「……んー…」

「スズ、起きた?」

「はい……って、あれ?私寝てました!?」

「うん。俺が起きた時にはもうぐっすり。」

「す、すみません…!肩重くなかったですか…?」

「全然へーき。」


狗巻に肩を貸していたはずが、いつの間にか眠りに落ち、逆に彼の肩に頭を乗せていたスズ。

穏やかな笑みを見せながら"起きた?"と顔を覗き込む狗巻に、スズは恐縮しながら謝罪の言葉を返すのだった。





第22話 幼魚と逆罰 ー肆ー





スズが寝ている間に、近くで甘いものを食べられるお店を探していた狗巻。

いくつか候補を見つけた中でこれ!というものを彼女に紹介しようと思い、狗巻は彼女に自身のスマホを見せながら話しかけた。


「このお店どう?」

「うわっ!何これ!絶対美味しいやつだ!!」

「だよね〜最近できたお店なんだって。近くだし行ってみる?」

「行く行くー!」


元気良くそう言ったスズに、狗巻もまた明るい笑顔を向ける。

立ち上がった狗巻は、サッと手を差し出しスズが立ち上がるのを手伝った。

そうしてお店へ向かって歩き始めた2人だったが、スズはさっきから周りの視線が自分達に集まっているのを感じていた。

いや、自分達ではない…自分の隣を歩いている1つ上の先輩にだ。

五条のイケメンぷりに隠れているが、彼もまた整った顔の持ち主である。

キレイなホワイトベージュ色のマッシュヘアに、口元を隠しているためにより印象的になっている紫色の大きな目。

男性にしては小柄ながら、小さな顔と細身な体型でスタイルも良い。

性格的にもノリがいい方である彼はきっと…


「棘先輩って…」

「ん?」

「めちゃくちゃモテません?」

「…こんぶ。高菜?(…何、急に。褒めても奢んないよ?)」

「そういうんじゃないですよ!ていうか気づいてないんですか?…周りの女性、みんな先輩のこと見てます!」

「…明太子。(…そう?誰とも目合わないけど。)」

「当たり前じゃないですか!みんな恥ずかしがってるんですよ!」

「何でもいいけど、何でスズそんなに楽しそうなの?」


さっきまでとは違い周りには不特定多数の人がいるため、狗巻はいつも通りのおにぎり語に戻している。

そんな彼が思わずおにぎり語なしで聞いてしまう程、今スズはニヤニヤしてとても楽しそうなのだ。

自分の先輩がモテていることに興奮し、優越感と遊び心が刺激されまくっているスズは、その後も狗巻を褒めまくる。


「おかか…こんぶ?(モテるって言ってもらえるのは有り難いけど…でも不特定多数の子にモテても嬉しくなくない?)」

「えっ、そう…ですか?」

「しゃけ。(うん。自分が好きな子に好きになってもらわないと、どんだけモテても意味ないかなって。)」

「ふむ…そういうものか?」

「明太子。(じゃあ例えば…スズに告白してきた人がいたとする。でもその人が自分の好きな人じゃなかったら、告白自体は有り難いけど嬉しくはなくない?)」

「私に告白してきた人…」


この時、スズの頭にはパッと2人の人物が浮かんだ。


"男というのは、惚れた女には甘くなるものだ。"

"…俺、スズが好き。"


方や呪いの王、方や現代最強呪術師…

属するグループは違えど、どちらもトップオブトップな男達である。


「(私…もしかしなくても、かなりヤバい人達に好かれてる…?もうちょっと普通の人いないのか…!)」

「スズ?どした?」

「! あ、いや何でもないです!…でも確かに、自分に置き換えたら棘先輩の言ってることが分かる気がします。」

「しゃけ!(でしょ?好きな子にだけモテてれば、人は幸せなんだと思うよ!)」

「ですね!」


そんな青春ど真ん中みたいな会話をしながら、2人は目的地へと足を早めるのだった。



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