霊安室を出た五条と家入は、例の1年生コンビの今後について話をしていた。

無事に息を吹き返しはしたものの、五条の考えでは、どうやらすぐに2人を復帰させるつもりはないようだった。


「あー報告修正しないとね。」

「いや、このままでいい。また狙われる前に、悠仁に最低限の力をつける時間が欲しい。記録上、悠仁は死んだままにしてくれ。」

「んー?じゃあ虎杖がっつり匿う感じ?」

「いや、交流会までには復学させる。」

「…じゃあスズだけ修正しとくよ。」

「いや、スズの方もそのままでいい。復学は悠仁と同じタイミングにする。」

「なんでスズまで。あの子は自分の身を守るぐらいの力はあるでしょ。」

「スズの体の中には宿儺の呪力が残ってる。それを取り除きたい。今のまま復学させたら、上の連中に何されるか分かったもんじゃないからね。」

「…分かった。にしてもなんで2人とも交流会までに復学させるのさ?」

「簡単な理由さ。若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね。」


"じゃあ書類よろしく〜。僕はこのままスズのとこ行くから。"

階段を降りながら続けてそう言った五条は、ひらひらと手を振りながら家入と違う方向へ歩き出す。

そんな自由な彼の後ろ姿を見送っていた彼女は、だいぶ前から思っていたことを彼に伝えた。


「…五条。」

「ん?」

「アンタいい加減、自分の気持ちに気づいた方がいいよ。」

「何、急に。」

「スズのこと。いつまでも妹だと思って接してたら…絶対後悔する。」

「? んーなんかよく分かんないけど…とりあえずりょーかーい。」


自分の言葉が全く響いてないことに苦笑しながら、家入も自身の仕事をするため反対方向へと歩き出した。


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夏特有の明るい夕方が終わり、辺りがようやく暗くなってきた頃…

スズは当主に連れられて、五条家へと到着していた。

高専の寮に入る前、スズはここに居候をしていた時期があるため、彼女にとっては馴染みのある第2の家みたいな場所である。

そんな家の門から玄関までの道中で、五条は現状を事細かに妹分へ伝えていく。


今回の任務が、五条の不在を利用した無謀なものであったこと。

虎杖は死亡、スズは意識不明として報告し、上の目から2人の存在を隠すこと。

存在を隠している間、虎杖には最低限の呪術に関する知識と、自分の身を守れるだけの力を身につけさせること。

そしてスズには、あらゆる面で彼をフォローして欲しいということ。

だが彼女を隠す本当の目的は他にあった。それは…


「宿儺の呪力を追い出す?」

「そう。今のまま生活したら、上の連中にますます目つけられるからね。」

「確かに…でも、呪力を追い出すなんてどうやるんですか?」

「俺の呪力で上書きする。」

「上書き?」

「オマエの中にはもう俺の呪力があるだろ?その力と、追加で外から力を加えて宿儺の呪力を抑え込む。まぁそんな難しいことじゃねぇから、あんま心配すんな。」

「はい…!ありがとうございます。」


少し口角を上げた五条にワシャワシャと頭を撫でられると、不安そうにしていたスズに少し笑顔が戻ってきた。

それからさらに数分歩き続け、2人はようやくそれぞれの部屋が並んだ廊下に到着する。


「じゃあ、着替えたらスズの部屋行くから。」

「あ、はい……ごめんね、先生。疲れてるのに。」

「そんなの気にする仲じゃねぇだろ?すぐ行くから待っとけ。」


仕事モードの終わりを示すように、五条が目隠しを外しながらそう言えば、スズは申し訳なさそうな表情のまま、"はい…"と言葉を返す。

そうして、スズと五条は隣同士になっている部屋に入っていくのだった。



5分後…

部屋の中が以前と変わっていないことに驚いていたスズの元に、ノックの音が聞こえてくる。

慌ててドアを開ければ、そこにはラフだが高そうなスウェットに着替えたサングラス姿の五条がいた。


「先生、スーパーOFFモードだね。」

「こんなの見慣れてんじゃん。入るぞ〜」

「あ、はい。どうぞ。」


自分の部屋かと思うほどリラックスした様子で中へ入ると、五条はこの部屋へ来た時に必ず座る座椅子に腰を下ろした。

そして"なにか飲みますか?"と聞いてくるスズの言葉を遮って、座椅子の前に置いてあるクッションをポンポンと叩く。

それは言わずもがな、"早くここに座れ"という意味で…

飲み物の準備もそこそこに、スズは急いでクッションの上に正座した。


「飲み会はスズの不安解消してからな。…何があった?」

「……実は私も、宿儺と縛りを交わしたんです。」

「! どんな?」

「宿儺が呼んだら、私が生得領域に行く。その代わり、私が呼んだときだけ、私を守るために力を貸すって…

 悠仁とか周りの人達に影響がないように条件はいろいろつけたつもりだけど、本当にこの縛りで大丈夫だったかな…って。」

「だからあんな不安そうな顔してたのか。」

「うん…」

「ふーん…の割に頑張ったじゃん。」

「え?」

「なかなかいい縛りだよ。」

「! 本当ですか…?」

「うん。スズにデメリットがないのはもちろんだけど、悠仁にとってもプラスになると思う。

 宿儺が勝手に変わって無茶苦茶やるより、スズの縛りで変わった方が味方殺しとかがない分、悠仁の精神的負担が軽い。

 まぁ仮になんか起こっても、俺が一緒に解決するから。」


"だから大丈夫だよ"

そう言いながら目線を合わせ、スズの頭に優しく手を置く五条。

兄のように慕っている人物からお墨付きをもらい、彼女の顔にもようやく本来の笑顔が戻った。

そしてそんな元気になったスズを見て、五条はポツリと言葉を漏らす。


「…じゃあ今度は俺の番ね。」

「? 先生もなんか不安なことがあるんですか?」

「んー不安とかじゃないんだけど……今日久しぶりにここで寝たいなーって。駄目?」


教え子からの問いかけに少し笑みを見せると、座ったままスズの腰に手を回し、肩におでこをつけて寄りかかる五条。

普段の飄々とした態度や、生徒達に見せる強気な姿勢とは全く違う…子供のように甘える今の彼は、スズだけが知るかなりレアな姿だ。

だが彼女自身は昔から何度となく見ているので、特に意識することなく普通に返事をする。


「ここで寝るのは全然構わないですけど…また寝れてないんですか?」

「寝てはいるんだけどさー…浅くてすぐ起きちゃうんだよね。」

「やっぱりカウンセリングかなんか受けた方がいいんじゃ…」

「カウンセリングなら、もう受けてるよ。」

「! あ、そうだったんですか!」

「うん。木下スズっていう優秀なカウンセラーに診てもらってるからへーき。」

「わ、私!?そんな大層なことしてないですよ…!」

「してるよ。現に今、俺めちゃくちゃ眠いもん。…このまんま寝ていい?」

「ちょ、ちょっと待って…!ベッドすぐそこですから!」

「やだ、運んで。」


"普通逆でしょ!"とツッコむスズを他所に、五条はますます抱きしめる力を強くする。

かと思えば、次の瞬間にはスースーという穏やかな寝息が聞こえてくる始末…

仕方なく、両腕と両足に呪力で力を加え、スズはなんとか五条をベッドまで連れて行った。

そして起こさないようにサングラスを取り、静かに布団をかける。

気持ち良さそうに眠る担任の姿にホッと胸をなでおろすと、スズは久々に戻ってきた部屋でのんびりと過ごすのだった。



to be continued...



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