スズのお陰で右腕の治療に呪力を割かずに済んだ。
何より想い人の行動で癒された五条は、この終盤に来てまた1つギアを上げる。
肉弾戦で宿儺と魔虚羅それぞれを圧倒すると、一転して落ち着いた声音で呪詞を唱える。
出力を上げ、天に向けて放った"赫"は様々な妨害を乗り越え、先刻放った"蒼"の元へと向かって行った。
当主が繰り出したのは、順転の"蒼"と反転の"赫"が衝突することで生み出される五条家秘伝の術式。
「"九網" "偏光" "烏と声明" "表裏の間"……虚式・"茈"」
放たれた"茈"は、元の状態を思い出せない程に新宿全体を吹き飛ばす。
建物も道路も、そして魔虚羅も…全て瓦礫の一部となったのだ。
術師本人も巻き込む無制限の"茈"は、呪いの王に大ダメージを与えていた。
双方ボロボロの状態をモニターで見ながら、日下部は独り言のように話し出す。
「…両面宿儺が味方になったらどうなんだろうな」
「急にどうしたんだ、日下部」
「この勝負、五条が勝つのがもちろん一番いい形だ。でも宿儺がいれば、俺らの仕事が減るんじゃねーかなぁと思ってよ」
「呪いの王が他の呪いを支配して、制御してくれるかもしれないと?」
「そうなったら楽できるよな〜とか思ったりしたことがあったわけよ」
「そんなの無理だって!宿儺がこっちの言うこと聞くわけない」
「いるだろ、1人。王様に言うこと聞かせてる奴が」
「えっ?」
「この世界の命運を握ってるのは…オマエの同期だよ、虎杖」
目を見開いた虎杖が視線を向けたモニターに、カグツチに支えられて現場に立つスズの姿があった。
------
----
--
"茈"の影響が及ばないところまで避難していたカグツチは、戻ってくる途中で目を覚ましたスズと共に戦場へ降り立った。
まだ少しフラついている主を支えながら、五条と宿儺をその視界に入れる。
荒地に立つ2人は、普通なら死んでもおかしくないぐらいの傷を負っていた。
それでもまだ戦おうと動き出す彼らを前にして、スズの目にはじわっと涙が溜まる。
見かねたカグツチは彼女の頭にポンと手を置くと、ニッと笑って見せた。
「カグツチ…?」
『おい!!俺の主、泣かせてんじゃねぇよ!』
「「! スズ…」」
「ちょ、ちょっとカグツチ…!」
『アイツらに伝えたいことあるだろ?スズの言葉は、絶対あの2人に届く。惚れた弱みってやつだ!』
「本当…?」
『おぅ!逆にスズの言葉以外、アイツらの耳には届かねぇよ。俺は一旦引くけど、また泣かされたらすぐ呼べよ?』
「うん。ありがとう…!」
カグツチが去った後の現場は、さっきまでの争いが嘘のように静まり返っていた。
自分の言葉を聞き洩らさないよう、2人がこちらに意識を向けているのが分かる。
スズはゆっくりと言葉を紡いだ。
「…戦いの邪魔して、ごめんなさい。でも…もう、戦わないで欲しい…です」
「「…」」
「これ以上、2人が傷つくところを……見たくないです」
「俺が傷つくのも嫌なのか?」
想い人の言葉に反応し、最初に声をかけたのは宿儺であった。
俯いていた顔を上げれば、すぐ傍に王が立っていた。
痛々しいその姿を直視できず、スズはまた視線を下に向ける。
「……分からない。でも宿儺はさ、私に危険が迫った時、必ず助けてくれたでしょ?」
「当然だ」
「いつも…その想いだけは真っ直ぐ私に伝わってた。だからたくさん酷いことしてるのに…私は心の底から宿儺を嫌いになれない」
「なら…オマエは俺をどうしたいんだ?」
「え?」
「この世の中で、俺に意見を言えるのはスズだけだ。オマエの言うことなら、聞いてやってもいい」
「…もう、誰も傷つけないで欲しい。できるなら…私たち呪術師と一緒に、この世界を守って欲しい」
「ほぉ…大きく出たな。だが俺はオマエの言葉しか聞かぬ。周りの奴らと共に何かをするつもりはない。どうする?」
「どうするって言われても…」
「自分の想いを実現するために必要な力を、オマエは既に持っているぞ」
「私が?」
「あぁ。スズの言葉を聞き、周りの奴らと共に動く者達が傍にいるだろう」
「……式神?」
まさかと思いながら答えたスズに、宿儺は口角を上げる。
それは問いに対する答えが合っていることを示していた。
「何か契約の儀はないのか?」
「な、ないよ、そんなの…!」
「ふむ、そうか…なら、これで契約完了ということにしよう」
そう言って、宿儺は慣れたようにスズのおでこへキスをした。
突然のことにスズはもちろん、戦いを見守っていた側も呆然とする。
1人満足気な宿儺は、のんびりと自身に対し反転術式を施していた。
「えっ!?ちょ、そんな簡単に…!何で…呪いの王なんでしょ!?」
「そんなのは周りが勝手に呼んでいるだけだ」
「だからって…!」
「惚れた女と交わした約束の方が、俺にとっては優先すべきことだ」
「約束?」
「俺がいる限りオマエに傷を負わせない、オマエを1人にしない…そう約束しただろ?」
「!」
「何か不満か?」
「そ、そうじゃないけど…!私、嫌いって、言ったのに…」
「オマエは俺への感情がブレ過ぎだ。口でいくら言っても、憎からず思ってることはすぐに分かる」
「えっ…」
「ふっ。これからは一番近くで守ってやるからな」
「宿儺…ありがとう…!」
「退屈させるなよ?主」
言いながらフッと笑みを見せた宿儺は、自分の主を抱き締めようとしたのだが…五条がそれを黙って見ているわけはなく。
軽めの呪力を宿儺の顔めがけて飛ばすと、スズを引き離して後ろから抱き締めた。
「悟先生!」
「新人式神が主に手出そうなんておこがましいよ?」
「…クソガキが。スズ、コイツとは定期的に戦わせろ。でないと体が鈍る」
「えっ!?無理だよ!2人が戦ったら、あちこち荒地になっちゃう!」
「おじいちゃんはすぐ体にガタが来ちゃうから大変だね〜」
「先生も!煽らないでください…!」
スズを間に挟んでの口喧嘩は、さっきまで殺し合いをしていたとは思えないほど幼稚なもので…
だが誰も傷つかないこの平和な喧嘩を、世界中の人間が待ち望んでいた。
to be continued...
- 315 -
*前次#
ページ:
第0章 目次へ
第1章 目次へ
第2章 目次へ
第3章 目次へ
第4章 目次へ
第5章 目次へ
第6章 目次へ
第7章 目次へ
短編 目次へ
章選択画面へ
home