河川敷に座ってダベっている3人の高校生は、相も変わらず映画談議に花を咲かせていた。
全員が一度は観ている"ミミズ人間2"が他のシリーズ作品とどう違うのかを熱く語り合う男2人を他所に、スズは不意に1つの呪力を感じ取る。
それは先ほど感じた七海のものでも、慣れ親しんだ高専関係者のものでもなくて…
少し前に自分自身に降りかかった、謎の呪霊による誘拐事件…あの現場にほんの僅か漂っていた呪力に似たものだった。
だがバッと橋の上の方を見やったスズの目に、呪力を発している"何か"が映ることはなかった。
第24話 幼魚と逆罰 ー陸ー
察知した呪力に不穏なものを感じたスズは、その後しばらく橋の上に視線を走らせていたが、隣に座る吉野に話しかけられ意識を戻す。
どうやら"ミミズ人間2"に関する話は、一旦収束したようだ。
「虎杖君も木下さんも映画好きなの?」
「ちょいと事情があってさ、ここ最近は映画三昧。でも俺もスズも、ちゃんと映画館でってわけじゃねぇんだよ。なっ?」
「うん、残念ながらね。半強制的に観させられてる感じだし。」
「えーそうなんだ。やっぱり映画館で面白い作品引いた時の感動はデカいよ。」
「最後に行ったのいつだっけ…今度オススメあったら連れてってよ。」
「あっ、悠仁だけズルい!私も久しぶりに行きたい!」
「おっ、じゃあ3人で行くか!」
「!」
「? あ、連絡先?ほい。スズのも入ってっから一緒に登録していーよ。」
「よろしく〜」
ついさっき会ったばかりの自分に何の躊躇いもなく自身のスマホを差し出す虎杖と、それに特に抵抗を示すことのないスズ。
そんな2人の自然体な姿勢に、吉野はまだ戸惑いを隠せないでいた。
そうして連絡先のやり取りをする虎杖と吉野を横目に見ながら、スズはやはりさっきの呪力が気になっていた。
もしかしたらまだ追いつけるかもしれない…
不穏な呪力が何か悪さをする前に止められるかもしれない…
「悠仁、順平ごめん!ちょっと先に帰る!」
「えっ!ちょ、スズ!?」
驚きの声を上げる虎杖に笑顔を向けると、スズは橋の上に向かって走り出した。
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不穏な呪力を探すこと1時間…
常人の目ではとても追えないようなスピードで探していたスズだったが、目的のものは見つけられないでいた。
というのも、彼女が感じ取った呪力は大抵の呪術師にはとても感じ取れないレベルの残穢なのだ。
ましてやそれを追うなど、スズでなければやろうとすら思わないだろう。
「(ダメか…もう完全に呪力が消えてる。あれは何だったんだろう。…今度悟先生に相談してみよ。)」
乱れた息を整えながらそう決めると、スズはもう1つの心配事であった七海のことを聞こうと伊地知へ電話をかけた。
応答した伊地知は焦りと安堵が入り混じったような声で返事をする。
『あ、木下さん…!どこにいるんですか!勝手にいなくなったから心配しましたよ!』
「ご、ごめんなさい…あの、七海先生の状況って何か知ってますか?」
『な、七海さん…ですか。いえ、今のところ何も連絡はないですが…どうかしましたか?』
「さっき軽い地震みたいなのを感じたんですけど、そこから七海先生の呪力を感じたので大丈夫かなと思って。」
『そういうことですか。たぶんもうすぐ連絡が来ると思うんですが…その前に木下さんを迎えに行きますから、位置情報送ってもらえますか?』
「分かりました。お願いします…!」
それから15分後にはスズは伊地知と合流し、彼が運転する車に乗り込んでいた。
虎杖とはぐれたことで七海に怒られるとハラハラしている伊地知を落ち着かせながら、スズは七海からの連絡を待つ。
と、そこへ響くスマホのバイブ音。
画面には"七海 建人"の文字が表示されていた。
「あああああ!!定時より早い連絡!!ハイ、叱られる!!」
「伊地知さん、落ち着いて!そんな状態で電話に出たら、一発でバレますよ!」
「うぅ…はい、ごめんなさい。」
『? 位置情報を送ったので、ピックアップをお願いします。一度高専に戻って、家入さんの治療を受けます。』
「! 治療って…!!」「七海先生、ケガしてるんですか!?」
『! スズも一緒なんですか。大丈夫、死ぬような傷じゃありません。』
「(良かった。)すぐに虎杖君と合流、そちらに向かいます。」
「あ、伊地知さん…!」
『…一緒にいないんですか?』
「(私の馬鹿!!)」
「七海先生、本当に平気ですか?車に乗ったら、すぐ応急処置しますから…!」
『ありがとうございます。スズがいるなら、家入さんの手は借りなくても良さそうですね。』
そんな会話で通話を終えると、伊地知は車を飛ばして虎杖・七海の順でピックアップを完了させた。
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