「楽しくなってきた…か。危機感の欠如。」

「(わざわざ人のいない所で…いや、他の術師の加勢を避けたのか。)スズ、いつも以上に僕から離れないように。」

「押忍!」

「火礫蟲!」

「(ま、僕を狙ってきたのは確かだね。)危機感の欠如…ね。」

「ひえっ…!虫は駄目だ…!!」


呪霊が繰り出した口から針が出ている無数の気持ち悪い虫の姿に、スズはギュッと目を閉じ五条にしがみつく。

安心させるように、自分の腰に回っている教え子の腕をポンポンと叩くと、五条は無限を発動し向かってくる虫たちの動きをビタッと止めた。





第14話 急襲





「うちの子が気持ち悪がってるからやめてくれない?これ。」

「(あの五条悟がこれほど気にかけるとは……夏油の言う通り使える奴なのか?)」

「これ当たるとどうなんの?」

「うわっ…!先生、触らない方がいいですよ!気持ち悪い!」

「え〜それじゃ僕が気持ち悪いみたいに聞こえる〜」


"そういうわけじゃない"とスズが反論し始めた時、周りにいる虫たちが急に奇声を上げ始める。

その声は聞く者すべてを不快にするような嫌な声で…

目だけでなく耳も塞がなければいけなくなったスズは大慌て。

そんな彼女の耳に当てている手をサッと取ると、五条は耳元で素早く指示を出す。


「スズ、1分上にいろ。」

「らじゃ!」


2人の阿吽の会話が終わると同時に、虫たちは一斉に光ったかと思うと、次の瞬間大爆発を起こした。

軽い身のこなしで爆風をかわした五条は、横にある壁の上へと降り立つ。


「音と爆発の二段構え。器用だね。」


口元に笑みを浮かべながらそう呟く五条の元には既に呪霊が迫っており、次なる攻撃を彼へと浴びせた。

そして顔がチリチリと燃えている男に対して、呪霊はさらにその体へと攻撃を打ち込んだ。


「…こんなものか。蓋を開けてみれば弱者による過大評価。今の人間はやはり紛い物。真実に生きておらん。

 万事醜悪…反吐が出る。本物の強さ、真実は死をもって広めるとしよう。」

「このくだりさっきやったよね。」

「!」

「学習しろよ。スズ〜降りてきていいよ〜」

「はい!」

「(あの女…どこにいた?気配が全くなかったぞ。)」

「うちの子すごいでしょ。君でも呪力追えなかったんじゃない?」


自慢げに話す五条の指示通り空中にいたスズは、キッカリ1分…呪力を0にして待機していた。

元々呪力操作が得意ではあるが、特級呪霊相手でもその力が通用する程、彼女の実力は上がっているのだ。


「…その女のことはどうでもいい。それよりオマエ…どういうことだ。」

「んー簡単に言うと当たってない。」

「馬鹿な。さっきとはワケが違う。儂は確かに触れて殺した。」

「君が触れたのは、僕との間にあった"無限"だよ。」

「?」

「教えてあげる。手出して。」

「(殺意はない…探るだけ探るか。)」

「ね。」

「(触れられん…!!寸前で止まる。これが"無限"…?)」

「止まってるっていうか、僕に近づく程遅くなってんの。」

「だが…その女は触れているではないか。」


呪霊が言う通り、今スズは片手で五条の服を掴んでいる。

突然自分に矛先が向いたことにビクッと反応したスズの頭に優しく手を乗せると、五条は当然と言わんばかりに言葉を発した。


「そんなの当たり前じゃん。可愛い教え子と君に、同じように無限を発動すると思う?…で、どうする?僕はこのまま握手してもいいんだけど。」

「…断る。」

「照れるなよ。こっちまで恥ずかしくなる。」

「貴様っ!!」


担任の次の行動を読み、スズはスっと後ろに下がる。

次の瞬間、呪霊の手を握った五条は強烈な打撃を喰らわせた。

見ているだけのスズですら痛そうな顔になる程の威力を持った打撃は、その後も2発3発と続いた。

口から血を吐き、半ば意識がなくなりかけている呪霊に対して、五条はさらに追い討ちをかける。


「無限はね、本来至る所にあるんだよ。僕の呪術はそれを現実に持ってくるだけ。

 "収束"・"発散"…この虚空に触れたらどうなると思う?術式反転……"赫"。じゃあスズ、30秒後に合流ね。」

「はーい。行ってらっしゃい!」


笑顔で見送るスズにチラッと目配せしてから、五条は"赫"で吹っ飛んでいった呪霊をもの凄いスピードで追いかける。

そして反撃しようとしてくる呪霊の背後に一瞬で回り込むと、強烈な蹴りをお見舞した。

遠くにある湖へ一直線に飛んでいった呪霊を涼しい顔で見つめる五条の元に、スズは30秒ピッタリで合流してきた。


「先生、無事ですか?」

「当然!」

「相変わらず攻撃がエグいですね〜」

「それ褒めてる?」

「もちろん!…今日も守ってくれてありがとうございます。」

「! 何、改まって。そういうのキュンとすんだけど。」

「べ、別にそういうつもりで言ったんじゃないです!ただ…いつもちゃんと言えてなかったかな…と思って。」

「ふ〜ん…別にそんなこと気にしなくていいのに。…好きな女を守んのは当たり前のことだよ。」


少し笑みを見せながら、スズの頬に優しく触れる五条。

さっきまでの戦いを楽しむような表情とは違う大人っぽい雰囲気に、スズは途端に顔を赤くする。

それをからかいながら距離を縮めてくる五条を離しながら、スズは何とか話題を変えようとしていた。


「せ、先生…!呪霊は!?呪霊どこ行ったの?」

「ん?あっちの方…って、そうだ。ちょうどいいか。」

「何が?」

「悠仁の課外授業〜」

「課外授業?随分いきなりですね。」

「思いついちゃったからね。てことで、一旦高専戻るよ。」

「えっ、あの呪霊放っておいて大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。アイツが復活する前に帰ってこれっから。……確認だけど、車で戻るわけじゃないからな?」

「あ、そうだった…!忘れてました。」

「ふっ。じゃあ…はい、おいで?」


勘違いしていたスズを笑いながら、五条は両手を広げてそう言った。

ポカンと口を開けて自分を見つめる教え子に、担任は"呪霊が起きちゃうから早く早く"と催促する。

五条の術式で移動する場合、別に彼自身に触れている必要はなく術式範囲内にいればそれで構わない。

だがスズへの気持ちに気づいた今となっては、こういうチャンスは逃したくないのが男心というもの…

恥ずかしさMAXで自分の方へ寄ってくるスズが間合いに入ると同時にギュッと抱きしめると、五条は嬉しそうに術式を発動した。



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