とある山の中…

モクモクと煙が立ち込める温泉に、呪力の回復に努める漏瑚と真人の姿があった。

2人の傍らには、黒い服に身を包んだ夏油の姿もある。

彼らは今回の件について意見を交わしていた。


「真人、オマエも随分と消耗しているな。」

「あ、バレたー?宿儺と器、アイツら天敵でさあ。あと夏油の言ってた木下スズも超厄介。

 たまたま手に入った玩具おもちゃから始まった遊びだったけど、なかなかうまくいかないね。

 やっぱり人質とって、ハッキリ"縛り"作らせるべきじゃなかった?」

「いや、縛りはあくまで自分が自分に科すものだ。他者の介入や他者間との縛りは簡単ではないよ。

 もしそれを簡単にやるとしたら…真人が苦手にしてるスズの力が必要かもね。彼女がいれば、思わぬ縛りが作れるかも。」

「めちゃくちゃ気に入ってるじゃん。」

「んー…そうだね。面白い子だと思うよ、力も存在も。」


そう言って、夏油は静かに微笑んだ。





第32話 反省





それから話題は変わり、彼らは今後の計画について話し始めた。

自分達が望む未来に必要不可欠な存在である宿儺に全ての指を献上する。

100年後に笑っているのが呪いであれば、自分達は全滅してもいいのだと…


「じゃまず、高専の保有する6本の指を回収するよ。」

「必要か?術師は宿儺の指を取り込ませるために、虎杖悠仁を飼っているのであろう?放っておいても勝手に食うだろ。」

「高専上層部は虎杖悠仁の器としての強度を計りかねている。何本目から暴走するかとね。

 五条例外を除いて、取り込ませるのは全ての指を揃えた後さ。それまで待てないだろ?最悪、虎杖悠仁が上に消される可能性もある。」

「虎穴に入らずんばか…さて、どうしたものか。」

「手は打ってある。そのために、手持ちの指を高専に回収させたんだから。」


この夏油の作戦は、高専の生徒達を大いに巻き込むことに…

姉妹校交流会を控えたそんな呪術高専の方へ視点を移すことにしよう。


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「七海ィ、なんか面白い話してぇ〜」

「…」


談話室のような場所で向かい合って座る五条と七海。

ダラけきった五条のむちゃぶりに、七海は呆れたような表情を見せながら新聞を広げる。


「よし分かった!!じゃあ廃棄のおにぎりでキャッチボールしながら政教分離について語ろうぜ。」

「お一人で。何が分かったのですか…」

「五条悟の大好きな所で山手線ゲーム!![パンパン]"全部"!!」

「それじゃ次の人何も言えなくなっちゃいますよ、先生。」

「おっ、スズが来た〜隣おいで?」

「その調子で頼みますよ。今の虎杖君には、そういう馬鹿さが必要ですから。スズ、彼の様子は?」

「ケガの方はもう大丈夫です。精神的にもだいぶ落ち着いてきてると思います。」

「ん〜重めってそういう意味じゃなかったんだけどなぁ。スズが見つけた、吉野って子の家にあった指について悠仁に…」

「言ってません。彼の場合、不要な責任を感じるでしょう。」

「オマエに任せて良かったよ。で、指は?」

「ちゃんと提出しましたよ。アナタに渡すと虎杖君に食べさせるでしょ。」

「チッ。」

「七海先生には敵いませんね。」


不貞腐れたような五条と彼の隣で笑顔を見せているスズを眺めていた七海の元に、突然1本の電話がかかってくる。

一言断りを入れて席を立った彼を見送ると、五条はすぐさま隣の少女へと声をかけた。


「さっきの山手線ゲームさ、スズなら何て答える?」

「ん〜何だろう?……ギャップ、かな。」

「あ〜普段と戦ってる時のってこと?なるほどね〜」

「ふふっ。そのギャップももちろんありますけど…」

「え、違うの?」

「はい。私が思ったのはオンとオフのギャップです。先生、オフの時は何か可愛いから。バチバチに戦ってる時とのそのギャップが好きだなって。」

