宿儺の生得領域で虎杖・七海コンビ 対 真人の戦いを見守っているスズ。

本当ならすぐにでもここを出て2人の援護に回りたいところだが、宿儺がそれを許すはずもない。

結果…玉座に座る彼の隣で、両手を組んで祈りながら外の様子を見つめるしかないのだった。

しかしそんなスズの姿が、王にとっては面白くないようで…

隣にいるスズの背後から手を回し頭に触れると、少し強引に自分の方に引き寄せた。


「! 宿儺…?」

「ここにいる間は俺だけを見てろ。他の男を視界に入れるな。」

「そ、そういう発言は…女子に、モテないと思うけど…!」

「構わん。…俺にとっての女は、今目の前にいるオマエだけだからな。」


そう言って不敵な笑みを見せた宿儺は、赤くなっているスズの髪を優しく撫でた。





第30話 我儘





それからというもの、宿儺は片時もスズから離れようとしなかった。

後ろから抱きついてみたり、膝の上に乗るよう言ってみたり…

自分が何か行動を起こす度にドキドキして挙動不審になるスズに、王は終始ご機嫌だった。

五条や虎杖と違い、会いたいときにすぐ会えるわけではない彼にとって、これだけ長く一緒にいられる時間はとても貴重なのだ。


「スズ。」

「ん?何?」

「…このままずっとここにいろ。」

「きゅ、急にどしたの?」

「オマエにたくさん触れたら…離したくなくなった。」

「! で、でも…ずっと一緒にいたら、飽きちゃう…んじゃない?」

「俺の行動でこんなにすぐ表情が変わる奴と一緒にいて飽きるわけないだろ。…それが惚れた女なら尚更な。」


不意に隣にいたスズの名を呼ぶと、突然ギュッと彼女の体を抱きしめる宿儺。

王からのド直球の言葉に、スズは内心のドキドキを隠しながらサラッと返そうとしたのだが…

そんな些細な抵抗も、耳元で聞こえる低音ボイスの前では全く意味をなさなかった。


「…私、そんなに表情変わってる?」

「あぁ。今のこの顔も初めて見たぞ?」

「! そ、そんなことないよ!いつもの…顔、だと思う…けど。」

「そうか?なら…もっとよく顔を見せろ。」


そう言って、宿儺はスズの顎に優しく手を添えクイッと持ち上げる。

間近で見つめ合った2人の表情は、面白いように対照的で…!

楽しそうに口角を上げる王に対し、スズは顔を赤くしながら視線を逸らすのだった。

と、逸らした視線の先に見えた黒い球体。

それが何か分かった瞬間、スズは弾かれたように立ち上がった。


「何だ、スズ。急に動くな。」

「あの呪霊、領域展開した…!」

「そのぐらいするだろ。放っておけ。」

「(悠仁のあの焦り方…七海先生が閉じ込められたんだ…)宿儺…私、行かなきゃ。」

「…ここを出るには、俺の許可がいるぞ。」

「許可して…ください。」


少し俯きながらそう言うスズに合わせるように、宿儺もまた立ち上がる。

さっきまでの表情と打って変わってツラそうな顔をしているスズをしばし見つめた後、宿儺はそっとその頬に触れた。

反射的に自分を見上げる彼女に、王は静かに言葉を紡いだ。


「…オマエのその顔は苦手だ。」

「え?」

「前に言ったことを覚えてるか?男というのがどういう生き物か…教えたよな。」

「…惚れた人には、ってやつ?」

「そうだ。オマエの言い方次第では、ここから出してやってもいい。」


呪いの王からのむちゃぶりに、スズは必死に考えを巡らせた。

だが宿儺からのお題の答えは、実はとてもシンプルだ。

"男は惚れた女に甘い"のだから、ただただ素直にお願いをすれば彼は許可を出す。

それに気づかず悩みに悩みまくっているスズを、宿儺は彼女の髪をいじりながら楽しそうに待つのだった。


「…宿儺!」

「おっ、答えが出たか?」

「考えたけど、宿儺が許してくれそうな言い方が思いつかないから…」

「(さて、どう来るか…)」

「……お願い、宿儺。私を外に出して…!」

「(! ふっ。直球で来たか…全く…)どこまでも俺好みだな、オマエは。」

「へ?」


スズが宿儺の目を見つめ強く訴えかければ、王のオーラは途端に柔らかくなる。

そして今一度彼女を抱き寄せると、耳元でそっと囁いた。


「ケガだけはするなよ。」

「! う、うん…!」

「…また呼ぶ。」


口角を上げながらそう言った宿儺に頭をポンと叩かれると、スズの意識はふっと遠くなった。



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