無事に虎杖を送り届けると、五条は横を歩いているスズに"会食に行ってくるね"と告げる。

その発言に驚くスズに追い打ちをかけるように、先に家に帰ってていいとまで言ってのけたのだ。


「!」

「…何、その驚いた顔。」

「いや、報告書作成とかあるし、絶対行きたくないって言うと思ってたので…」

「俺はご褒美があれば頑張るタイプなの。」

「ご褒美?ちなみにですけど、私は何も準備してないですよ…?」

「大丈夫!準備とか必要ないものだから。てことでサクッと行ってきま〜す。」


"報告書作るから、俺の部屋で待ってて〜"

最後にそう言ってスズの頭をポンと叩くと、五条は足取りも軽く高専を後にした。


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2時間後…

スズが五条の部屋にある座椅子に座って本を読んでいると、不意に部屋のドアがガチャと開いた。

小動物のように反応したスズが笑顔で声をかければ、部屋の主もまた嬉しそうな顔で中へ入ってくる。


「先生、おかえりなさい!」

「! …スズ〜!!」

「うわっ…!ちょ、ちょっと先生!?」

「…ただいま。」


目隠しを取りながら小走りで入ってきた五条は、その勢いで座っているスズに抱きつく。

突然の行動に対応しきれず倒れそうになるスズを、五条は余裕の表情で抱き寄せた。

今までも同じようなことはあったが告白を受けてからというもの、目の前の男性を妙に意識してしまうスズ。

そのためこのスキンシップもドキドキし過ぎて上手く話せない彼女に、五条はニヤニヤしながら体を預けていた。

そんな状態が2〜3分続き、一向に離れる気配を見せない五条に対しスズはついに声をかけた。


「…先生、そろそろ離してくださいよー。」

「やだ、もう少し。…俺、今日このために頑張ったんだからいいでしょ。」

「このため?」

「そっ。帰ってきた時に、スズにお出迎えしてもらうため。」

「えっ、私!?」

「もうね、出迎え方満点!さすがは俺が惚れた女。」

「な、何言ってるんですか…!っていうか先生が言ってたご褒美って…」

「うん、これ。」

「…こんなのご褒美になるんですか?」

「なるよ。俺にとっては最高のご褒美。」

「なら、良かったです…!」


そこまで言われては、この状況が続くことをもう少しの間許さなくてはいけないだろう。

照れ臭くムズムズするような気持ちで、スズは心の中でそう考えていた。

五条が不意に言葉を発したのは、まさにそんなタイミングだった。


「……スズ〜俺、今日頑張ったよね?呪霊倒したし、悠仁の課外授業したし、会食も文句言わず行ったし。」

「そ、そうですね、とても頑張ってました…!」

「だから…もう1個ご褒美ちょーだい。」

「もう1個…?」

「うん。……今日ここ泊まって?」


そう言って、五条は穏やかな表情でスズの顔を覗き込む。

大人の色気全開の表情や言動を受け、スズの顔は途端に熱くなる。

こんな状態で夜を過ごすなんて絶対無理だと伝えても、五条は"え〜一緒に寝ようよ〜"と全く折れずに向かってくる。

そんな彼の顔は本当に楽しそうで、想い人に意識してもらっていることが嬉しくてしょうがないようだ。

だが一方のスズはと言えば、目の前のイケメンの対処でそれどころではない。

自分の心身を思えば、このまま五条の部屋に泊まることは危険極まりない。

しかし彼が今日、誰が見てもよく頑張っていたのも事実。

おまけにあの整った顔で言い寄られては、スズに勝ち目はないわけで…


「わ、分かりました…!泊まります!」

「! やった!今さら嘘とか無しだからな。」

「女に二言はありません!ただし一緒に寝るのは無理です!」

「えー!話が違うー!」

「違くない!そんなことしたら私の心臓がぶっ壊れます。だから下に布団敷いてください。」

「…分かった〜」


それから2人は急いで報告書を作成し、それぞれ寝る準備を整える。

そして五条が寝るベッドの横に布団を敷いたところで、全てのセッティングが完了した。

寝床に入って15分ほど経った頃…

部屋の主が我慢できず早々に声を発する。


「…スズ寝た?」

「…寝ました。」

「ふっ…寝てねーじゃん。」

「ふふっ。何ですか?」

「…今日、呪霊が領域展開する前にさ…スズ、悠仁と話してたじゃん?」

「あ、はい。」

「あの時言ってたことって本心?…俺がいる時は絶対大丈夫〜ってやつ。」

「もちろん!私先生とたくさん任務行ってますけど…呪霊が怖いことはあっても、死ぬかもっていう不安は1度も感じたことないですから。」

「そっか。」

「何で急にそんなこと…あ、もしかして頼りないなって思いました…?」


最初こそ楽しげに話していたスズだったが、自分に強くなることを望んでいる五条にとってそれが不安材料になるのではと気づく。

そう思った途端、スズはガバッと布団から起き上がると、五条のベッドの方へ膝立ちで近づいた。

しょぼくれた顔でこちらを見つめる教え子に対し、五条は寝ながら笑顔を向ける。


「んなわけねーだろ。逆だよ。」

「逆?」

「そっ。めちゃくちゃ嬉しかったから、もっかい聞きたいと思ったの。」

「嬉しい…ですか?」

「うん。好きなやつにあんなこと言われたら嬉しいに決まってんじゃん。悠仁いなかったら手出してたからな?」

「えっ!じゅ、呪霊の前ですよ!?」

「気になるのそこ?オマエ時々変なこと言うよな。」


相変わらず体勢は変えずに、五条は笑いながら傍らに膝立ちでいるスズの頭に手を置く。

かと思えばその顔を優しい笑みに変えて、頭に乗せていた手でスズの手首を掴んだ。


「…なぁ、やっぱベッド上がって来いよ。」

「! な、なんつーエロいこと言うんですか!!む、無理ですよ!心臓止まります!」

「顔赤っ。え〜…じゃあ俺が寝るまで手繋いでて。」

「あ、それならいけます!」

「いけるって何だよ。…まっいっか。ありがと。」


お礼と共に早速スズの手を握ると、五条は安心したように目を閉じた。

そうしてしばらくすると、規則正しい寝息がスズの耳に聞こえてくる。

度々不眠を訴える師匠の穏やかな寝顔は彼女にとっても喜ばしいものであり、自然と口元が緩む。

スズは空いている方の手で五条のキレイな銀髪を撫でながら、静かに呟いた。


「お疲れ様でした。…今日もありがとう、悟先生。」

「(! バカ…そういうのは俺が寝てから言えよ…襲いたくなんだろ。)」


うつらうつらしているだけで、まだ寝入ってはいなかった五条は、スズのこの不意の行動に思わず反応しそうになる。

ニヤける顔と自分の衝動を抑え込むように改めて彼女の手を握り直すと、五条は今度こそ深い眠りに入っていった。



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