一方、何とか生き残った伏黒と釘崎は、敷地内にある神社のような場所で階段に座っていた。
話題に上がるのは、今ここにいない2人の同級生のこと…
「長生きしろよって…自分が死んでりゃ世話ないわよ。…アンタ、仲間が死ぬの初めて?」
「同級生は初めてだ。」
「ふーん、その割に平気そうね。」
「…オマエもな。」
「当然でしょ。会って2週間やそこらよ。そんな男が死んで泣き喚く程、チョロい女じゃないのよ。」
髪の毛に隠れて表情は見えないが、強気な言葉とは裏腹に、釘崎の口元には悲しさやツラさが表れていた。
彼女の様子を横目で見ている伏黒もまた、その表情は冴えない。
そしてもう1人の同級生の話が出たのは、2人が揃って首に下げた勾玉を触るのとほぼ同時だった。
「それで?スズはいつ戻ってくんのよ?」
「…脈も呼吸もねぇんだ。そんな簡単に戻ってくるわけねぇだろ。」
「でも死んでないんでしょ?」
「普通に考えたら死んでるよ…少し呪力が流れてるだけだ。家入さんも、目が覚める可能性は低いって言ってたらしい。」
「何よそれ……私、スズに漫画もCDも洋服も、全部貸したまんまなのよ?帰ってきれくれなきゃ困るんだけど。」
「…ああ。」
「アンタ、スズと付き合い長いんでしょ?大丈夫なの…?」
「大丈夫なわけねぇだろ。でもスズは、虎杖と違ってまだ死が確定したわけじゃない。信じて待つしかねぇよ。」
「待つわよ…いくらでも。」
「暑いな。」
「…そうね。夏服はまだかしら。」
また2人の表情に陰りが増していく…
虎杖やスズと出会った頃から季節は変わり、夏がもうすぐそこまで迫っていた。
と、伏黒と釘崎の会話が途切れたタイミングで、2人の前に新たな人物が姿を見せる。
「なんだ、いつにも増して辛気臭いな、恵。お通夜かよ。」
「禪院先輩。」
「私を苗字で呼ぶんじゃ…「真希、真希!!」
「?」
「まじで死んでるんですよ、昨日!!一年坊が1人!!」
「おかか!!」
「は?スズは死んでねぇだろ。」
「スズはな!それ以外にもう1人いるんだって!!」
「は・や・く・言・え・や!これじゃ私が血も涙もねぇ鬼みてぇだろ!!」
「実際そんな感じだぞ!?」
「ツナマヨ。」
突如現れ、何やら勝手に騒いでいる3人の人物。
いずれも伏黒や釘崎の先輩に当たる、2年生チームの面々だ。
ポニーテールと眼鏡が似合う、呪具使い・禪院真希。
口元まで覆ったネックウォーマーが特徴の、呪言師・狗巻棘。
パンダの着ぐるみが歩いているようにしか見えない、謎の先輩・パンダ。
「あと1人、乙骨先輩って唯一手放しで尊敬できる人がいるが、今海外。」
「アンタ、パンダをパンダで済ませるつもりか。」
「いやースマンな、喪中に。許して。だがオマエ達に、"京都姉妹校交流会"に出てほしくてな。」
「京都姉妹校交流会ぃ?」
野薔薇が知らないのも無理はない。
この交流会は、京都にあるもう1校の高専との合同イベントであり、メインで参加するのは2・3年なのだ。
だが今年は3年が停学中であり、参加人数が足りないため、伏黒達に白羽の矢が立った。
そして釘崎からの、"交流会って何をするの?"という至極当然の疑問に、パンダが答え始める。
「東京校・京都校それぞれの学長が提案した勝負方法を1日ずつ、2日間かけて行う。
つってもそれは建前で、初日が団体戦、2日目が個人戦って毎年決まってる。」
「しゃけ。」
「個人戦、団体戦って…戦うの!?呪術師同士で!?」
「あぁ。殺す以外なら何してもいい呪術合戦だ。」
「逆に殺されない様、ミッチリしごいてやるぞ。」
そう。3人の目的はズバリこれである。
交流会で負けないために、後輩を鍛えに来たのだ。
幸い、これからの時期は呪いが落ち着いてくるタイミングであり、呪術師にも余裕が生まれる。
この暇な時間を活用しない手はないというわけ。
「やるだろ?仲間が死んだんだもんな。」
「「やる。」」
真希からの問いかけに、即答する伏黒と釘崎。
2人の胸の内には、当然のごとく今ここにいない同級生の存在がある。
強くなるためなら、なんだってやる…!
今の彼らに、それ以外の選択肢は考えられなかった。
「でもしごきも交流会も、意味ないと思ったら即やめるから。」
「同じく。」
「ハッ。」
「まあ、こん位生意気な方がやり甲斐あるわな。」
「おかか。」
「あとはスズか…戻って来れれば、もっと面白くなるんだけどな。」
「しゃけ!」
「そうだな、スズは戻ってくるよな。ほら真希、棘が怒ってるから言い方気をつけろ〜」
「悪ぃ悪ぃ。私だって、戻ってくるって信じてるよ。」
こうして、伏黒・釘崎と2年生チームの特訓が始まろうとしていた。
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