五条から出された最初の修行内容は、まさかの映画鑑賞だった。

これでどうやって強くなるのか検討がついていない虎杖に構わず、五条とスズはテキパキと準備を進めていく。


「映画鑑賞??」

「そ。名作からC級ホラー、地雷のフランス映画まで…起きてる間はブッ通しでだ。」

「??」

「勿論、ただ観るだけじゃないよ。スズ〜アレ持ってきてくれた〜?」

「持ってきましたよ〜はい!」

「ん、ありがと!コイツと一緒に観るんだ。」


五条がスズから受け取ったのは、夜蛾学長お手製のクマの形をした呪骸だった。





第13話 映画鑑賞





スピーと可愛らしい寝息を立てながら眠る呪骸を手にしても、虎杖は未だ修行内容を理解できずにいた。

だんだんと不安げな顔になる彼を安心させるため、やっと担任が口を開く。


「…で?全然要領得ないんだけど。」

「焦らない焦らない。スズ、持って来る時どのぐらい呪力入れた?」

「んー1割いかないぐらいですかね。」

「じゃあそろそろだね。」


五条がそう言った直後、カッと目を開いた呪骸は自分を抱えていた虎杖に強烈なパンチをお見舞いした。

あまりに不意打ちだったため何の防御も取れなかった虎杖は、殴られた顎の辺りを押さえながら呻く。

ピョンピョンと飛び回る呪骸をスズが取り押さえている間に、五条はようやく修行内容の詳細を話し始めるのだった。


「その呪骸は、一定の呪力を流し続けないと目を覚まして今みたいに襲ってくるよ。

 さっきも言った通りここには色んな映画が揃ってるから、ドキドキハラハラワックワック…泣けて笑えて胸クソ悪くなれる。

 まずは今スズがやってるみたいに呪骸に呪力を込めて、そいつを起こさず映画を1本無傷で観通すこと。

 これがどんな感情下でも一定の呪力出力を保つ訓練。多過ぎても少な過ぎても駄目だよ。」

「はい、悠仁。頑張って!」

「お、おう。」


スズから呪骸を受け取ると、虎杖は見よう見まねで呪力を入れ始めた。

少し入れると呪骸は眠り、それに安心しているとすぐに目を覚ます…

慣れない呪力操作を頑張る虎杖を穏やかな顔で見守りながら、スズもまた五条の話に耳を傾ける。


「今は悠仁でも出せる程度の微弱な呪力に設定してあるけど、徐々に大きな出力を要求してくるから常に気を抜かない様にね。」

「抜きたくても抜けねーよ、これじゃ。」

「でも初めてにしては上出来だよ。悠仁センスあるかも!」

「マジで!?おっし、やる気出た!」

「…何から観る?これなんてオススメだよ。ヒロインがムカつくんだけど、最後派手に死ぬの。」

「すんげぇネタバレ。最初はアクショ…」

「悠仁、呪力…!」

「グヘッ!もー!!も"ぉー!!」

「はい、イライラしても呪力は一定。」


スズに褒められ気合いの入った虎杖だったが、五条との会話に気を取られ早速呪骸に殴られる始末。

そのことに腹を立てすぐに呪力操作が乱れる彼を、五条とスズは苦笑いで見つめていた。


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爆弾処理の緊迫したシーンを、ソファに横になりながらコーラ片手に観ている虎杖。

スズもまたその横に座って、ドキドキしながら映画に見入っていた。

が、次の瞬間…

映画に集中し過ぎて呪力操作が疎かになったことで、虎杖は見事に呪骸のパンチを喰らった。

その衝撃は隣で見ていたスズにも影響を及ぼし、2人揃ってソファから転がり落ちてしまう。


「ちょっとー!!いいとこだったのに!」

「ごめん、スズ!ってかコーラ飲んでる時はやめろや!!」

「飲むなよ。何、余裕こいてんの。」

「お家映画にはポテチとコーラでしょ!!」

「それはそうね。」

「もう〜!ほら悠仁、鼻水とコーラ拭いて!」


笑顔でティッシュを差し出すスズに助けてもらいながら、悠仁は体勢を立て直す。

それからしばらく、こんな具合に何とも落ち着かない映画鑑賞が続いた。

そして数時間後…


「じゃ。僕は用事があるので、その調子で頑張ってね。スズ、悠仁のケガの治療よろしく〜」

「は〜い!」

「こんなんで強くなれんの?」

「なれるよ。一緒に頑張ろ、悠仁!」

「スズ…!うしっ、頑張る。」


互いに笑顔を向け合い、再度気合いを入れ直す教え子達の姿は担任としては何とも微笑ましいものだ。

五条自身も当然その気持ちはある。だが、彼の顔はやはりどこか浮かない様子で…

それを気取られないよう、努めていつも通りの口調で虎杖へ声をかけた。


「…そうだ。死んでる時、宿儺と話したかい?」

「話…」

「心臓を治すにあたって、条件とか契約とか持ちかけられなかった?」

「あー…なんか話した気がするけど…思い出せねぇんだよな。」

「スズは?悠仁と宿儺が会話してる時、近くにいたんじゃない?」

「はい。近くにはいたし、生得領域にいた時は覚えてた気がするんだけど…こっち戻ってきてから全然思い出せなくて。」

「…そうか。」


最後にそう呟くと、五条は静かに地下室を出て行った。

部屋を出る直前、ふと振り返った彼の目に入ってきたのは…

笑顔でケガを治すスズと、そんな彼女の力を気持ち良さそうに受ける虎杖の姿だった。



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