部屋を出たスズは、歩き慣れた廊下を進む。
伏黒と釘崎は入院加療中のため、今この階には自分達しかいない。
周りの静けさとは裏腹なドキドキとうるさい心臓を感じながら、スズは虎杖の部屋のドアをノックした。
最終話 呪愛少女 〜虎杖悠仁と共に〜
"はーい"という元気な声と共にドアが開き、ラフなパーカー姿の虎杖が姿を見せる。
相手がスズだと分かった途端、驚きと喜びが混ざったような表情になった虎杖。
だがそれを瞬時に隠すと、何気ない調子で声をかけた。
「どうしたの、スズ?」
「突然ごめんね。あの、ちょっと話したいこと、あって…少しだけ、時間もらえないかな…?」
「おう!全然いいよ!入って、入って」
「ありがと」
暑がりの虎杖らしく、部屋の暖房は最小限だ。
それでも寒さを感じないのは、一世一代の告白を前に、スズ自身の体が熱くなっているからだろう。
少し部屋をキョロキョロしてから適当な場所に座ると、虎杖がすかさず温かいココアを手渡した。
「ありがとう!悠仁って、ココア作り置きしてるの?」
「あははっ!違う違う。何か甘いもの飲みたいな〜と思って作りかけてる時にスズが来てくれたってだけ」
「そっか!そうだよね」
「うん。…でもタイミング良く作ってた自分に感謝かな」
「え?」
「イブにスズと一緒にココア飲めるとか最高じゃん」
そう言った虎杖の耳が赤くなっているのを見て、スズの頬もまた同じ色になる。
落ち着いた空間の中で、2人はしばらく静かにココアを味わっていた。
スズと虎杖は、今までにも何度かこういう状況になったことがある。
そんな時、いつも最初に口を開くのは虎杖の方であった。
「…やっぱスズってすげぇな」
「え?」
「だってさ、ついさっきまで世界が終わるかもしんない戦いしてたんだよ?なのに今は、こんなに穏やかにココア飲んでる。
治療中の人もいるけど皆生きてるし、元気な人はきっと今イブの夜を楽しんでると思う。
それもこれも全部、スズが宿儺を抑え込んだからできてることじゃん」
「そんなすごいことしてないよ…!」
「してるよ。俺が今こんなに幸せなのもスズのお陰だもん」
「悠仁…」
「へへっ。なんてね」
照れ臭そうにまたココアを口に運ぶ虎杖を見つめながら、スズは改めて自分の気持ちが彼に向いていることを自覚する。
そして胸に秘めていた想いを静かに話し始めた。
「私ね、本当にそんなすごいことしてないの。宿儺をどうにかしなきゃとか、皆を守らなきゃとか…
そういう風に考えて動いたことって、正直…一度もなかったと思う」
「そうなの?」
「うん。私は、いつも宿儺の向こうに…悠仁を見てた」
「えっ」
「悠仁の心と体が傷つかないように、とか…悠仁をどうにかして守りたい、とか…そんなことばっかり考えてた気がするんだ」
「スズ…」
「私の行動の原動力は、いつだって悠仁だった。悠仁が笑顔になれるなら、どんな大変なことでも頑張れた」
「待って。この状況でそんなこと言われたら…俺、勘違いしちゃうって」
「…勘違いして欲しくて言ってる」
「!」
「悠仁が、"返事はいらない"って言ってたから…伝えようかどうかずっと迷ってた。
でも私は悠仁の気持ちを聞けて嬉しかったし、ちゃんと答えたいなって…思ったんだ。
…私ね、悠仁のことが好きみたい」
「! 本当に…?」
「本当に。冗談言うために、イブの夜に男子の部屋なんか来ないよ…!」
恥ずかしさを隠すように、少し怒った調子でそう言うスズ。
そんな彼女の姿を見つめながら、虎杖は今自分が言われたことをもう一度脳内で再生する。
次の瞬間、彼は顔を隠すように両腕で頭を抱えた。
突然の行動にスズが声をかければ、当の本人は消え入りそうな声で言葉を返すのだった。
「悠仁…?」
「ヤバイ…嬉し過ぎて、頭と心臓が爆発しそう…」
「ふふっ」
「スズ…さっきの、もっかい言って?」
「…悠仁のことが好き。悠仁は、まだ私のこと…その…」
「好きだよ。出会った日からずっと、嫌いになったことなんかない。
むしろ一緒にいればいるだけ好きになって、気づいたらスズのことばっか考えてて…もう好きになりたくないって、思ったこともある」
「悠仁…」
「…本当に俺でいいの?」
「うん、悠仁がいい」
「俺も…スズ以外考えらんない」
穏やかに微笑んだ虎杖は、隣に座っていたスズをギュっと抱き締めた。
体温高めの体に心地よさを感じながら、スズもまた彼の背中に手を回す。
どのぐらいそうしていたのだろう。
互いに居心地が良すぎて、離れるのを忘れたかのようにずっとくっついていた。
今回の静寂もまた、虎杖の一声で破られた。
「スズ」
「ん?」
「……キスしたい」
「!」
「…ダメ?」
体を離しそう問いかける虎杖は、いつもの明るくやんちゃな雰囲気ではなく…
時折見せる、大人な空気を纏う彼であった。
思わず見惚れながらも"ダメじゃない"と返事をすれば、ふわっと微笑んだ後、チュッと唇を重ねた。
「スズって唇もやらかいんだね」
「えっ!そ、そう…かな」
「うん、すげー気持ちいい」
「恥ずかしいって…!」
「ははっ!…もっとしたいけど、これ以上したら押し倒しちゃいそうだからやめとく」
「…押し倒していいよ、って言ったら?」
「えっ!?」
「…ふふっ。あははっ!冗談ですー!」
「もう…!その冗談笑えないから!つーか、あんま煽らんで…?」
「へ?」
「俺…今結構頑張っていろいろ抑えてるから」
「!」
「明日クリスマスでしょ?スズとデート行きたいって思ったけど、今日しちゃったら、体に負担かけちゃうし…
でもさっきのキスで、うっかりスイッチ入りそうになって…とにかく必死に抑えてんの」
「ご、ごめん…!」
「…悪いって思うなら、もっかいキスさせて?」
「押し倒さない…?」
「倒さない!明日はクリスマスデートって決めてんだから!」
ニカッと笑った虎杖があまりに可愛くて、今度はスズの方から唇を奪った。
愛しの彼女からの不意打ちの行動に、虎杖の顔は一気に赤く染まる。
「ちょ、それは、なしでしょ…!」
「へへっ。好きだよ、悠仁!」
「俺も。スズのこと大好き!」
満開の笑顔を向け合った2人は、もう一度ギュっと体をくっつける。
明日無事にデートへ行けたかどうかは…
ここでは記さないことにしよう。
fin.
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