自身の夢の一端を担う2人が復活し、やっと五条からピリピリしたオーラが消えた。
そうして訪れた、場所と似合わぬ穏やかな時間。
スズが普段着に着替え終わるのを待って、2人は大人組から諸々の確認や検査を受けることになった。
当然のようにスズの担当に名乗りを上げた五条を呆れたように見つめながら、家入は虎杖に対する確認作業のため準備を始める。
数十分後…
家入の方は問診や身体検査など、それらしいことをしているのだが、もう1人の担当者はスズと向かい合って座ると、ただただ普通に会話をするばかりだった。
「痛いとか、気持ち悪いとかは?」
「全然!」
「ん。じゃあ大丈夫だな。」
「え、それだけですか?硝子さんみたいに検査とかしないの?」
「検査なんかしなくても分かるから。何年一緒にいると思ってんだよ。」
「あはは!先生、相変わらず〜」
虎杖達が検査のためにバタバタと動き回っているため、今霊安室にはスズと五条しかいない。
彼の話し方がラフなのはそのためだ。
だが教え子の無事を確認し、笑顔でスズの頭をポンと叩いた五条は一転して表情を変える。
「先生?どうかした?」
「…オマエ、宿儺になんかされなかったか?」
「宿儺に…?んー…やたらとスキンシップは多かったけど、それぐらい…あ!」
「ん?」
「ケガ治してもらった!頭と…肋骨のとこ。」
「だからか…」
「何がですか?」
「体の中に、宿儺の呪力が残ってる。」
「! それってマズイ…ですか?」
「いや。オマエの中には俺の呪力も入ってるし、第三者の力が入ること自体は問題ない。厄介なのは…」
"上の連中にこの事実を利用されることだ。"
五条はそう言って、スズ達が目覚める前のような渋い表情を見せる。
ただでさえ陰陽師であるスズは高専内での立場が弱いのに、それに加えて体内に特級呪物の力が残っていると聞けば…
五条が嫌う上の連中はすぐさま彼女を追い出し、最悪その存在を始末しようとするだろう。
そんなことを考え、険しい顔をしている担任の姿に、スズはシュンとして下を向く。
「…ん?オマエなんで急にそんな凹んでんの?」
「いや、だって…陰陽師で、体の中に宿儺の力が残ってるとか…先生に迷惑しかかけてないから。」
「あのな…このぐらいで迷惑がってたら、最初からオマエなんか引き取らねぇっつの。陰陽師の時点で迷惑の塊なんだよ。」
「言い方!!」
「ふっ…だからスズはなんも気にしなくていい。今まで通り、俺の隣ではしゃいでろ。」
「! …先生ー!大好きー!!」
「おっと…!」
「ありがとう、先生…!」
「はいはい。」
いつでも自分を守ろうとしてくれる担任の姿に嬉しくなったスズは、感情の赴くまま五条に抱きついた。
危なげなくスズを受け止めたまま、彼女の心からのお礼を聞いた五条は少し笑みを見せる。
そしてそれを隠すように、わざと呆れたような口調で返事をしながら、教え子の背中を軽く叩くのだった。
それから少しして家入・虎杖コンビと、別件で席を外していた伊地知が戻り、全員で今後の方針を検討することに…
「2人とも体に異常はないから、その点は安心していいよ。」
「あざっす!」
「私、本当に硝子さんの検査受けなくて平気ですか?」
「五条が絶対の自信があるって言うから、それを信じるよ。まぁ、なんかあったらすぐ私のとこおいで。」
「うん!ありがとうございます!」
「じゃあお2人は自室に「待って。」
「「?」」
会話がひと段落したところで、伊地知がスズと虎杖を解放しようとすると、五条がそれを遮るように声を発する。
突然のことにポカンとする面々に向かって、彼はさらに言葉を続けた。
「2人はまだ寮には戻さない。」
「「へ?」」
「悠仁は地下の部屋に、スズは僕の家に一旦連れてく。伊地知、悠仁の方はよろしく。」
「え、あ、はい。分かりました。木下さんの方は?」
「スズは僕が連れてくから、迎えに行くまで悠仁と一緒のとこに。」
"僕は少し硝子と話があるから、先に行ってて。"
そう言ってテキパキと話をまとめると、五条は硝子を伴って霊安室を出ようとする。
そんな彼を、少し不安げな表情で話を聞いていたスズが不意に呼び止めた。
「先生、あの…!」
「ん?……なんか心配事がありそうだね。」
「はい…」
「分かった。じゃあこっちの話終わったらすぐ迎えに行くから、家でゆっくり話聞かせて?」
「うん…」
「…何の話かまだ聞いてないけど、大抵のことは大丈夫。…誰が傍にいると思ってんだよ。」
最後の言葉をスズの耳元で囁いた後、五条は"また後でね"と告げて部屋を出ていった。
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