屋敷から出たところを三輪に呼ばれ写真を求められた五条は、撮影後ふと大好きな呪力を感じ取った。

発生元を辿れば、そこには木の上にボケーッと座っているスズの姿があった。

だがいつもなら近づくだけで反応を示すのに、今日はそれが全くなくどこか上の空のような状態で…

心配になった五条が下から声をかければ、スズは動揺しながらも言葉を返してきた。


「迎えに来てくれたの?」

「! 先生…!ビックリした。」

「珍しいね、スズが俺の呪力に気づかないなんて。」

「…ちょっと考え事してて。」

「ふ〜ん……とりあえず降りといでよ。一緒に帰ろ。」

「あ、はい。」


五条の言葉に素直に返事をすると、スズは軽やかに木から飛び降りた。

そして一緒に歩き始めた2人だったが、スズにいつもの元気はない。

終始俯きがちに数歩後ろを歩いている彼女を待って横に並ぶと、五条は自分に気づかずそのまま歩き続けようとするスズの腕を掴んだ。

ハッとして足を止め顔を上げたスズに、五条は穏やかな声で話しかけた。


「…何かあったか?」

「…」

「恋の相談以外だったら話聞くけど。」

「! ふふっ。……先生は優しいから、絶対"そんなことない"って言ってくれるだろうけど…」

「?」

「……私、また迷惑かけてますか?」

「! ……もしかして京都のおじいちゃんのこと気にしてる?」

「はい…また面倒なこと言われたんじゃないかと思って…」


楽巌寺から"陰陽師もどき"と言われることからも分かるように、基本的に加茂家以外の陰陽師はその存在を認められていない。

ましてやスズのように陰陽師兼呪術師なんて風変わりな存在であれば、風当たりはより一層強くなる。

実際彼女が高専に入る時も、五条が関係各所に相当な根回しをしてやっと実現できたことだった。

故に五条と上層部が話をするとなれば、スズが心配するのも無理はないというわけ。

そんな彼女を優しい表情で見つめていた五条は、ゆっくり口を開いた。


「俺、スズが思ってるほど優しい人間じゃないよ。」

「え?」

「面倒なことは押し付けるし、基本自分がやりたいことしかやりたくない。だからスズのことだって、結局は自分のためなんだよ。」

「どういうこと…ですか?」

「…俺、オマエと離れんの嫌なの。」

「きゅ、急に何言ってるんですか…!」

「一緒に飯食ったり、遊んだり、任務行ったり…そういうことをこれからもずっとしたいわけ。」

「…はい。」

「だからそのために必要なことなら、俺にとっては面倒でも迷惑でもないの。自分がやりたいことだからね。」


"俺の言いたいこと伝わった?"

そう言いながらスズの頭にポンと手を置き、目線を合わせるように覗き込む五条。

上手く考えがまとまっていないのか言葉が出てこない彼女に、彼は笑顔を向けた。


「前にも言ったけどさ…俺、スズには何も気にしないで笑ってて欲しい。必ず守るから。」

「…」

「ふっ…守られっぱなしは嫌?」

「なんで分かるんですか…!」

「分かるよ…好きな奴のことなんだから。」

「!」

「でも俺のこと守ろうとしてくれてる子を守るのは…当たり前でしょ?」

「先生……ありがとうございます!」


軍隊のようにガバッと頭を下げた教え子を、五条はニコニコしながら見つめていた。

と、そんな彼の脳裏に過ぎる1つの疑問。

自分が身を隠すように指示した少女が、普通に外を歩いて誰にも見られなかっただろうかと…


「そういやさ、スズ一応意識不明ってことになってるんだけど…ここに来るまでに誰にも会わなかったよな?」

「うっ…あの、会ってはないんですけど…ちょっと呪力は使っちゃった…かな。」

「…詳しく。」

「はい。」


急に兄の顔になった五条から問い詰められ、スズはポツポツと事の次第を報告する。

何故か東堂と伏黒が戦っていたこと。

そしてその東堂に押され気味だった伏黒を助けたこと。

呪力の感じで、その場にパンダや狗巻もいたかもしれないことを…


「なるほど。じゃあ2年生チームにはバレたかもね〜」

「…ごめんなさい。」

「んー…じゃあいっその事バラしちゃおっか!」

「え?」


ポカンとするスズに悪ガキのような笑みを見せると、五条は楽しそうに歩き出すのだった。



to be continued...



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