「あれ?夏油どっか行くの〜?」
「うん、ちょっと実験をしにね。」
「実験?何か面白そうだから俺も行きたい!」
「んー…結果がある程度想定できる実験だから、そんなに面白くないと思うよ。」
「…の割には楽しそうだけど。」
「それは…ある人物の意外な顔が見れそうだから、かな。とにかく行ってくるよ。」
「はいはーい。」
仲間にそう告げると、夏油は口元に少し笑みを浮かべながら部屋を出た。
これから彼は最近手に入れた特殊な呪霊を連れて、とある場所へ向かおうとしていた。
今回の実験対象であるスズが、任務のため五条と共に赴いているその場所へ…
第20話 幼魚と逆罰 ー弐ー
七海・虎杖ペアが映画館に残る残穢を追い、辿り着いた場所で呪霊と戦っている頃…
五条・スズペアもまた任務のため、郊外の山中にある某廃墟の前に到着していた。
昔一家心中があった場所であり、肝試しで使われたり、近隣住民からの恐怖の対象になったりすることで呪いが増幅したのだ。
故にこじんまりとした家屋ながら、特級呪霊が複数いるという状況が出来上がったわけ。
「へ〜結構面倒そうなのがいるね。」
「ですね。…先生いけます?」
「誰に言ってんの。」
「あははっ!じゃあ帳と集まってくる低級呪霊の対応に行ってきます!」
「うん、よろしくね。何かあったらすぐ呼べよ?」
動き出そうとしたスズの腕を掴んでそう言うと、五条は彼女の頭を笑顔で撫でてから廃墟内へ入っていった。
帳を降ろし、低級呪霊の相手をしながら廃墟の方に目をやると、我らが担任の自由奔放な戦いっぷりが見えた。
繰り出す派手な攻撃は室内に収まりきらず、 家をぶっ壊す勢いで暴れまくっている五条。
その圧倒的な強さと華麗な身のこなしに、何度も見ているスズでも思わず見惚れてしまう。
「やっぱすごいな〜悟先生…」
「惚れ直した?」
「! あれ、何で!?今あっちに…!」
「終わったから戻ってきた。それに…何かスズに呼ばれた気がして。」
スズの顔を覗き込みながらそう言って、五条は優しく微笑んだ。
そして自分の一挙手一投足に顔を赤くする教え子に嬉しくなった五条は、足取りも軽く歩き出す。
上機嫌で"飯食って帰ろ!"と言う五条の背中を、未だ心臓ドキドキ中のスズは急いで追いかけるのだった。
そうして歩くこと数分。
「ね〜何食べた……スズ?」
振り返った五条の前から、スズは忽然と姿を消していた。
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五条の後ろを歩いていたスズは、不意に引っ張られるような感覚に襲われ、声をあげる間もなく地中に引きずり込まれた。
突然訪れた衝撃でいつの間にか閉じていた目を開ければ、自分が立ったまま木に縛られた状態になっていることに気づく。
そして目の前には低級も低級の呪霊が、特に何をしてくるでもなくこちらをジッと見つめていた。
この状況をどう捉えていいのか分からないスズだったが、とりあえず縛られている紐を切ろうと呪力を込める…が。
「(ん?呪力が出ない…?)」
縛られている力はとてつもなく弱いのに、何故か呪力が出せず紐を切ることが出来ない。
さらに観察してみれば、目の前の呪霊からは呪力というものが一切感じられなかった。
「(何、あの呪霊…何で呪力がないの?…あ、だから襲われるまで気づけなかった?
おまけに今のこの呪力の感じ…自分以外の呪力を吸い取れるのかも。)」
敵はめちゃくちゃ弱いのに、動けないのと呪力が出せないことで全く抵抗できないスズ。
それでもそこまで焦りが出ないのは、相手が何もしてこないからだ。
今のうちに五条に連絡をと思い、ポケットを探ったが…
「…携帯はちゃんと取られてるんだ。」
為す術がなくなったスズは、呆然と空を見上げる。
自分の不甲斐なさを反省しながら、謎の呪霊と謎の時間を過ごすこと1時間…
事態は突然動きを見せる。
ガサガサと音がしたかと思えば、次の瞬間謎の呪霊が跡形もなく消滅した。
と同時に、スズを縛っていた紐もあっさりと切れたのだった。
「おぉ…!取れた!」
「スズ!!」
「悟先生!あ、あのごめんなさい!私、全然気づかなくて…って、先生!?」
「良かった…見つかんないかと思った…」
「そんな大袈裟…」
呪霊を倒すなりスズを抱き締めた五条は、珍しく息を切らしていた。
そのあまりに必死で焦ったような姿に、"大袈裟だ"と伝えようとしたスズは一旦言葉を止める。
「…オマエの呪力も呪霊の気配もなくて…連絡もつかねーし、久々焦った…」
「ごめんな「謝んな。悪いのはスズじゃない。俺が一緒だったのに…ごめんな。」
「先生…」
「飯奢るから許して?あーでもその前に…ちょっと休憩させて。」
スズの肩に手を置いたまま目線を合わせた五条は、そう言ってから木に背を預けて座り込んだ。
自分を探すために今まで見たことないぐらい頑張ってくれた担任の姿は、スズをキュンとさせるには十分だった。
「悟先生。」
「ん?」
名前を呼ばれ、五条は座ったまま穏やかな顔でスズを見上げた。
そんな彼にゆっくり近づくと、スズは五条の目隠しに手を触れそっと上にズラす。
顔に手をやられているのに、嫌がるどころかむしろ気持ち良さそうにされるがままになっている五条は、笑みを見せながら話しかけた。
「ふっ…何だよ。」
「こんなに汗かくまで探してくれたんですか…?」
「当たり前じゃん。…振り返ってスズがいなかった時、自分でも笑えるぐらい焦ってさ。
今まで一緒にいたのが嘘だったんじゃないかとか思って…久しぶりに全力で走ったよ。」
「…ありがとう、先生。」
「どういたしまして。…でも今回のことで改めて思った。」
「?」
「俺、やっぱスズのこと大好き。」
スズの手を握りながら強く言い切った五条は、世の女性を虜にするようなキレイな笑顔を見せた。
そのド直球な愛の告白に、スズは最初の告白以上に顔を赤くする。
そして小さな声で、もう一度お礼を伝えるのだった。
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「あ、夏油おかえり〜」
「ただいま。」
「何か機嫌いいね。実験成功したの?」
「あぁ、大成功だよ。想定以上の結果だった。…これから楽しくなるよ。」
仲間の元に帰ってきた夏油は、怪しい笑みを見せながらそう言った。
彼らが直接スズ達に接触するのも、そう遠くはないだろう。
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