を省略せずに、奥義を繰り出した。
「"九網"…"偏光"…"烏と声明"…"表裏の間"……虚式・"茈"」
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五条が伊地知と共に渋谷へ向かっている頃…
スズ達もまた場所を移動していた。
向かうは渋谷と新宿の真ん中辺りにある、冥冥がセッティングしたとあるビルだ。
メインの部屋にはモニターやスピーカーがオブジェのように高く積まれており、その周りは配線だらけという何とも武骨な造り。
申し訳程度に置かれた正方形の箱が、見守る者達のイス代わりだった。
それぞれが空いた箱を見つけて腰を下ろす中、この後現場へと向かうスズはいつでも出発できるよう出入口付近で待機していた。
そんな彼女の元に、1人の人物が近づいて行く。
「スズ、オマエ何でこんなとこ立ってんだ?」
「鹿紫雲!」
「座んねぇのか?」
「私この後現場に行くから、出やすいようにと思って」
「はぁ!?」
「あ、いや、違うよ!先生の戦いに手出すとかじゃなくて…」
「俺が気にしてんのはそこじゃねぇ!」
「え?」
「オマエ正気か?少しでも流れ弾くらったら…一発で死ぬぞ?」
スズの両肩を掴み、真剣な顔でそう告げる鹿紫雲。
肩に感じる力の強さと向けられている表情から、彼がすごく心配しているということが伝わって来た。
スズはお礼を伝えてから、鹿紫雲を安心させるように語りかける。
「ありがとう、鹿紫雲。でも大丈夫。先生がね、私に攻撃が向けられることはないって言ってくれたから」
「そんなの分かんねぇだろ!どんだけ気をつけてても、興が乗れば暴走するかもしれない。
そもそも…アイツらが揃って領域展開すれば、否応なく巻き込まれる。俺は……スズが死ぬとこを見たくねぇ」
「鹿紫雲…」
「おいおいおい、オマエも木下に懐いてんのか?」
2人のやり取りに突如入って来た日下部は、そう言いながら呆れたような表情を鹿紫雲に向ける。
会話を邪魔されて不機嫌になる鹿紫雲を落ち着かせるように、日下部は静かに話し始めた。
「俺も最初この話を聞いた時は、オマエと同じことを思った。
戦いの場…ましてや最強同士が戦ってる場所にいて、無傷でいられるなんてことは有り得ねぇ」
「だから止めてんだよ」
「気持ちは分かる。でもな…木下だけは例外だ。他の場なら分からんが、今回に限っては問題ないと思ってる」
「根拠はあんのか?」
「オマエと同じように、五条と宿儺も木下に懐いてる」
「いや、2人も鹿紫雲も、別に懐いてるわけでは…!」
「「オマエは一旦黙ってろ」」
「は、はい…」
鹿紫雲と日下部の圧に押され、自分のことにも関わらずスズは何故か小さくなっている。
その様子に微塵も気づかず、大人組は会話を続けていた。
「アイツらにとって、呪力を把握することは呼吸すんのと同じレベルだ。ましてや気に入った女の呪力なら、どんな状況でも確実に捉えられる。
居場所が分かれば、そこを避けて相手に攻撃すればいいだけの話だ。頑張りゃ俺でもできる。アイツらにできないわけはねぇ」
「領域展開はどうすんだよ」
「…どうなんだ、木下?」
「あ、えっと…悟先生の領域には何度か入ったことがあります。渋谷で、先生に触れてなくても影響が及ばないことは確認済です」
「宿儺の方は?」
「…前は、"領域の攻撃対象から外してる"って言われました。でも今もそうしてくれるかは…」
「今回は攻撃対象になってたらどうすんだよ」
「……そん時はそん時。五条が意地でも守るだろ。そこのリスクよりも、木下が現場にいるメリットの方がでかい」
「メリットだぁ?」
「宿儺の意識が少しでもコイツに向けば、五条にチャンスが生まれるかもしんねぇだろ?」
「! その考えはなかったです。私、頑張ります…!」
「「オマエは頑張んなくていい」」
「は、はい…ごめんなさい」
またしても強めの圧に押され、ますます小さくなるスズ。
俯きながらちょこんと立っている彼女の姿に、鹿紫雲はじっと視線を注ぐ。
"納得したみてぇだな"という日下部の言葉が聞こえ顔を上げれば、鹿紫雲が渋々頷くのが見えた。
日下部が去るのを待って、再び鹿紫雲が声をかけてくる。
「…膝」
「え、膝?」
「オマエの膝で、もっかい寝たい」
「あははっ!じゃあ正の領域もおまけでつけるね」
「おぅ。……やっぱり、スズといると変な気持ちになる」
「またそうやってからかう!もうその手には乗りません」
「…今度はやらしい意味で言ってる」
「へ?」
「膝枕だけで済めばいいな」
不意に妖艶な雰囲気になったかと思えば、鹿紫雲は耳元でそんなことを囁く。
少しずつ頬が赤くなっていくスズに楽しそうな笑みを向け、彼はヒラヒラと手を振りながらモニターの方へと向かう。
「か、鹿紫雲!?」
「危なくなったらすぐ行ってやるよ」
「そ、それは…ありがと…!」
思わぬ展開に動揺していたスズだったが、突如聞こえてきた盛大な爆発音に表情が戻る。
モニターに目を向ければ、新宿方面から大量の土埃が立ち昇っていた。
to be continued...
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