部屋を出たスズは、すぐにあることを思い出し立ち止まる。
師匠は家入の治療を受けていたのだと。
だとすれば、今いるのは自宅ではない。
だが足早に医務室へ向かいドアを開ければ、そこには校医の姿しかなかった。
「ハァ…ハァ…あれ、悟先生は…?」
「自宅に戻った」
「えっ。入院とかしなくていいものなんですか?」
「しろって言ったよ。でも全然言うこと聞かなくてさ〜理由聞いたの」
「理由…」
「そっ。何でそんなに帰りたがるのか?って。そしたら…」
「そしたら?」
「部屋で待ち合わせしてるんだってさ」
「!」
「その子との約束たくさん破っちゃったから、今度は絶対守りたいんだと」
全てを知っているかのように、家入はそう言って微笑みながらスズを見つめた。
彼女の言葉1つ1つに刺激され、スズの脳内に新宿出発前の五条の姿が浮かぶ。
"夜は俺の部屋集合ね"
あの時確かにそう言っていた。
治療よりも自分と交わしたその言葉を優先するなんて…と、スズは一気に胸が熱くなる。
「私、行ってきます…!」
「うん、いってらっしゃい。いいクリスマスイブを」
照れくさそうな笑顔を見せる妹分を見送った家入は、満足気な表情で一升瓶の蓋を開けた。
最終話 呪愛少女 〜五条悟と共に〜
途中で大量の甘いものを買い、寒さも忘れて五条家へと走る。
勝手知ったる第二の実家の門を抜け、慣れた足取りで自分達の部屋が並ぶ場所へと向かった。
息を整えてから、いつもそうするように"コンッココン"とドアを叩いて返事を待つ。
しかし"開いてるよ〜"の言葉を待っていたスズの耳に聞こえてきたのは、何故かスリッパの音で…
次の瞬間ガチャとドアが勢いよく開き、笑顔の五条が姿を見せた。
「スズ!」
「先生!動いちゃダメですよ!」
「平気平気〜硝子には家から出るなとしか言われてないから」
「いや、それは安静にしてって意味で…!」
「そんなことより寒かったでしょ。早くこっちおいで?」
スズの言葉をサラッと受け流し、五条は嬉しそうに彼女の手を引いた。
室内はちょうどいい温度に温められ、テーブルの上にはティーセットが準備されている。
自分のことを迎える気持ちが溢れたその部屋に、スズはまた温かい気持ちになった。
「準備…しててくれたんですか?」
「うん!スズなら絶対来てくれると思ったから」
「でも、体ツラかったでしょ?」
「全然。…スズとの約束破る方が、俺にとってはしんどかった」
「先生…」
「来てくれてありがと」
手を繋いだまま、優しい笑みを想い人に向ける五条。
相手がドキドキしているのが伝わると、彼の表情はますます穏やかになるのだった。
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スズをいつもの席に座らせた五条は、お茶会の準備をするためミニキッチンへと向かう。
終始楽しそうな彼の行動を止めるのは気が引けるが、それでも何とかスズは立ち上がった。
「先生、待って!私がやります!」
「え〜いいよ〜お見舞い来てくれたんだから、おもてなしさせて?」
「ダメです!体に障りますから…!」
「大丈夫だって、もう全部治ってるんだから。あとは安静にしてればいいだけ」
「その安静ができてないじゃないですか!」
「こんなの安静の内でしょ。本当にスズは俺に優しいよね〜」
「! ……好きな人に優しくするのは…当たり前のことです」
「えっ」
スズが小さく漏らした言葉に、五条は耳を疑う。
バッと振り返れば、耳まで真っ赤になった想い人が恥ずかしそうに俯いていた。
その姿を見て、今自分の耳に入って来た言葉が聞き間違いではないことが分かる。
続けて何か言おうと頑張っている様子を、五条は至極穏やかな表情で待つ。
「せ、先生、あの…!」
「ん〜?」
「少し、お話、しても…いいですか?」
「もちろん。じゃあそっち座ろっか」
「はい…!」
元の場所へスズを座らせ、自身はその横にストンと腰を下ろす。
穏やかな空気が部屋に充満していくのを感じながら、五条は少女の言葉を待った。
「私にとって先生は、お兄ちゃんみたいな存在で…優しくて強い先生を頼って、いつも甘えてました」
「うん」
「修行中は厳しいこともあったけど、それでもやっぱりすごく優しくて、そのお陰でここまで成長できたと思います」
「うん」
「高専に入ってからは、先生の強さをより身近に感じるようになって、呪術師として尊敬することばっかりです」
「ふふっ、ありがと」
