朝になり太陽の光が部屋に差し込んでくるのに合わせて、スズは深い眠りから覚醒しようとしていた。
目を開けて最初に感じたのは、左手に感じる人の温もりと聞きなれた穏やかな寝息だった。
そちらに視線を向ければ、そこにはスズの手を握ったまま熟睡している五条の姿が…
気持ち良さそうに寝ていることに安心したのも束の間、彼の体勢に気づいた途端スズは一気に目を覚ます。
しっかり寝せなきゃいけない人物が、ベッドに頭を乗せたうたた寝スタイルで寝ているのだ。
そっとベッドに移動させるか、一度起こして体のケアをするか…
朝から頭をフル回転させていたスズの耳に、低く穏やかな声が聞こえてくる。
第25話 固陋蠢愚
「……スズ?おはよ。」
「あ、おはようございます…!先生、ごめんなさい。私がベッドで寝たからそんな体勢で…」
「俺がベッドに運んだんだから、スズは何も謝ることないよ。それに手握ってたからよく寝れたし。」
「いや、でも…!」
「ん〜じゃあアラーム鳴るまでもう少し時間あるから…一緒にベッドで寝ていい?」
「えっ!?」
急な展開に目をパチクリするスズを笑顔で見つめながら、五条はゆっくりと彼女のいる方へ上がってくる。
そしてあっという間にスズを抱き寄せると、そのままバフッとベッドに倒れ込んだ。
初めての経験、初めての体勢に、スズは顔を赤くしたまま言葉が出せないでいた。
「あ、あの先生…!」
「ん?いいよ、俺の腕に頭乗っけてな?」
「ちがっ…そういうことじゃ、なくて…!」
「ふっ。おやすみ…また1時間後にね。」
耳元でそう呟くと、五条はスズを抱き締める力をさらに強くして眠りに落ちていったのだった。
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1時間後…
ドキドキし過ぎて全く眠れなかったスズを他所に、五条は何とも清々しい表情で目を覚ました。
「ん〜良く寝た〜今までで最高の朝だわ。」
「そうですか…」
「あれ?オマエ、何でそんな寝不足っぽい顔してんの?」
「誰かさんのせいで寝不足なんですよ!!」
「えっ、俺?…あ、俺に何かされると思ったんでしょ〜スズのエッチ。」
「なっ!ち、違います…!そんなんじゃ「しないよ。」
「へ?」
「スズが嫌がるようなことは絶対しない。俺、オマエのことマジだからさ…そのへん大事にしたいの。」
「! 先生…」
「てことで朝飯にしよっ。今日は食べれそうな気がするから俺作るわ。」
優しく微笑みながらスズの頭を撫でると、五条は軽やかにベッドを降りてミニキッチンへと向かう。
残されたスズはと言えば…もうこれ以上ないぐらい真っ赤な顔で師匠の後姿を眺めていた。
それから30分も経たないうちに、最強の男が作るシンプルな朝食が出来上がった。
ようやく心臓が落ち着きを取り戻したスズと一緒に食卓を囲む五条は、相も変わらずのご機嫌モード。
そんな彼に、スズは昨日の出来事を相談しようと話し始めた。
「あのね、先生。」
「ん?」
「昨日悠仁の任務に合流して河川敷で話してた時に、ちょっと怪しい呪力を感じて…」
「怪しい呪力?どんな?」
「んー具体的には言いにくいんだけど…前に私が謎の呪霊にさらわれたことあったでしょ?あの時に少し似た呪力を感じたような気がするんです。」
「てことは、その誘拐事件と今回の悠仁の案件が同じ奴の仕業ってこと?」
「まだ何とも言えないんですけど…どっちの事件にも、何らかの形で関わってる人がいるような感じがします。」
「スズのそういう感覚って当たるからな〜…うん、俺も注意して探ってみる。また何か気づいたらすぐ言って?」
「はい!…あ、電話。すみません、ちょっと出てきます!」
そう言ってスマホ片手に席を外したスズは、5分程して戻ってきた。
相手と内容を聞けば、どうやら緊急の任務が入ったようで…
もう少し一緒に過ごせると思っていた五条は途端にテンションが下がる。
「電話誰から?」
「伊地知さんです。何か告知なしの帳が降りたみたいで、その調査に行って欲しいって。」
「じゃあ俺も行く。」
「何言ってるんですか。今日からしばらく海外出張でしょ?私もう出ちゃいますけど、ちゃんと支度して、遅れないように向かってくださいね。」
「え〜もう行くの〜?まだいいじゃん。」
「急ぎって言われちゃったんです。お見送りできなくてごめんなさい。」
「……気をつけろよ。」
「! はい!ありがとうございます。先生もね。」
「うん。あ、お土産何がいい?やっぱお菓子?それとも置き物とかにする?」
「ふふっ。じゃあ先生がいいです。」
「え?」
「先生が無事に帰って来てくれれば、それで十分です。」
"食器そのままでいいですからね〜"
そう言いながらバタバタと部屋を出ていったスズを見送る五条の顔は、ほんのりと赤く染まっていた。
「最後の最後でそれは反則でしょ…」
想い人からの不意打ちの一言に嬉しさが抑え切れず、ニヤニヤしながら食器を洗う五条であった。
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