スズと共に車に乗り込んだ五条は、運転手の伊地知が二度見してしまうぐらい穏やかな状態で…!

その理由がスズの存在であると確信している伊地知は、車に乗り込む前に彼女へこっそりと感謝の言葉を送っていた。

それほど、任務や会食前の五条は機嫌が悪いのだ。

そして後部座席にスズと並んで座っている五条に対して、伊地知は遠慮がちに声をかける。


「学長との約束までまだ少しありますけど、どこか寄ります?」

「いいよ。たまには先に着いててあげよう。それに今日はスズがいるから。」

「?」

「時間になるまで車の中にいればいい。…僕のストレス発散に付き合ってくれるんでしょ?」

「はい!そのためにいますから!」


笑顔でそう言うスズに、五条はもちろん、彼の機嫌が良くなることで伊地知もまた安堵するのだった。

そうして走ること数十分…

楽しそうに話していたスズと五条が、不意にピリっとしたモードになる。

スズが"先生…"と声をかければ、五条は彼女の方を向いて小さく頷いた。


「…止めて。」

「えっ…ここでですか?」

「先行ってて。」

「えぇ!?これ何か試されてます?本当に先に行ったら殴る的な。」

「僕をなんだと思ってるの?」

「あははっ!先生怖がられてる〜」

「木下さんも一緒に降りる…でいいんですか?」

「当たり前でしょ。なんでスズと伊地知を2人にしなきゃいけないの。」


ちょっと不機嫌になりながら、車のドアをバンッと閉める五条。

これ以上彼を刺激しないよう、伊地知はドアが閉まると同時に車を発進させた。

そうしてその場に残った先生と教え子。

いつもとは違う怪しい気配が少しずつ近づいているのを受け、危なくないように五条はスズにも無限を広げた。


「…これでよし。」

「ありがとうございます…!でも、先生…」

「ん?」

「あの…私やっぱり高専戻ります。私に無限使ったら負担になっちゃうし、それに何より…先生の邪魔になるの嫌です。」

「…スズに3つ教えてあげる。」

「?」

「1つ。好きな女が傍にいて、邪魔だと思う男はいない。」

「!」

「2つ。俺の強さ知ってんだろ?無限の範囲を広げたぐらいじゃ何の影響もねーの。」

「は、はい。」

「で、3つ目は…今俺の目の前にいるのは、何の力もない非術師じゃない。自分で考えて動ける、俺が一から育てた術師だ。これでもまだ不安?」

「不安…じゃ、ないです。」

「だろ?だから…安心して俺の傍にいろ。」

「はい…!(先生ってこんなにカッコ良くて色っぽかった!?今まで私、どうやって先生と過ごしてきたっけ…?)」


スズの心配や不安を一瞬にして取り去ると、不適な笑みを見せながら耳元で囁く五条。

そんな彼に、スズはドキドキが抑えられないでいた。

今まで普通に接していた担任がなぜか急にカッコ良く見えて、言動1つ1つに反応してしまう。

赤くなった顔を冷まそうと手で顔を扇ぐスズの姿を、五条は何とも嬉しそうに見つめるのだった。


だが穏やかな時間は突然打ち切られる。

さっきまでの怪しい気配が、ついに2人の真上まで迫っていたのだ。


「スズ。」

「はい!」

「さて…君、何者?」


2人の前に姿を現した単眼の呪霊は嫌らしく笑いながら、ものすごい衝撃と共に地面に降り立った。

そして一声叫ぶと、五条の真横にある壁から火山のようなものを出し、凄まじい火力の攻撃を放つ。

結果、辺り一面がドロドロに溶けて道路の原型が跡形もなくなっていた。


「存外、大したことなかったな。」

「誰が大したことないって?…スズ、平気?」

「は、はい…!ありがとうございます!」

「(! スズ…夏油が言っていた女か?)」


教え子に笑顔を向けている五条は、何事もなかったかのように姿を見せる。

一方のスズもまた、五条によって小脇に抱えられながらも無傷で元気な状態だった。

そんな2人を憎々しげに睨んでくる呪霊について、スズと五条は小さな声で会話をする…


「あの呪霊、随分しっかりコミュニケーションがとれるね。」

「はい…呪力がなければ人間と会話してるみたいです。」

「確かに。にしてもこの呪力量…未登録の特級か。」

「最近未登録のやつ多いですね…」

「ねー。でもアイツ、今の宿儺より強いよ。」

「えっ…」


あの宿儺より強いという発言に目を見開くスズに小さく頷くと、五条は謎の呪霊に対して声をかける。

もちろん、スズを後ろに庇うことは忘れずに。


「特級はさ、特別だから特級なわけ。こうもホイホイ出てこられると調子狂っちゃうよ。」

「矜持が傷ついたか?」

「いや、楽しくなってきた。」


手を鳴らしながら呪霊に目をやる五条の顔は、言葉通り楽しそうに笑っていた。



to be continued...



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