1年が経ち、各教師陣の頑張りもあって、スズは学科・呪術共にメキメキと成長していった。
ポンコツだと言われていた体術も、五条から的確なアドバイスをもらってから、かなりレベルが上がっていた。
そんなある日、ブーブー文句を言う五条を七海が説得し、彼に連れられて任務へ向かうスズ。
道中呪術に関する知識や、戦い方のコツなどを教えてもらいながら現地へと向かう。
聞きながらメモをするせいでフラフラしているスズの歩行を、さり気なくフォローする辺りはさすがジェントルマンという感じだ。
「七海先生、優しいです…!」
「なんですか、突然。」
「今私が電信柱に当たりそうになった時、サッと腕を引いてくれたじゃないですか!悟先生だったら私がぶつかるまで待って、笑いまくります。」
「…実際にそういう事があったんですか?」
「ありました。その時は側溝に落ちたんですけど、一度引き上げてくれて、その後また落とされましたから。」
「…苦労してますね。」
そんな会話をしているうちに、2人は現地へと到着した。
任務の内容としては、二級呪霊1体を祓うことだったのだが…
着いてみれば、そこには三級呪霊もオマケで1体追加されていた。
「スズ。三級呪霊の相手、1人でやってみますか?」
「いいんですか!?」
「ええ、五条さんにも許可は貰ってますから。ただし式神の使用は禁止だそうです。」
「うげ…やっぱりまだ許してくれないんだ。」
「なんかしでかしたんですか?」
「…一応呼び出せるのは呼び出せるんですけど、なんか式神に舐められてるみたいで…時々言うこと聞いてくれないんです。」
「それなら私でも使用は許可しないですね。なので体術と呪力でどうにかしてください。」
「らじゃ!」
ついに1人での戦闘を許されテンションが上がったスズは、元気よく返事をすると呪霊に向かっていく。
五条が考えた、体術レベルは0だが呪力操作に長けているスズの戦闘方法。それは…
移動や相手への攻撃の際、手足の動きを呪力の力で加速させ、一瞬だけ五条と同等の移動スピードや攻撃力を発揮するという方法だ。
これは、体のあらゆる場所へ無意識に呪力を送れるスズだからこそ可能な方法であり、並みの呪術師にとってはかなりの難易度である。
そんな特殊な方法を使い、時に攻撃を喰らいながらも、スズはなんとか勝利を収めたのだった。
「ケガは?」
「大丈夫です!回復術で治しました!」
「そうですか。…頑張りましたね。」
「! ありがとうございます!」
自分の方の戦いを終えた七海が声をかければ、顔や手足に多少すり傷はあるものの、すこぶる元気な表情を見せるスズ。
その変わらない様子に少し笑みを見せると、七海はポンと彼女の頭に手を乗せる。
いつもクールな七海からの初めてのスキンシップに、スズは照れながらも嬉しそうにお礼を伝えるのだった。
「じゃあ帰りましょうか。」
「はい!…七海先生、お腹空きません?」
「…そうですね。この近くに私の知っている店がありますが…行きますか?」
「行きます!!やったー!」
喜びを全面に出すスズを穏やかな表情で見守りながら、七海は彼女を連れてイタリアンレストランへと向かった。
レストランに到着すると、今日の反省や七海の昔話、スズの修行の話などをしながら、楽しい夕食タイムを過ごす2人。
そして夕食を終えると、七海はスズを送り届けるため揃って五条家へと向かうのだった。
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だが五条家に着き、インターフォンを何度鳴らしても、当主は一向に姿を見せない。
スズが集中して師匠の呪力を追えば、高専内からその気配を感じ取った。
「…近くに硝子さんもいるみたいです。」
「面倒な予感しかしませんが、行くしかないですね。」
そう言って1つため息をつくと、七海は高専の方へと足を向ける。
スズもまた、そんな彼の後ろを駆け足でついていった。
数十分後…
五条の呪力を追っていた2人は、家入が休憩の時によく使う一室の前に辿り着く。
静かに中の様子を伺えば、そこには1つのテーブルを囲む家入と五条がいた。
「ただ今、戻りました!」「戻りました。」
「おっ、スズも七海もお疲れ〜」
「スズ〜!」
