スズに伊地知から連絡が入る少し前のこと…里桜高校の屋上に2つの人影があった。
1つは顔面ツギハギだらけの真人という呪霊、そしてもう1つはいつぞやの袈裟姿が想像できないような黒いラフな服装の夏油という男だった。
真人が呪文を唱えて帳を降ろすと、2人は静かに会話を始める。
「おーできたできた。」
「悪いね真人。私の残穢を残すわけにはいかないから。」
「別にいいけどさ〜夏油の残穢に気づくような奴いるの?」
「少ないだろうね。でも例の彼女は相当鋭いから、用心するに越したことはない。」
「あ〜スズちゃんだっけ?そんなに?」
「あぁ。この前も河川敷で私の呪力に反応していたからね。それより"帳"の効果は?」
「内からは出られない、外からは入れる。あくまで呪力の弱い人間はだけど。」
「住宅地での事前告知のない"帳"…すぐに"窓"が通報するだろう。君の考えている絵図が描けるといいね。」
「大丈夫じゃないかな。順平が宿儺の器を引き当てた時点で流れはできてるんだ。2人をぶつけて、虎杖悠仁に宿儺優位の"縛り"を科す。」
「…宿儺絡みの時も、木下スズには気をつけた方がいい。彼は彼女に惚れてるから、打つ手を間違えると痛い目に遭うよ。」
「ふ〜ん。 分かった〜」
そんな気のない返事をする真人と少し会話をしてから、夏油はその場を後にした。
------
----
--
一方、帳が降りたとされる里桜高校へ向かっていたスズは、その途中である呪力を感じ取っていた。
強い呪力に体が引き寄せられる彼女の体質からすると、その力はかなりの強さで…
その正体は、彼女の中で1つに絞られていた。
「(宿儺の呪力…?)」
虎杖の呪力はなく、純粋に宿儺だけの呪力を感じるということは、どこかに彼の指が転がっていることを示していた。
特級呪物がいつまでも放置されていいわけはなく、感じ取ったからには一刻も早く回収する必要がある。
そう判断したスズは、伊地知に一言連絡を入れるとすぐさま呪力を追って駆け出した。
そうして辿り着いた場所は、どこかの廃屋でも寂れた神社仏閣でもなく…ごくごく普通のアパートだった。
不思議に思いながらも呪力を追い続けると、ある1つの部屋へ行き当たる。
表札には"吉野"と書かれた札が入れられていた。
「え、ここってまさか順平の家…?」
部屋の中からは呪霊の気配も、何故か人の気配すら感じられない。
あるのは、ただただ宿儺の指の力だけだった。
もはや嫌な予感しかしないその部屋へ、スズは静かに入って行く。
そして…
順平の部屋と思われる場所に転がっていた宿儺の指と、寝室に保冷剤と共に横たわっている母親の遺体を発見した。
「(酷い…宿儺の指に引き寄せられた呪霊にやられたんだ。)」
遺体の前で五芒星を切って祈りを捧げると、スズは急いで伊地知へ連絡を入れた。
そこで"すぐに向かうからその場にいてください"という指示を受けたスズは、宿儺の指を呪力で保護してから考えを巡らせる。
「(あの保冷剤は順平がやった…てことは、お母さんのあの姿を見たってこと…だよね。普通でいられるわけない…
…あれ、ちょっと待って。順平って今どこにいるんだ?家以外で順平が行きそうな場所って…?)」
数十分後、吉野家へ駆けつけた伊地知から、虎杖が帳が降りた場所へ向かったことを聞かされる。
自分や七海がいくら言っても止めることができなかったと…
「…悠仁はそういう子です。きっと誰が言っても止められなかったですよ。」
「木下さんが言っても、ですか?」
「ダメだったと思います…っていうか、そもそも止めないかも。」
「あー…そうでした。木下さんは五条さん属性の人でしたもんね。」
「そんなの初めて言われましたけど…ってことで、私も行ってきます!」
「はい……えっ!?ちょ、木下さん!?」
「悠仁1人じゃ心配ですから!じゃ!」
吉野家のことも処理しなきゃいけないし、でもスズをこのまま行かせるわけにもいかない…
そんなこんなで慌てまくっている伊地知を横目にスズは猛ダッシュで彼の脇をすり抜け、虎杖のいる里桜高校へ向かった。
to be continued...
- 104 -
*前次#
ページ:
第0章 目次へ
第1章 目次へ
第2章 目次へ
第3章 目次へ
第4章 目次へ
第5章 目次へ
第6章 目次へ
章選択画面へ
home