変死体発見の一報を受け、虎杖は七海に連れられて現場であるキネマシネマへと到着していた。
現職の刑事達よりも先に建物内へ入った2人は、早速現場検証を開始する。
「見えますか?これが呪力の残穢です。」
「いや、全然見えない。」
「それは見ようとしないからです。私達は普段、当たり前の様に呪いを視認しています。
術式を行使すれば痕跡が残る…それが残穢。だが残穢は呪霊などに比べ薄い。目を凝らしてよく見てください。」
「ん"ー?おぉっ!!見える見える!」
「当然です。見る前に気配で悟って一人前ですから。君の同期のスズは、これに関してはトップクラスですよ。」
「えっ、スズが!?」
「はい。私はもちろんですが、下手したら五条さんより鋭いかもしれません。」
「やっぱスズすげー!」
「虎杖君もそのぐらいになってもらわないと困ります。」
「ぐぬぬ…もっとこう褒めて伸ばすとかさぁ…」
「褒めも貶しもしませんよ。事実に即し己を律する、それが私です。
社会も同様であると勘違いしていた時期もありましたが…その話はいいでしょう。追いますよ。」
「押忍!!気張ってこーぜ!!」
「いえ、そこそこで済むならそこそこで。」
気合い十分の虎杖と、冷静沈着な七海。
いつも一緒にいたスズや五条とは違うノリの七海に戸惑いながらも、虎杖は目の前のミッションに挑もうとしていた。
そもそも何故今日は七海と一緒の任務なのか…
時は1時間程前に遡る。
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修行も一月が過ぎ、虎杖の実力が徐々に上がってきたということで、五条は彼を任務に行かせようと考えていた。
だがその当日彼に特級案件が入り、急遽引率が出来ないことに…
五条は当然の如くスズも連れていくため、虎杖が1人になってしまうのだ。
「今回僕とスズは引率できなくてね。でも安心して、信用できる後輩を呼んだから。」
「え、スズも連れてっちゃうの?」
「当然!僕の任務にはスズが必須なの。」
「いや、全然そんな…うぐっ!」
虎杖の言葉に反応しようとしたスズの口を後ろから塞ぎながら、彼女の方に笑顔を向ける五条。
その有無を言わさぬ笑みに、スズは慌てて首を縦に振るのだった。
そんな彼女の姿に満足そうに頷くと、続いて五条は隣に立つ後輩の肩に手をやる。
「僕の後輩、脱サラ呪術師の七海君でーす。」
「その言い方やめてください。」
「七海先生、お久しぶりです!」
「久しぶりですね。無事で良かった。」
優しくスズの頭にポンと手を置くと、七海は穏やかな顔でそう言い、彼女もまた彼へ笑顔を向けた。
だが2人の良さげな雰囲気にモヤモヤした五条は、スズの頭から七海の手を払い除ける。
とても大人の男とは思えない子供っぽい行動に呆れながらも、七海は彼の言葉を待った。
「呪術師って変な奴多いけど、コイツは会社勤めてただけあってしっかりしてんだよね。」
「他の方もアナタには言われたくないでしょうね。」
「脱サラ…なんで初めから呪術師になんなかったんスか?」
「まずは挨拶でしょう。はじめまして、虎杖君。」
「あ、ハイ。ハジメマシテ。」
「私が高専で学び気づいたことは、呪術師はクソということです。」
「…」
「そして一般企業で働き気づいたことは、労働はクソということです。」
「そうなの?」
「同じクソなら、より適性のある方を…出戻った理由なんてそんなもんです。」
「暗いねー。」「ねー。」
「そこの2人コソコソしない!」
スズは端の方でコソコソしている五条と虎杖に小さめに声をかけ、2人の注意を七海に向けさせる。
そうして七海が話し始めたのは、彼自身の虎杖に対する想いだった。
五条とは性格も考え方も違う七海がどう思っているのか、スズもまたドキドキしながら彼の話に耳を傾ける。
「虎杖君、私と五条さんが同じ考えとは思わないでください。私はこの人を信用しているし、信頼している。」
「先生、ドヤ顔やめてくださいね。」
「でも尊敬はしてません。」
「あ"ぁ"ん?」
「上のやり口は嫌いですが、私はあくまで規定側です。話が長くなりましたね。
要するに、私もアナタを術師として認めていない。宿儺という爆弾を抱えていても己は有用であると、そう示すことに尽力してください。」
「…俺が弱くて使えないことなんて、ここ最近嫌という程思い知らされてる。」
「悠仁…」
「でも俺は強くなるよ。強くなきゃ死に方さえ選べねぇからな。言われなくても認めさせてやっからさ、もうちょい待っててよ。」
「いえ、私ではなく上に言ってください。」
「あ、ハイ。」
静かに自分の名前を呼ぶスズに少し笑みを見せると、虎杖は力強くそう宣言した。
相手から思ったような反応が返ってこず、ちょっと拍子抜けしていたが、それでも彼の目には強い意志が宿っていた。
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というわけで今回、五条・スズと離れて初の任務に向かった虎杖。
この任務で彼は多くのことを学び、また同時に呪術師としてツラい経験もすることとなる。
そんな彼にとって、スズはとても大きな支えとなるのだが…それはまた別のお話。
to be continued...
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