「うわっ!せ、先生!?」
「…おかえり。」
スズが姿を見せると、眠そうな顔をした五条はフラフラとこちらへ歩み寄り、そのまま教え子にギュっと抱きついた。
そして突然のことにアタフタしているスズの耳元で一言囁くと、次の瞬間には穏やかな寝息を立て始めるのだった。
"とりあえずそこに放っておきな"という家入の指示に従い、スズは七海に手伝ってもらいながら五条をソファへと放り投げた。
放り投げてからもワチャワチャしている兄妹コンビを横目に見ながら、家入と七海は静かに会話をする。
「五条さん、お酒飲んだんですか?」
「うん、珍しくね。って言っても、缶チューハイの1/3も飲めてないけど。」
「それであの状態ですか…本当に下戸なんですね。なにかあったんですか?」
「スズがいなくて退屈だったみたいだよ。巻き込まれて、こっちは大迷惑。」
「…お疲れ様です。」
「1杯付き合ってよ。五条相手じゃ酒が美味くないんだよね。」
「じゃあ1杯だけ。」
「スズもこっち来てなんか飲みな…って、それじゃ動けないか。」
「はい…」
家入がスズの方を振り返れば、そこには彼女の膝に頭を乗せて眠りこけている五条の姿があった。
あまりに気持ち良さそうに眠る彼を起こせないということで、家入と七海はイスを持ち寄り、スズと五条がいるソファの周りに集まる。
まだ未成年のスズにはオレンジジュースを渡し、3人は小声で"乾杯"とグラスを掲げるのだった。
「スズ、家入さんに報告した方がいいんじゃないですか?」
「ん?何?」
「あっ!そうですね。硝子さん、私…今日初めて1人で呪霊を倒したんです!」
「へー!頑張ったじゃん。いろいろ教えてる身として誇らしいよ。」
「へへっ。ありがとうございます!……でもやっぱりまだまだ弱いって実感しました。治しはしたけど、結局打撲も捻挫もしちゃったし…」
「「!」」
「? 2人ともどうかしました?」
「ううん、なんでもないよ。続けて?」「続けてください。」
「はい。だから私…目標を立てたんです。
悟先生を守れるぐらい…いや、守れるまではいかなくても…せめて先生が背中を預けてもいいって思えるぐらいには強くなります。」
"まぁ、今のまんまじゃ全然ダメダメですけど…"
会話の最後をそう締めくくると、スズはジュースを飲みながら苦笑いを見せる。
そんな彼女を微笑ましく思いながら、家入と七海はこちらに顔を向けて横になっている五条にチラッと視線を送る。
そして…
「…スズが僕の背中をね〜」
「ひっ!先生…いつから…?」
「硝子に報告し始めた時から。スズ声でけーんだよ。」
「す、すいやせん。」
「アンタ、相変わらず性格悪いね〜盗み聞きなんてさ。」
「最低ですね。」
「硝子も七海も言い方酷過ぎない?」
「! 2人とも気づいてたんですか!?」
「うん。」「えぇ。」
五条は同期と後輩に反論しながら体を起こし、教え子の隣に座る。
座ってからも特に何も言わない五条に、スズはさっきの自分の発言をからかわれると思い、慌てて言葉を紡いだ。
「あ、あの先生!今じゃないですよ!もっと修行して、強くなったら「待ってる。」
「へ?」
「だから早く追いついて来い。」
「! はい!」
「じゃあ明日から練習メニュー5倍な。」
「うげっ。」
教え子の必死な姿に、五条は優しい笑顔を見せながら頭にポンと手を置く。
思いがけない彼の言葉に驚きはしたものの、スズはすぐにいつもの笑顔を見せた。
その後のドSな笑みは相変わらずだが…
「ってことで明日は相当ハードになるから、そろそろ帰ろっか。」
「ひょえ〜……はい!の前に、トイレ行ってきます!」
そう言って小走りで部屋を出ていくスズを見送る大人組。
会話は自然と彼女の話題になる。
「どう?自分の教え子が立派に成長してるのを見て。」
「確かに成長はしてるけど…まだまだ手かかりまくりだよ。」
「でも五条さんを守るなんて、なかなか言えないですよ?」
「それはまぁ…僕が一から育ててる子なんだから、当然の結果でしょ。」
そう語る五条はいつになく嬉しそうで、我が子を自慢するような、とてもいい顔をしていた。
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