"じゃあいっその事バラしちゃおっか!"

楽しそうにそう言って、スマホをいじりながら歩き出す五条。

慌てて追いかけるスズが何をしてるのか尋ねれば、"2年生に集合かけてるの"という言葉が返ってきた。


「えっ!今からですか!?…っていうか、バラしちゃっていいんですか?」

「うん!スズの中にある宿儺の呪力もほぼなくなったし、変に隠して思わぬとこから漏れたりしたら面倒だからね。

 それよりは信頼できる人間に話して、みんなで秘密を守った方がよっぽど安全。」

「ごめんなさい。交流会でって言ってたのに…」

「スズが動きたくて動いた結果だから、きっとこのタイミングがベストだったんだよ。大丈夫、俺がついてるでしょ?」

「はい!」


さりげなく手を握り笑顔でそう問いかければ、スズは照れ臭そうな、でもとてもいい顔で返事をした。

そうして五条はスズと手を繋ぎながら、2年生達へのLINEを送信し終えたのだった。





第19話 幼魚と逆罰





LINE送信から30分後…

普段授業を受けている教室に集められた真希達は、五条からの突然の呼び出しにイライラを募らせていた。


「五条の奴、呼び出した癖に遅刻するってどういうことだよ!」

「でも悟が俺達を呼び出すなんて久しぶりだよな。」

「しゃけ。」

「どうせロクなことじゃないんだから、早く解放してくんねーかな。」

「こんぶ。」

「あーLINEにはサプライズがあるって書いてあったもんな。」

「やっ!お待たせ〜」


そう言って、待たされている3人の会話が落ち着いた見事なタイミングで五条は教室へと入ってきた。

遅れたことに対する謝罪もなく、いきなり教卓前で話し始めた元担任に、3人は呆れながらも視線を向ける。


「突然呼び出して悪かったね。ちょっとみんなにハッピーサプライズをお届けしようと思ってさ!」

「「「…」」」

「何、その顔!全然信じてないじゃん!」

「そりゃそうだろ。そんな胡散臭いワード、誰が信じんだよ。」

「真希、ひどーい。そんなこと言ってると後悔するよ?今回は本当に本当のビッグサプライズだから!」

「悟〜棘が寝ちゃいそうだから早くしてやって。」

「しゃけ…」

「しょうがないな〜じゃあいっちゃいますか!サプライズどうぞー!」


"俺が合図したら入ってきてね!"と言われ廊下の外で待機していたスズだったが、まさかこんなにハードルの高い合図だとは聞いていない。

ハッピーだのビッグだの言っていたが、そんなのは個人の感じ方次第である。

2年生達にとって何のサプライズでもなかったら…そんなとてつもなく大きな不安を抱えたまま、スズは静かにドアを開け顔を覗かせた。


「…先生、めちゃくちゃ出にくいです。」

「え、そう?最高のサプライズになったっぽいんだけど。」

「へ?」

「「スズ!!」」「!」

「ね?」


ニヤリと笑みを見せる五条の言う通り、3人は驚きながらも全開の笑顔をスズに向けていた。

特に狗巻はさっきまでの眠そうな顔から一転…パッと表情を明るくすると、持ち前の運動神経で机を飛び越え、勢いそのままスズに抱きついた。

ちょっと不満そうな五条には気づかず、狗巻は突然の出来事にアタフタしているスズの耳元で小声で話し始める。


「本物のスズ?」

「! ふふっ。はい、本物です!」

「オレンジジュース奢ってあげた、あのスズ?」

「はい!ファンタが好きな棘先輩に奢ってもらった、あのスズです。」

「そっか…良かった…!」


嬉しそうにそう言った狗巻は、スズの存在を確かめるように抱きしめる力を更に強くした。

その様子を眺めていた五条が何が言いたそうに口を開いた瞬間、それよりも早く動いた人物が…


「おい、棘!女の私より先に抱きついてんじゃねーよ!」

「おわっ…!」

「スズ!待ってたぞ!」

「真希先輩!」

「ったく、心配かけさせやがって…!」


狗巻の襟元をグイッと掴んでスズから引き離すと、真希は彼女の頭をワシャワシャと撫でる。

ワンコのように笑顔で撫でられている後輩の姿を見て、真希の顔もまた喜びに溢れていた。

その後パンダから盛大に高い高いをされて、2年生組からの熱い祝福は一旦落ち着きを見せた。


五条が頃合を見計らって声をかけ、スズを教卓の前へと呼ぶ。

そして自分の前に立たせたスズの肩に手を置きながら、今後のことを話し始めるのだった。


「みんなも知ってる通り、スズの存在は上層部から良く思われてない。だからもう少し事態が落ち着くまで、このまま意識不明ってことにしときたいんだ。」

「それはいいけど…じゃあ何でこのタイミングで俺らに話したんだ?」

「それは…みんなに話すなら今がいいかもね〜ってスズと決めたから。ね?」

「はい…!」

「それにほら、スズのことを守る存在は多い方がいいでしょ?みんな協力してくれるよね?」

「当たり前だろ!」「可愛い後輩のためだからな。」「しゃけ!!」

「ありがとうございます!」


ガバッと頭を下げるスズに、五条を含めた4人は揃って笑顔を見せた。

何となく場が解散の雰囲気になってきた時、不意にパンダが1つの疑問を口にした。


「そういえば…恵と野薔薇にはこのこと話していいのか?」

「いいよ!でも会えるのは…交流会の時かな。」

「何でだよ?会わせてやりゃいいじゃねーか。」

「(スズに会ったら、あの2人は悠仁のことを聞きたがる。…スズにはなるべく嘘をつかせたくない。)

 もちろんすぐにでも会わせてあげたいけど、ちょっと…ね。僕もいろいろ考えてるんだよ。」


不安そうに自分を見上げてくるスズに笑みを向けながら頭にポンと手を置くと、五条は2年生達へそう告げた。

それからもう一度再会の喜びを分かち合った後、五条・スズコンビは2年生組と一旦別れたのだった。


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それから一月後…

記録---2018年9月 神奈川県川崎市 キネマシネマ

上映終了後、男子高校生3名の変死体を従業員が発見。

死因:頭部変形による脳圧上昇、呼吸麻痺


「凄惨な現場です。覚悟はいいですか?虎杖君。」


虎杖にとって重くツラい任務が始まろとしていた…



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