「…よしっ。これで大丈夫かな。」


そう呟くと同時に、スズは領域展開を解除した。

彼女の力のお陰で、体育館内にいる教師や生徒は皆穏やかな寝息を立てていた。

改めて全体を見渡し、安堵のため息をついたスズは少し笑みを見せる。

だが次の瞬間、弾かれたように校舎の方へ目を向けたスズ。

視線を向けた先からは、新たな強い呪力が放たれていた…





第27話 もしも





「さぁ、ROUND2だ。」


新しい呪力の発信源を目標に校舎へ向かって走っていたスズ。

彼女が1つの階段を駆け上がり、廊下に出たタイミングでそんな言葉が聞こえてきた。

視線を向ければ、そこには虎杖と新しく感知した呪力の持ち主、そして…ある人物に似た呪力を持つ呪霊がいた。

だがその呪霊が今にも攻撃を仕掛けてきそうなのに、何故か虎杖は呆然と立ち尽くしている。


「ちょ、悠仁…?何で動かないの…!!」


このままではまともに攻撃を受けると思い、スズはトップスピードでそちらに向かいながら彼の前へ呪力の壁を作った。

呪霊が壁を殴った音でハッとした虎杖は、目の前の壁とすぐ傍にいる慣れ親しんだ呪力に気づく。


「悠仁、何してんの!!大丈夫!?」

「スズ…!」

「(スズ…?あれ、確か夏油が言ってたのって…)」

「この呪霊、何?ってか順平は!?」

「…これが順平なんだ。」

「え?」


虎杖の口から出た思わぬ言葉に、スズも一瞬だが気を抜いてしまう。

その隙を突いて、順平に似た呪力を持つ呪霊は2人にそれぞれ一撃を喰らわせた。

思っていた以上に重かった一撃は、油断していたスズの体を簡単に吹っ飛ばす。


「ゲホッ…いった…」

「スズ!!グフッ…順平!!しっかりしろ!!今、治してやるから!!」


壁に激突し咳き込んでいるスズの方に駆けつけたい虎杖だったが、自分に向かってくる吉野がそれを許さなかった。

そんな2人の元へ一刻も早く駆けつけようと回復術でケガを治していたスズは、ふと目の前に誰かがいることに気づく。

バッと顔を上げれば、そこには例の新しく感知した呪力の持ち主が立っていた。


「(! 全身ツギハギの呪霊…!七海先生が言ってた奴だ。)」

「ねぇ。君、名前何ていうの?」

「(何してくるか分かんない…気をつけなきゃ。)…人に名前を聞くときは、まず自分からでしょ。」

「あーそっか。ごめんごめん。俺は真人、君は?」

「…木下スズ。」

「やっぱり君がスズちゃんか〜…変わった呪力だね。面白い!」

「この帳を降ろしたのはあなたね。」

「すごい、そういうの分かるんだ!やっぱり鋭いんだね〜」

「(さっきからやたらと"やっぱり"って言われる…)学校の人や…順平にあんなことしたのも、あなた…?」

「ん〜半分正解!学校の人をやったのは順平だよ、もう1つの方は俺。」


"人間を呪霊に変えられるの?"

虎杖と戦っている呪霊に少し視線を送りながら、スズは真人に対してそう問いかけた。

彼女からの質問に人型呪霊は笑みを見せると、視線を合わせるようにしゃがんでから答え始める。


「ちょっと違うかな。正確には魂の形を変えてるの…こんな風に。"無為転変"。」

「え?」

「(! 変えられない…何で!?)」

「ちょっと!馴れ馴れしく触んないで!!」


自身の術式について説明をしながら、スズの頭に手を置く真人。

だが吉野の時と違い、彼女の見た目も魂も何一つ変えることができなかった。

驚き動揺する真人を他所に、スズは頭に乗っていた手をパンッと払いのける。

そして会話中に治療を終え動けるようになったスズは、すぐさま虎杖の元へ走った。


「(…何だ、あの子。何で変えられない…?)」


自分の元から走り去って行く少女の後ろ姿を見つめながら、真人は複雑な表情で考えを巡らせていた。



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