とまぁそんなやり取りがあり、虎杖を連れた五条とスズは再び漏瑚の前に姿を現した。
横並びになった3人は、その場にそぐわない何とものほほんとした会話を続けている。
「見学の虎杖悠仁君です。」
「先生、俺10秒位前まで高専にいたよね。どーなってんの?」
「んートんだの。」
「スズ…これ絶対説明する気ないよね。」
「ないね。あとでゆっくり説明する!」
「(宿儺の器…やはり生きていたか。)」
静かに3人のやり取りを見守っていた漏瑚は、仲間である夏油から言われた言葉を思い出していた。
"五条悟を戦闘不能にし、両面宿儺・虎杖悠仁を仲間に引き込む。"
"さらにプラスで木下スズという女を手に入れられれば、より勝利が近づくと思うよ。"
彼との会話の中に出てきた人物が、おあつらえ向きに今目の前に立っている。
そのことに漏瑚は様々な考えを巡らせた。
「(今後のため虎杖は殺せん。あの女も念のため生かしておくとして…まさか我々の目的に気づいて…?)なんだそのガキは。盾か?」
「盾?違う違う。言ったでしょ、見学だって。今この子に色々教えてる最中でね。ま、君は気にせず戦ってよ。」
「なぁ、なんで俺達沈まねぇの?」
「呪力で足場を作って、その上に乗ってるの。」
「え、俺そんなことできないけど…」
「悠仁のは私がやってる。でもそのうち自分でできるようになるよ!」
「そっか…!ありがとな!」
五条の背後で声を潜めて会話をする2人。
いつも優しくて明るいスズへの信頼が日に日に強くなっていく虎杖は、彼女の言葉に安心したような笑顔を見せた。
そんな彼らを盗み見ながら、漏瑚は五条との会話を続けていた。
「自ら足手纏いを連れてくるとは愚かだな。」
「アハハ。大丈夫でしょ。だって君…弱いもん。」
「! 舐めるなよ小童が!!そのニヤケ面ごと飲み込んでくれるわ!!」
「ちょっと先生!必要以上に煽らないでっていつも言ってるじゃないですか!!」
「え〜煽ってるつもりないんだけどな〜」
目の前の呪霊が発する爆発的な呪力量に、さっきまでの笑顔が嘘のように青ざめる虎杖。
だがスズと五条はと言えば、一切その表情や態度を変えず普通に会話を続けていた。
呪霊だけでなく、自分の隣にいる2人の方にも顔を向けながらソワソワと落ち着かない様子の彼の頭に、五条はポンと手を乗せる。
「大丈夫、僕から離れないでね。…もちろんスズもだよ。」
「はい。」
「…スズにとってもアイツは弱いの?」
「まさか!1人だったら怖すぎて失神してるよ。でも先生と一緒の時は…絶対大丈夫。」
「!」
「絶対…?」
「うん、絶対!だから悠仁も見学に集中してて。こっからがメインだから!」
五条が一瞬反応しているのには気づかず、スズは笑顔で虎杖に声をかける。
そして彼女が言葉を終えると同時に、怒り狂った漏瑚がついに動き出す…!
