4月。

東京都立呪術高専に、新たな人材が1年生として入学を果たした。

当初の予定通り、五条はこの新入生達の担任として就任することになる。

それに伴い、必然的にスズとの時間は減るかと思ったのだが…


「スズ〜これから新入生んとこ行くけど一緒に来る?」

「行きます!!」


1年後自分の先輩になるであろう人物達と会えるとあっては、あの好奇心旺盛なスズが黙っているわけがない。

それを見越して提案した五条の策略には気づかず、スズは満面の笑みで返事をした。

その後、早速新1年生が集まっている教室へ向かう2人。

と、不意に見上げた兄の姿がいつもと違うことに疑問を抱いた妹が声をかける。


「あれ?先生、サングラスつけるのやめたの?」

「やめたわけじゃないけど、高専の仕事するときはこっちでいこうかな〜って。変?」

「変じゃないですよ。いい感じです!」

「知ってる〜」


今日の五条はいつものサングラス姿ではなく、目元を包帯で覆ったスタイルだ。

だが見た目は変わっても、スズの言葉に自信満々な笑みを見せる様子はいつも通りの彼である。


そうこうしている間に、2人は目的の教室前に到着した。

中に入ると、そこには男1:女1:パンダ1という構成でメンバーが勢揃いしていた。

男代表の呪言師・狗巻棘、女代表の呪具使い・禪院真希、そしてパンダ代表のパンダ。

そんな何とも個性的な面々が、スズの先輩として高専に入ってきたのだった。


「入ってきた初日に後輩ができるってのもなかなか面白いな!」

「普通は有り得ないけどな〜」

「しゃけ。」

「よ、よろしくお願いします!」

「「よろしく〜!」」「高菜!」

「あ、そうだ。棘〜ちょっとおいで。」

「?」


スズが真希やパンダと話している一方で、五条は不意に狗巻を呼び出す。

そして何やら耳打ちをすると、勢いよく首を横に振る狗巻に構わず、催促するように彼の背中を押した。


「ほらほら〜絶対大丈夫だから。」

「……眠れ。」

「「「!」」」


呪言師である狗巻の不意の一言で、真希とパンダは一瞬にして睡魔に襲われ、その場に崩れ落ちた。

が、ただ1人…そんな倒れた2人を心配しながらオロオロしている人物がいる。


「先生、大変!先輩達、寝ちゃいましたよ!?」

「!」

「ねっ、大丈夫だったでしょ?スズにはさ、ここに来る前に"先輩に呪言師がいるよ"って伝えといたんだ。

 でも誰がその呪言師か分かんないから、アイツはきっと、この部屋に入る前に無意識のうちに耳を呪力で覆ってたと思うよ。」

「おかか…!」

「まぁ、確かに普通の術師には難しいよね。でもスズはそれができる。それが棘にとってどういうことか分かる?」

「?」

「つまり、スズと2人のときは普通に喋れるってこと。後ろから声かけても平気だったんだから、説得力あるでしょ?」

「…明太子。」

「あ〜いいよ!2人が起きるまで行っておいで。スズー!」

「はい!」

「棘が一緒に散歩行きたいって〜」

「うわ!喜んで!」


突然眠った先輩2人の体勢を整えていたスズは、五条の言葉に全開の笑顔を見せた。


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そうして教室を出た2人だったが、自分から散歩に行きたいと言った割に、狗巻は静かなままだった。

これは私から話しかけた方がいいかも…と思ったスズが口を開こうとした、その時。


「……本当に平気なの?」

「(! 話してくれた!)はい!耳を呪力で守るぐらい余裕です!」

「…俺、おにぎりの具以外で喋るの久しぶりだから…ぎこちない、かもしれないけど…」

「そんなの気にしないでください!私も未だにぎこちない時ありますから!」

「ふふっ。スズがぎこちないのはおかしいでしょ。」


そう言って笑った狗巻は、初めて普通に喋れる相手に出会えた喜びで溢れていた。

自分や周りの人達を守るため、言葉には細心の注意を払ってきた彼にとって、なんの気兼ねもなく話せるスズの存在は本当に貴重なもので…

しばらく話すうちに、ぎこちなさはあっという間になくなっていた。


「棘先輩、喉渇きません?」

「…奢ってあげようか?」

「いいんですか!?あざっす!」

「何がいい?」

「じゃあオレンジジュースで!」

「子供。」

「! …棘先輩は何にするんですか?」

「んー…ファンタグレープかな。」

「そっちだって子供じゃないですか!」

「どうどう!」


ツッコミを入れるスズの頭をポンポンしながらなだめる狗巻は、また楽しそうに笑う。

そうやって2人でキャッキャとはしゃぎながら歩く姿は、傍から見ればごくごく普通の高校生だった。

そんなこんなで30分ほど経った頃、中庭を歩いていたスズと狗巻に五条から声がかかる。


「スズ〜棘〜!2人起きたから戻っておいで〜」

「はーい!」「しゃけ!」

「(すっかり打ち解けたみたいだね。棘がいい顔してる。)」

「棘先輩、また一緒に散歩しましょうね!」

「うん!絶対ね。…スズ。」

「ん?」

「ありがと。これからよろしくね。」


そう言ってフワッと笑う狗巻のキレイな笑顔に、スズはつい見惚れてしまう。

そんな彼女に気づかずスタスタと歩き始める狗巻に"置いてくよ〜"と声をかけられ、スズは慌ててその背中を追うのだった。


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さて、視点は過去から現在へ…

部屋の中からは、相変わらず2人分の寝息が聞こえてくる。

そんな中、突然聞こえるブーッブーッというバイブ音…

あまりに長いこと鳴り続けるため、ついに部屋の主が目を覚ました。


「……ん?電話?…もしもし?」

『あ!木下さん!良かった〜』

「伊地知さん…?どうしたんですか?」

『五条さん知りませんか!?全然連絡取れなくて…』

「先生ならここにいますけど…急ぎの用ですか?」

『(同じ部屋にいる!?)あ、はい!五条さん、今日任務なんですよ。』

「…何時にどこですか?」

『えーと…10時に北海道で「すぐ準備させます!!」


そう言って電話を切ると、9:00を示す時計を横目に見ながら、スズはベッドに駆け寄った。

そして未だ夢の中にいる五条を、こちらの世界へ引き戻そうとする。


「先生、起きて!!」

「…んー…スズ、うるさい…」

「うるさいじゃないです!今日任務あるって!!」

「やだ…行かない…」

「駄目です!起きてください!!」

「……スズも一緒に行く?」

「行かないで「じゃあ行かない。」

「…行きます!私も行きますから!!」


スズの返事を聞いてニヤリと笑みを見せる五条は、それからゆっくりと体を起こして支度を始めた。

こうしてまた、五条とスズは揃って任務へと向かうのだった。



ということで、2人の昔話はここまで。

兄と妹という関係が変わる日は来るのか…?

引き続き、彼らを見守ることにしよう。



to be continued...



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