「だから…告白してもらった時、本当にビックリしました。そういう目で、先生を見たことなかったから…」
「そうだよね」
「でも!全然、嫌じゃなかったんです」
「!」
「あの日以来、先生の言葉とか行動とか、そういうのに全部ドキドキして…今までどうやって接してたか忘れちゃうぐらいでした。
"好き"って言ってくれたり、ギュッてしてくれたり、その度に心臓壊れそうだったけど…すごく、嬉しかった」
「スズ…」
「…返事、遅くなっちゃったけど……私も、悟先生のことが好きです」
「それは…俺と同じ意味の"好き"って思っていいんだよな?」
「はい。1人の男性として、大好きです!」
今まで見た中で一番の笑顔と共に向けられた言葉に、五条は柄にもなく顔が火照るのを感じた。
それを隠すように手を口元にあてれば、スズが楽しそうに覗き込んで来る。
「先生が赤くなるの珍しい!」
「うるせっ」
「ふふっ」
「……なぁ」
「ん?」
「彼氏として、スズのことギュってしたい」
「は、はい…!」
「じゃあ…ん。来て?」
いつもの調子を取り戻したように微笑みかけながら、そう言って手を広げる五条。
自ら飛び込んでいくことにドキドキしながらも、スズはその胸に体を預け、ゆっくりと背中に手を回した。
直後、想像以上に強い力で抱き締められる。
「先生、苦しいです…!」
「我慢して。今ちょっと力の加減できない」
「えっ?」
「惚れた女に"好き"って言ってもらうのが、こんなに嬉しいって思わなかった」
「へへっ」
「そうだ、1つお願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「俺のこと、"悟"って呼んで?」
「えっ!?」
「やっと恋人同士になったのに、いつまでも"先生"じゃ嫌だ」
「いや、でも…」
「2人でいる時だけでいいから!ねっ?」
「……頑張ります」
キラキラした笑顔に負け、スズはそう言葉を返す。
脳内でシミュレーションをしながら、もごもごと口を動かしている愛しの彼女を、からかわずにはいられない年上彼氏。
早速呼んでみてと、相手を困らせ始めた。
「1回だけ!お願い!」
「まだ心の準備が…!」
「さっきもごもごしてたじゃん。あれ練習じゃなかったの?」
「練習、ですけど!こんなすぐは…!」
「悠仁とか恵のことは呼んでるのに…」
「2人は同期ですから!」
「…」
「(これガチで拗ねてる感じだ…よし。頑張れ、私!)そんな顔しないでください…悟さん」
「!」
「私にとっての特別は、もう悟さんだけです。…私、愛情表現がたぶん下手、だから…そういう部分も含めて、頑張ります…!」
「頑張んなくていい。頑張んなくても、スズの俺への気持ちはちゃんと伝わってる」
「本当ですか…?」
「うん。だってさっきからずっと体熱いもん」
「なっ…!」
「ふっ。…ごめん、俺が大人げなかった」
「そんな…!私も悟さんみたいに、真っすぐ気持ちを伝えられるようになりたいです」
「…スズ」
「はい」
「キスしよ?」
「えっ!」
「まだ、心の準備できてない?」
気遣うように優しいトーンで尋ねる五条に、スズは目も心も奪われる。
"大丈夫です"の意味を込めて首を横に振れば、五条はふわっと微笑みかけた。
そして緊張気味に目を閉じているスズと、触れるだけのキスを交わす。
離れて目を合わせると、スズも恥ずかしそうに見つめ返した。
「スズの気持ち、真っすぐ伝わった」
「!」
「俺のも伝わった?」
「はい…!」
「良かった」
「あの、悟さん…もう1回…」
「したいの?」
「うん」
「俺も」
恋人からの可愛いおねだりに、五条は押し倒しそうになるのをグッと堪える。
さっきよりも少し長めのキスをして恥ずかしそうにしているスズのおでこに、最後にもう一度唇を寄せた。
「愛してるよ、スズ」
「! …私も、悟さんのこと大好きです!」
「知ってる」
「ふふっ」
「明日さ、クリスマスデートしようよ」
「行きたいです!前に考えてくれたプランですか?」
「んーそうしようかと思ったけど、あれはクリスマス感ないんだよね」
「あ、そっか」
「だから…お菓子食べながら一緒に考えない?」
「うわっ!それ最高です!」
穏やかな空気とハーブティーの良い香りに包まれながら、2人の会話は途切れることなく続いた。
結果夜更かしをして、翌朝揃って寝坊するのは…また別のお話。
fin.
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