「おっせぇよ、恵。」
「こんぶ。」
先日発生した特級案件の遺族へ報告と謝罪に行っていた伏黒は、高専へ戻ってきて早々真希と狗巻にそう声をかけられた。
視線を少し遠くに向ければ、そこには釘崎がパンダに放り投げられながら特訓を受けている。
虎杖が死に、スズは未だ意識不明状態と聞いている彼らにとって、今はただひたすらに強くなることを追い求める時だ。
どちらかと言えば近接戦闘が苦手な伏黒・釘崎コンビの2年生チームとの特訓は、まだまだ始まったばかり…!
第12話 邁進
一方その頃、姿を隠している虎杖・スズコンビはといえば…
虎杖が寝起きしている地下室で、彼の今後について話をしているところだった。
そこには当然、担任である五条の姿もある。
「近接戦闘に関しては、悠仁は頭一つ抜けてると思うよ。今覚えるべきは呪力の制御、そして呪術に関する最低限の知識だね。…どうしたの?」
「めっちゃニコニコしてる。」
「いや、やっぱ修行つけてもらうなら五条先生がいいと思ってたから嬉しくて。おまけにスズまでいてくれるんだろ?最高じゃん。
…俺は弱くて、誰も助けらんなかった。せっかくスズに守ってもらったのに、その体で伏黒を殺しかけた。
今のままじゃアイツらに顔向けできねぇよ。強くなりたい。"最強"を教えてくれ。」
「フッフッ。お目が高い。」
「先生、自分で最強って言ってたけどね。」
「ふふっ。それ先生の口癖だからね。」
「でもまぁ僕に関してはもちろんだけど、スズも呪力操作に関しては悠仁の体術と同じぐらいレベル高いから、たくさん見てコツを盗みな。」
「やっぱスズすげーんだな!」
「ありがとっ!でも私は悠仁のあのトリッキーな体術の方が羨ましい。だから私にもいろいろコツ教えてね!」
「! 俺もスズになんか教えられんの…?」
「もちろん!頼りにしてるよ、悠仁先生!」
「おう!」
そう言って明るい笑顔を向け合うスズと虎杖。
自分の教え子が互いに切磋琢磨している姿を見て、五条もさぞかし喜んでいると思ったのだが…
目隠しのせいで分かりづらいが、彼の表情はどこか不満そうでイライラしているようだった。
とは言えそれを表に出すタイプではないので、教え子2人は全く気づかずに、急に静かになった担任の顔を揃って覗き込む。
「「先生…?」」
「! ん?何、2人揃って。」
「なんか先生ボーっとしてたから。なっ?」
「うん。大丈夫ですか…?」
「大丈夫だよ、スズ。ありがと。」
"また寝れてないのでは…"
そんな声が聞こえてくるような不安げな表情でいるスズに少し笑みを見せると、優しく彼女の頭に手を乗せる五条。
それからスパっと雰囲気を切り替えると、彼はいつものおどけた調子で虎杖への授業を開始した。
「ではまずあちらの缶ジュースをご覧ください…って、置くの忘れてた。スズ〜」
「もう〜!授業のスタートなんですから、ちゃんと準備してくださいよ!」
「ごめんごめん。じゃあ改めて…ほい!」
「おおっ!?」
五条が一声上げると、机に並べて置いた2つの缶ジュースは見事に破裂し、中身が辺りに飛び散った。
"こんなに壊すなら飲み終わった後の缶ジュースにすればいいのに…"というスズのボヤキを軽く無視し、五条は説明を始める。
石でもぶつかったかのように弾け飛んだ方が"呪力"によるもの、もう一方の捻れて破壊された方が"術式"によるもの。
少しでも知識がある人間が聞けばピンとくるのだろうが、知識0の虎杖にとっては難解過ぎたようで…
大変シリアスな顔で"分からん"と漏らすのだった。
「先生、もう少し噛み砕いてあげた方が…」
「うーん、そうだね。"呪力"を"電気"、"術式"を"家電"に例えようか。
"電気"だけじゃちょっと使い勝手悪いでしょ。だから"家電"に"電気"を流して様々な効果を得るわけ。
こっちはただ"呪力"をぶつけただけ。こっちは"呪力"を"術式"に流して発動させた呪術で捻ったの。」
「つまり!!これからチョベリグな術式を身につけると!!」
「いや、悠仁は呪術使えないよ。簡単な式神とか結界術は別として、基本的に術式は生まれながら体に刻まれてるものだ。
僕には僕の術式、スズには陰陽師としての術式が入ってる。だから呪術師の実力は、才能がほぼ8割って感じなんだよねー。」
五条の発言に、虎杖は一気にやる気を失くしてしまう。
これからいろいろ教えてもらうことで、自分も五条のように強くなれると思っていただけにショックが大きいようだ。
腑抜けた姿で寝転がる虎杖を心配そうに見つめるスズは、彼に聞こえないよう担任へ耳打ちする。
「…先生。」
「ん?」
「本当に悠仁は呪術使えないの?」
「"今は"…ね。そのうち悠仁の体には宿儺の術式が刻まれる。」
「! 宿儺の…?」
「そっ。だからそんな不安そうな顔しなくて大丈夫。悠仁は強くなるよ。」
そう言うと、五条はニヤリと笑いながらスズの方へ視線を向ける。
"強く聡い仲間を増やす"という夢を共に追う者として、2人は虎杖に大きな期待を抱いているのだ。
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