「僕はさ、性格悪いんだよね。」

「知ってます。」

「伊地知、後でマジビンタ。」

「(マ…マジビンタ?)」

「教師なんて柄じゃない。そんな僕がなんで高専で教鞭をとっているか聞いて。」

「なんでですか…?」

「夢があるんだ。」


高専内の霊安室で、五条は伊地知に対してそう告げる。

彼が向ける視線の先には、未だに意識が戻らないスズの姿があった…





第11話 ある夢想





伊地知が五条の夢について聞こうとしていた頃…

謎の空間で睨み合う虎杖と宿儺は、何とも険悪な雰囲気のまま会話を続けていた。


「随分と殺気立っているな。」

「当たり前だ。こちとらオマエに殺されてんだぞ。」

「腕を治した恩を忘れるとはな。」

「その後心臓取っちゃったでしょーが!!」

「静かにしろ。俺の女が寝て…と、起きたか。」

「宿儺…?」

「ふっ…いつまで寝ている。待ちくたびれたぞ…スズ。」


寝ぼけた声で宿儺の名前を呼ぶのは、伏黒の前で突然意識を失ったスズだった。

自分の膝の上に頭を乗せている彼女に笑みを向けると、宿儺は愛おしそうにスズの頬を撫でる。

そのまま少し手を貸してやれば、寝起きの少女は目を擦りながら体を起こした。


「…宿儺、なんか服装が違う。」

「はぁ〜…もう少し色気のある第一声はなかったのか?」

「い、色気って…!」

「スズ!!」

「! 悠仁!?嘘…生きてる…!」


心臓を失い死亡したはずの虎杖の登場に、スズは驚きながらも喜びを露わにした。

すぐさま彼の元へ駆けつけようとするが、彼女がいるのは牛の骨が積み上がってできた高所だ。

足元の骨が崩れ、転げ落ちそうになるスズの腰をガッと掴むと、宿儺は自分の方へ引き寄せた。


「ビックリした…ありがと、宿儺…!」

「俺を置いて、他の男の元へ行くとは…いい度胸だな。」

「ご、ごめんなさい…でも悠仁がいたから…嬉しくて…!」

「…気に食わん。」

「おい、宿儺!!なんでスズがここにいんだよ!スズに何した!」

「何もしてない。ただスズの中に少し仕掛けをしただけだ。」

「仕掛け?」

「俺とオマエが入れ替わったタイミングで、スズを生得領域に連れ込む…そういう仕掛けだ。」

「そうだったの?いつの間にそんなこと…」

「あの建物を出る前、オマエと目を合わせた時があっただろ?その時にちょっとな。」


仕掛けられた本人でさえ知らないうちに、宿儺の思い通りに動かされていた。

そのことに、スズは改めて彼のすごさと怖さを痛感したのだった。

"これからはもっと宿儺を警戒しなきゃ…"

彼女がそう心に刻んでいた一方で、宿儺がスズまで巻き込んでいたことを知った虎杖は、さらに怒りを爆発させていた。


「(スズまで巻き込みやがって…!)死んでまでテメェと一緒なのは納得いかねぇけど丁度いいや。泣かす。」

「?」

「スズ避けろよ!!」

「え?ちょっと急過ぎない!?」

「…大丈夫だ。大人しくしてろ。」


足元に転がっていた骨を取り上げると、もの凄い力で宿儺の方へ投げつける虎杖。

"避けろ"と言われ、スズは慌てて動き出そうとするが、耳元で聞こえた宿儺の声にピタっと動きを止める。

静かに見上げれば、そこには不適に笑う王の姿があった。


迫り来る骨に、咄嗟に目を瞑ったスズは、不意に自分の体が抱えられるのを感じた。

再び目を開ければ、宿儺に横抱きにされた状態で、さっきまで座っていた場所から少し離れたところにいた。

宿儺がそっとスズを下ろすと同時に、そこへ走ってくる1つの影。

その影は目にも止まらぬスピードでスズを抱えると、一旦宿儺から距離を取った。


「スズは返してもらうからな。」

「ちっ…」

「悠仁!本物…だよね?」

「おう!…心配かけてごめんな。」

「本当だよ……また会えて良かった。」


笑顔を見せた後、謝りながらスズの頭に手をポンと置く虎杖。

スズはそんな彼の心臓辺りを触りながら、心底安心したような声で呟くのだった。

少しの間、とても穏やかな時間を過ごした2人だったが、いつまでもそうしてはいられない。

虎杖はスズを後ろに庇うと、表情を一変させ宿儺の方へ殴りかかる。


「歯ぁ食いしばれ!」

「必要ない。」


虎杖は振りかぶった拳を、勢いそのまま宿儺の足元に打ち込む。

自分に向かってくると思っていた王に生まれた一瞬の隙を突いて、虎杖はその場で足を振り上げたのだが…


「アレ?」

「あちゃ。」

「オマエはつまらんな。」

「ぐぇ。」

「悠仁!!」


決まったと思った虎杖の蹴りは見事に空を切り、難なく避けた宿儺は彼を地上に蹴り落とした。

派手な水音を立てて落ちた同級生を心配するスズの視界に、サッと映り込む着物姿…

すぐに目をやれば、宿儺が後を追って飛び降りたところだった。

宿儺が見事に虎杖の上に着地するのを見て、"ギャー!"と悲鳴を上げながらスズもまた2人の元へ急いだ。


「う"ぼっ!!」

「悠仁、大丈夫!?ちょっと宿儺どいて!!」

「断る。」


顔半分が水に浸かっているためボコボコと変な呼吸になりながらも、虎杖は自分の元へ駆け寄ってきてくれたスズの手をギュっと握りしめる。

それはまるで、少しでも手を離したらまた彼女が奪われると思っているかのようだった。

その様子を面白くなさそうに見ていた宿儺は、ドカッと虎杖の背中に座ると、おもむろに話し始めた。



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