連れだって歩くこと数十分…

スズの目の前には、誰がどう見ても豪邸としか言えないような和風建築が現れた。

表札を見れば、立派な行書体で"五条"の文字。

この時スズは初めて、自分が"先生"と呼んでいる人物がめちゃくちゃ金持ちの家の出だと知ったのだった。


「…先生の家ってお金持ちなの?」

「そうだよ。五条家は、呪術界の御三家だからね。」

「御三家…ちなみにこの家で一番偉いのは…」

「俺に決まってんじゃん。」

「ご当主自ら稽古をつけて下さるんですか…?」

「そっ。だから覚悟してついてこいよ?」

「は、はい…!」


分かりやすく緊張の面持ちになったスズを面白がりながら"行くぞ"と背中を叩くと、五条は門の中へと入っていった。

門から玄関までもだいぶ距離があり十分広いのだが、室内は軽くその5倍はあった。

本館・別館を始めとして、家が1軒建つぐらいの広さがある庭園や旅館レベルの温泉、そして恐らくスズが一番利用するであろう道場…

そのあまりの広さに、スズが"なんで家の中でこんなに疲れるんですか!"と今にも文句を言おうとしたタイミングで、やっと五条が足を止めた。


「ここがオマエの部屋。」

「えっ!……うわっ!広い!!ミニキッチンまである!」

「トイレと風呂以外は室内に揃ってるから好きに使っていいよ。他に足りないものがあったら、俺に言ってこい。」

「先生が買ってくれるんですか?」

「それはその時の俺の気分次第。」

「なんだよー!」

「当たり前だろ、オマエ居候なんだから。」

「いでっ!!」


五条が軽くデコピンを食らわせると、大げさなぐらい痛がるスズ。

そんな彼女を眺める五条は、意識しているのかいないのか、とても楽しそうに笑っていた。

と、赤くなったおでこを押さえながら、スズが突然声を上げた。


「…はっ!そういえば先生の部屋は!?先生はこの家のどこにいるんですか!」

「なんでそんな必死なんだよ。俺の部屋はここ、オマエの隣。」

「良かったー!」

「そんなに喜ぶことか?」

「喜びますよ!だって夜中に何か出たらどうするんですか。」

「でねーよ。てかオマエ陰陽師のくせに、そんなの怖がってんのか。」

「怖いもんは怖いんです。それに…私、先生しか頼れる人いないし。」

「! …これからウザったいと思うぐらいいろんな奴に会う。そいつら皆、オマエのことちゃんと見ててくれっから。」

「…なんでそんなこと分かるんですか。」

「分かるよ。だってオマエ、危なっかし過ぎんだもん。」

「え…」

「大丈夫。何があっても俺が守ってやるから……しばらくは。」

「"しばらく"ってなんですか!」


ようやく元気を取り戻したスズの頭をワシャワシヤと撫でると、五条は少し笑みを見せてから自分の部屋へと入っていった。

こうして、長く濃い1日がようやく終わりを迎えたのだった。



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