「領域展開!!"蓋棺鉄囲山"!!」
「スズ〜報告書面倒そうだから手伝ってね。」
「らじゃ。一緒に頑張りましょ。」
「そんなこと話してる場合!?なっ…!なんだよこれ!!」
「これが"領域展開"。術式を付与した生得領域を呪力で周囲に構築する。」
「アッツ!!えっ、でもちょっと待って先生!スズの領域…なんとかはこんなんじゃなかったけど!?」
「あ〜そういえばスズの領域展開を見てたんだったね。スズのやつはだいぶ特殊で、むしろこういうタイプの方が一般的だよ。」
「そうなの!?」
「うん。僕もスズの領域展開好きなんだよね〜久々に入りたいな〜」
「ちょ、ちょっと!私の領域展開のことはどうでもいいですから…!」
五条の呑気な口調とは裏腹に、辺りには漏瑚の術式によってゴツゴツした岩とそこから吹き出るマグマが展開された。
彼の領域展開は、まさに火山そのもの。火やマグマの熱もそっくりそのまま再現されている。
突然の出来事に戸惑い、同時に火の熱さにもやられている虎杖に構わず、五条は領域展開についての授業を続けた。
「君達が少年院で体験したのは、術式の付与されていない未完成の領域だ。ちゃんとした領域なら1年全員死んでたよ。
領域を広げるのは滅茶苦茶呪力を消費するけど、それだけに利点もある。
1つは環境要因によるステータス上昇。ゲームの"バフ"みたいなもんだね。もう1つ…」
「ヂイッ!(並の術師なら領域に入れた時点で焼け切れるのだがな。)」
「領域内で発動した付与された術式は…絶対当たる。」
「絶対!?」
「ずぇ〜ったい!」
自分に向かってきた岩石の塊を軽く壊しながら、五条は虎杖の質問にそう答える。
流れで自分の方にも顔を向けてくる虎杖に、スズもまた微笑みながら首を縦に振った。
2人の返事にまたも戸惑う虎杖に、五条は落ち着いた様子で説明を続ける。
「でも安心して、対処法もいくつかある。今みたいに呪術で受けるか、これはあまりオススメしないけど…はい、スズ!」
「急に…!えーと、領域外に逃げる!です。」
「正解〜!まぁ大抵無理だけどね。」
「ですね。」
「そして…」
「貴様の無限とやらも、より濃い領域で中和してしまえば、儂の術も届くのだろう?」
「うん、届くよ。」
「? ムゲン?」
「これもあとで説明するね。」
またも分からない言葉が聞こえてきたことで、頭に?マークが浮かびまくっている虎杖に、スズはコソッと声をかける。
そんな彼女にお礼を言いながら、虎杖はスズに笑顔を向けた。
どんどんとボルテージが上がっていく漏瑚とは対照的に、相変わらず穏やかな五条は目隠しを外しながら言葉を紡ぐ。
「領域に対する最も有効な手段…こっちも領域を展開する。
同時に領域が展開された時、より洗練された術がその場を制するんだ。相性とか呪力量にもよるけど。」
「灰すら残さんぞ!!五条悟!!!」
「悠仁、先生から離れないでね…!」
「わ、分かった…!」
「領域展開……"無量空処"」
「(何が起こった…儂の領域が押し負けたのか?何も見えん…何も感じん…違う。
何もかも見える!!全て感じる!!いつまでも情報が完結しない!!故に何もできん!!)」
「ここは無下限の内側。"知覚"・"伝達"…生きるという行為に無限回の作業を強制する。
皮肉だよね。全てを与えられると何もできず、緩やかに死ぬなんて。でも君には聞きたいことがあるから、これ位で勘弁してあげる。」
五条が指をクロスし、宇宙のような領域を作り出した途端、漏瑚の一切の動きが止まった。
そんな呪霊の頭を、虎杖を小脇に抱え、腰にはスズが抱きついた状態で鷲掴みする五条。
そしてグッと力を入れたかと思うと、次の瞬間…漏瑚の頭は見事に胴体と切り離されたのだった。
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地上に降り立った五条は、片手に持っていた呪霊の頭をゴロッと地面に転がした。
それから虎杖を降ろし、最後に目隠しを元に戻しながらスズの方を振り返って笑顔を見せた。
「スズ、大丈夫だった?」
「はい!お疲れ様でした、先生!」
「うん。さて…誰に言われてここに来た。」
「(これが呪術師最強…!!生き物としての格が違う!!)」
足元に落ちている呪霊の頭を踏みつけながら、五条は相変わらずの飄々とした調子で声をかける。
一方で担任の強さを初めて目の当たりにした虎杖は、そのレベルの高さにただただ圧倒されていた。
自分で最強と言っていたのは、ハッタリでも何でもなく事実だったのだと…!
そんな3人と呪霊の様子を崖の上から見下ろす2つの影…
1人は目から枝が突き出た呪霊らしきモノ、そしてもう1人はいつぞや新宿を歩いていた袈裟姿の男だった。
「あーあ。どうする?助ける?」
「…」
「(にしても、あの子…相当気に入られてるな。一度実験してみるか…)」
明らかに悪いことを企んでいる顔で、袈裟姿の男はスズに熱い視線を向けていた。
to be continued...
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