虎杖と別れ、自分の部屋がある五条家へと向かっていたスズ。
思わず漏れたあくびにスマホで時間を確認すれば、もう22時を回っていた。
どうりで眠いはずだ…と目を擦りながら歩いていた彼女だったが、突然かけられた声に一気に眠気が飛んだ。
声のする方に目を向ければ、そこには自分の部屋のドアに寄りかかって立つ五条の姿があった。
「遅かったな。」
「ひっ…!ビックリした…ごめんなさい。ちょっとバタバタしてて…」
「…悠仁と何話してたの?」
「へ?悠仁?」
「さっき高専寄った時に、2人が話してんの見えたから。」
「えっ、先生近くにいたんですか!?」
「…俺の呪力にも気づかないぐらい真剣な話してたのかよ。」
「そんなことないですよ…!ただ私が小さい時の話をしてたから、少し会話に集中してたのかも。」
「…そっか。」
スズとまともに顔を合わせず、終始俯きながら声を発する五条は、何やらいつもと雰囲気が違って…
それは自分の帰宅が遅かったからだと思ったスズは、冗談を言いながら五条の顔を覗き込み、その場を乗り切ろうとした…のだが。
師匠の反応は、思っていたものとだいぶ違っていた。
「あ。先生、もしかしてヤキモチですか〜?」
「…だったら何だよ。好きな奴が他の男と喋ってたら…普通妬くだろ。」
そう言ってフイっと目を逸らす五条に、スズは一気に動揺し始める。
まさか本当にヤキモチを妬かれてるとは思っていなかったため、何と返していいか分からず今度は彼女の方が俯いてしまった。
その様子に少し機嫌が直ってきたものの、まだイジワル心が消えない五条は、尚もスズに言葉を投げかける。
「棘と任務行ってもいいし、悠仁と夜まで喋っててもいいけど……俺だってスズと一緒にいたい。」
「!」
「今日朝から1回も会えてなくて、夜になれば会えるかもって思ってたら…オマエ全然帰ってこねーし。」
「うっ…」
「だから今日の俺は圧倒的にスズが足りてねーの。」
「た、足りてない…!ご、ごめんなさい。」
「…ヤダ。許さない。」
「え…」
この時点で五条の機嫌はすっかり直り、顔には笑顔も戻っていたのだが、スズはそれに気づかず困ったような顔で視線を泳がせていた。
その仕草や表情の1つ1つが五条のツボにはまり、自分から仕掛けたにも関わらず、彼はニヤケる顔を抑えられなかった。
そしていよいよ限界を迎えた五条はスズの手を引くと、今日の不足を補うようにギュッと抱き締めた。
「うわっ…!」
「はぁ〜やっと触れた…」
「せ、先生…?」
「……今日部屋泊めて?そしたら許してあげる。」
「散らかってますけど…」
「いつものことじゃん。」
「失礼な!最近はキレイにしてます…!」
「ふっ。じゃあその部屋見せて?」
視線を合わせて色っぽく微笑む五条に、スズはまた心臓をドキドキさせるのだった。
だがこの日初めて至近距離で見つめ合ったことで、スズはあることに気づく。
それに気づいた瞬間、彼女の中のドキドキ感は落ち着きを取り戻し、いつもの心配性な顔へと変わった。
いきなり自分の顔に両手で触れてきた想い人に、さっきまでの余裕っぷりが嘘のように五条の心臓はうるさくなる。
「な、何だよ…どうした、スズ?」
「先生、ちゃんと寝てる?何か顔色悪いし、目の下に隈もある…それに少し痩せたような…」
「んなことねーよ。へーき。」
「平気じゃないです!きっと今日、朝から任務だったんでしょ。
ただでさえ朝ご飯あんま食べないのに、忙しくてお昼も抜いて、夜も夜で疲れて食べてないんじゃないですか?」
「!」
「おまけにそういう時の先生って、疲れてるのに頭だけ冴えてなかなか寝れないことが多いから…だから全然平気じゃないです!」
「…俺の顔見ただけでそこまで分かんの?」
「当たり前です!何年一緒にいると思ってるんですか?」
大きな問題児をどうケアしようか考えながら、スズは五条にそう言って優しい笑顔を向ける。
いつもは自分がスズに向けて言っていたセリフを言われ、五条はいつかの夜のようにまた胸がキュッとなった。
そんなこととは知らず、とりあえずお腹に優しい食べ物と寝床が必要だと判断したスズは五条の大きな手を引き部屋へと連れて行く。
部屋に入るなり寝床を整えたり、冷蔵庫を開けたりと動き回るスズのお陰で、問題児のケアは着々と進んだ。
そうして1時間が経つ頃には、いつもの座椅子に座ってすっかりリラックスモードになった五条を見ることができたのだった。
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五条がトイレのために部屋を出て戻ってくると、スズがベッドに頭を乗せて眠りこけていた。
朝からたくさんの任務をこなし、七海の治療に虎杖とのやり取り、そして師匠のケア…
もうすぐ0時を過ぎようとしている時間を見ても、彼女が睡魔に負けるのは必然だろう。
そんな常に一生懸命なスズを穏やかに見つめながら、五条は彼女を軽々と持ち上げゆっくりとベッドへ運んだ。
そして愛おしそうに髪を撫でながら、静かに呟く…
「スズ…俺、どうしたらいい?オマエのこと、どんどん好きになってくんだけど。
他の男と喋ってんのムカつくし、そもそも誰にも渡したくねーし、ずっと俺だけの傍にいて欲しい…
あ〜ぁ…重い男にはなりたくなかったんだけどな〜でも俺そのぐらい本気だから…この先もずっと覚悟しとけよ?」
気持ち良さそうに寝息を立てているスズにそう言って微笑むと、五条は彼女のおでこにそっと唇を寄せた。
to be continued...
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