「おはよう。今の君はどっちなのかな?」

「……アンタ確か…」

「五条悟。呪術高専で1年を担任してる。」

「呪術…先輩…!伏黒とスズは!?あ?なんだよコレ…って、スズ!良かった!無事だったのか…!」

「うん。ありがとう…!」

「他人の心配してる場合じゃないよ、虎杖悠仁。君の秘匿死刑が決定した。」


見知らぬ部屋で目覚めた虎杖は、両腕を背後で封印された状態で椅子に座っていた。

縛られている箇所を振り返れば、そこには複雑な表情を浮かべたスズの姿が…

そして五条と名乗る男から、何とも衝撃的な言葉を告げられたのだった。





第2話 秘匿死刑





時は前日の夜へと遡る…

学校の屋上に、特級呪物を飲み込んだ虎杖を警戒するスズと伏黒の姿があった。


「オマエを"呪い"として祓うころす。」

「いや、なんともねーって。それより俺も伏黒もスズもボロボロじゃん。はやく病院いこうぜ。」

「(今喋ってんのが呪物か虎杖かも、こっちは分かんねーんだよ…!)…スズどうだ?」

「…さっきまでの呪力が宿儺なんだとしたら、今の状態はさっきとは違う。でもそれだけで判断するのは…」

「だよな。(クソッ!!どうしたらいい!?)」


両手を上げて降参ポーズを取っている虎杖は、先ほどまでの禍々しい雰囲気ではなく、今までの明るく呑気な状態に戻っていた。

顔や体の文様も消え、傍目には呪物の影響はないように見える。

だがそれだけで一概には安全と言えないのが、この呪術界の難しいところなのだ。

故に、並んで座ったままスズと伏黒は頭を抱えていた。

そんな2人のもとへ、担任の先生がやって来る…!


「今どういう状況?」

「なっ…五条先生!どうしてここに!」「うわっ…!ビックリした!」

「や。来る気なかったんだけどさ、さすがに特級呪物が行方不明となると、上が五月蠅くてね。観光がてらはせ参じたってわけ。」


"ボロボロだね〜"と笑いながら、すっかり傷だらけになっている教え子2人を携帯で連写する五条。

だが、ふとスズの顔を見た瞬間その顔色が変わる。

スッと彼女の傍に膝をついてしゃがむと、先ほどの伏黒と同様、頬に手を当てて呪力を確認する。


「…スズ、呪力どうした?」

「あ、いや、ちょっと…」

「高専から追加の除霊任務が来て、引き受けたらしいです。」

「! そう…(僕を通さず直接任務振ったのか…やってくれるね。スズ殺す気かよ。)」

「先生、あの…」

「ん?」

「ごめんなさい、勝手に引き受けて…」

「スズが謝ることないよ。高専側がもっと考えて任務を割り振るべきだ。」

「(五条先生がキレてる…珍しいな。)」

「除霊任務は呪力消費が激しいから、ただ振ればいいってもんじゃない。これからは高専に直接言われても、必ず僕に相談すること。いいね?」

「はい!」

「よろしい!てことで、僕の呪力を少し分けるから。」


笑顔でそう言った五条は、スズの頭に優しく手を乗せて呪力を送りながら、話題を呪物の方へと移す。

しかし"見つかったのか?"と聞けば、学生3人からの返答は思っていたものとはだいぶ違っていた。


「…で、見つかった?」

「「…」」

「あのーごめん。俺それ食べちゃった。」

「…マジ?」

「「「マジ。」」」

「んー?」

「見えてんの?」

「ははっ。本当だ、混じってるよ。ウケる。」


五条をもってしても予想外だった展開に、しばし場は静かになる。

そしてスズの元を離れた彼が、虎杖に近づき確認すれば、そこには間違いなく特級呪物の気配が…

あんな毒物を飲み込んでも尚、平然としている虎杖に対して五条はいろいろと質問を投げかける。

スズと伏黒も、そんな2人の様子を静かに見守っていた。


「体に異常は?」

「特に…」

「宿儺と変われるかい?」

「スクナ?」

「君が喰った呪いだよ。」

「ああ、うん。多分できるけど…」

「じゃあ10秒だ。10秒経ったら戻っておいで。」

「でも…」

「大丈夫。僕、最強だから。」


軽く準備運動をしながら、五条はニヤリと笑ってそう言った。

自分が持っていたお菓子の紙袋を伏黒に渡し、スズには"絶対安静"を言い渡してから戦闘態勢に入る。

が、伏黒は自分の担任が土産持参で来たことにかなりの衝撃を受けていた。


「(この人、土産買ってから来やがった…!人が死にかけてる時に。)」

「土産じゃない。僕が帰りの新幹線で食べるんだ。」

「悟先生!!」「後ろ!!」

「生徒の前なんでね。カッコつけさせてもらうよ。」

「!!」


呑気に会話をする担任の背後に迫る両面宿儺。

慌てたスズ達が危険を知らせれば、五条はいとも容易く宿儺の攻撃をかわす。

さらに続けざまに彼の首元目掛けて強烈な一撃をお見舞いした。


「(おそろしく速い?違うな。)まったくいつの時代でもやっかいなものだな呪術師は。だからどうという話でもないが。」

「7…8…9…そろそろかな。」

「(クソ!まただ!のっとれない!!この虎杖とかいう小僧…一体何者だ!?)」


攻撃を喰らいつつも悠々と反撃する宿儺だったが、五条とその背後に座るスズと伏黒の元へ攻撃が届くことはなかった。

五条の前でフワフワと浮いている瓦礫の山…

約束の10秒が近づき、虎杖の体は宿儺から元の自分へと戻り始めていた。

そしてついに10秒が経過する。


「おっ。大丈夫だった?」

「驚いた。本当に制御できてるよ。」

「でもちょっとうるせーんだよな。アイツの声がする。」

「それで済んでるのが奇跡だよ。」


言った通りの時間で元に戻った虎杖に五条も驚きを見せる。

と同時に彼のおでこに指を当てると、そのまま気絶させて場は再び静寂を取り戻したのだった。


「何したんですか。」

「気絶させたの。重っ。」

「悠仁は…?」

「これで目覚めた時、宿儺に体を奪われていなかったら、彼には器の可能性がある。…さて、ここでクエスチョン。彼をどうするべきかな。」

「…仮に器だとしても、呪術規定にのっとれば虎杖は処刑対象です。でも死なせたくありません。」

「…私情?」

「私情です。なんとかしてください。」

「ふむ…スズは?どうしたい?」

「私も…このままお別れは嫌です。悠仁は、呪術師として活躍できる素質があると思います。だからもう少し…一緒に過ごしてみたいです。」

「クックック。かわいい生徒達の頼みだ。任せなさい!」


そう言って、五条は教え子2人に笑顔を見せた。



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