伏黒と東堂が一戦交えるのと時を同じくして、釘崎もまた真衣と交戦中だった。

だがそこは1年と2年…真衣の容赦ない攻撃により、釘崎は見事にノックダウン…

と、そこへ真衣とよく似た顔を持つ人物の声が聞こえてくる。


「ウチのパシリに何してんだよ、真衣。」

「あら、おちこぼれ過ぎて気づかなかったわ…真希。」

「おちこぼれはお互い様だろ。オマエだって物に呪力を篭めるばっかりで、術式もクソもねぇじゃねぇか。」

「呪力がないよりましよ。上ばかり見てると首が痛くなるから、たまにはこうして下を見ないとね。」

「あーやめやめ。底辺同士でみっともねぇ。野薔薇!!立てるか!?」


そうして真希が間に入ることで、釘崎と真衣の勝負は収束に向かっていった。





第18話 底辺





場所は変わり…

ここは昔の城を思わせるような広大な敷地内にある立派なお屋敷の1つ。

室内には、京都校の学長である楽巌寺の姿があった。


「夜蛾はまだかのぉ。老い先短い年寄りの時間は高くつくぞ。」

「夜蛾学長はしばらく来ないよ。嘘の予定スケジュールを(伊地知を脅して)伝えてあるからね。」


そう言いながら部屋に入り、楽巌寺の前にあるソファにドフッと腰を下ろすのは、スズ達の担任・五条悟であった。

顔にはヘラヘラと笑みを浮かべているがその目は笑っておらず、むしろ怒りの感情が隠しきれていない。

そしてとても学長の前とは思えないようなふてぶてしさで長い足を組むと、五条は話し始めた。


「その節はどーも。」

「はて、その節とは。」

「とぼけるなよ、ジジィ。虎杖悠仁と木下スズのことだ。保守派筆頭のアンタも一枚噛んでんだろ。」

「やれやれ…最近の若者は敬語もろくに使えんのか。」

「ハナから敬う気がねーんだよ。最近の老人は主語がデカくて参るよホント。」

「ちょっと、これは問題行動ですよ。然るべき所に報告させてもらいますからね。」

「ご自由に。こっちも長話する気はないよ。」


内心では五条に会えたことを喜びながら言葉を発した彼女は、楽巌寺のお供としてついてきた京都校2年の三輪だ。

憧れの人物と会話していることに興奮しながらも、彼女は努めて冷静に話をしていた。

そんな三輪の想いはいざ知らず、五条の話は昨晩の呪霊襲撃に移っていった。


「昨晩、未登録の特級呪霊2体に襲われた。」

「! それは災難じゃったの。」

「勘違いすんなよ。僕にとっては町でアンケート取らされた位のハプニングさ。

 その呪霊達は意思疎通が図れたし、同等級の仲間もまだいるだろう。敵さんだけじゃない。

 秤に乙骨、そっちの東堂…生徒のレベルも近年急激に上がってる。去年の夏油傑の一件、そして現れた宿儺の器。

 加えて上層部が認めてない加茂家以外の陰陽師である木下スズも…もうアンタらじゃ手に負えないよ?」

「何が言いたい。」

「ククッ…分かんないか。アンタらがしょーもない地位や伝統のために塞き止めていた力の波が、もうどうしようもなく大きくなって押し寄せてんだよ。

 これからの世代は"特級"なんて物差しじゃ測れない。牙を剥くのが五条悟ぼくだけだと思ってんなら痛い目見るよ、おじいちゃん!!」

「少しお喋りが過ぎるの。」

「おー怖!!言いたいこと言ったから退散しよーっと。」


さっきまでの真剣モードから一転して、またヘラヘラした雰囲気を出しながら立ち上がる五条を、鋭い目付きのまま楽巌寺が呼び止めた。

早くスズが待つ家に帰りたい五条は面倒臭そうに振り向き、嫌々ながらも一応返事をする。

そうして楽巌寺が話し始めたのは、五条が愛してやまない彼女のことだった。


「五条。」

「…何かな〜おじいちゃん?」

「さっきから話を聞いてれば、随分とあの陰陽師もどきを気に入ってるようだな。」

「陰陽師もどき…?誰のこと言ってるのか分かんないんだけど。」

「木下スズに決まってるだろう。他に当てはまる奴がいるのか?」

「彼女が陰陽師もどきなら、他の連中は腐れ陰陽師だろ。…1つ忠告しとくよ。」

「?」

「今後彼女に少しでも手を出したら…欠片も残さず殺す。僕の目が黒いうちは、好き勝手させないからそのつもりで。」


小さいながらも低くよく通る声で、五条は学長に対して厳しい顔でそう言った。

その後表情を変えると、三輪に対して夜蛾が2時間くらいで来ることを伝えてから彼はその場を後にした。



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