「!」

「あ、でもこれは言わない方がいっか。オフの先生はあんまり知れ渡ってないですもんね。」

「…オフの俺知ってんのオマエぐらいだよ。告白した時言ったじゃん。」

「! そ、そう…でしたね…!」

「俺はね〜スズのそういうすぐ顔に出るとこが好き。」

「な、何ですか急に!ゲームのお題変わってますから…!」


五条がニヤニヤしながら顔を覗き込めば、視線を外したスズは赤い顔を冷ますようにパタパタと手で風を送る。

思った通りの反応を示す想い人の姿を愛おしそうに見つめていた五条は、不意に目隠しを外すと彼女との距離を詰めた。

突然の急接近に驚き声をかけたスズは、彼の返答にまたも赤面することになる。


「先生…?」

「七海が戻ってくるまで膝枕して?」

「えっ!?おわっ、ちょ…!」

「ん〜…幸せ。」


スズが何かを言う前に、さっさと膝に頭を乗せる五条。

長い足をソファの肘掛けに投げ出し、気持ち良さそうに伸びる彼は本当に幸せそうだった。

だが一方のスズは、外での急なスキンシップと誰かに見られたらというダブルのドキドキで大慌て。


「先生…ど、どうしたんですか?」

「何が〜?」

「いや、あの…外でオフモードになるの珍しい、から…」

「…スズの口から"好き"って言葉聞いたら、何かくっつきたくなった。」

「そう、でしたか…!」

「ふっ。なぁ、他には?」

「ん?」

「俺の好きなとこ。何かねーの?」

「そうだな〜…子供みたいに突然こういう行動するところかな。」

「うるせーよ。他には〜?」

「んー強いところはもちろんとして、意外と面倒見が良くて料理上手で…なんだかんだ言っていつも私のことを守ってくれるところ。」

「うん。」

「あとヤケ酒するって言って、缶チューハイ半分も飲めないで寝ちゃうとことか〜

 事務仕事終わってなくて私に怒られたときの不貞腐れてる先生も可愛いなって思います。」

「後半、オフの俺ばっかじゃん。」

「ダメです?」

「んーん、スゲー嬉しい。」


スズからの言葉を終始嬉しそうに聞いていた五条は、そう言うと彼女のお腹にギューッと抱きついた。

突然今までに経験のない体勢になったことで、スズの心臓はもうフル稼働だ。

そんな状態を知ってか知らずか、師匠の方はリラックスした様子で話しかけてくる。


「スズ、いい匂いすんね。」

「え、あ、ありがとうございます…!」

「…オマエの匂いかいでると落ち着く。」

「ちょ、そんなにかがないで…って、 先生起きて!七海先生戻ってきます!」

「え〜まだ平気だって〜もう少しだけ。」

「ダメです!私が元の状態に戻れません…!」

「あ〜確かに顔真っ赤だもんな。…分かったよ。起きます〜」


名残惜しそうに体を起こした五条はスズにピタっと体をくっつけて座ると、アタフタしてる彼女の様子を楽しそうに見つめる。

"あんまり見ないでください…!"と言いながら顔を彼の方に向けたスズはあることに気がついた。


「あ。先生、目隠しちゃんとしないと!」

「お〜忘れてた。……つけて?」

「じ、自分でつけられるでしょ…!」

「じゃあつけな〜い。」

「! 分かりました!つけますから、こっち向いてください!」

「ん。」

「……よしっ。大丈夫ですか?ゴワゴワしてない?」

「うん、大丈夫。ありがと。」


目を閉じて顔を近づける五条は、感情が大忙しなスズとのやり取りに口元が緩むのを抑えられない。

いつも自分のワガママを受け入れてくれて、こちらの言動でコロコロと表情が変わるスズは、彼にとって最早なくてはならない存在だった。

だからなのか、どうしてもからかいたくなってしまうようで…

七海が到着するまでに何とか気持ちを落ち着かせようとしていたスズの耳元で、五条はダメ押しの一言を放った。


「…好きだよ、スズ。」

「なっ…!ちょ、もう!せっかく落ち着いてきてたのに!」

「え〜だって言いたかったんだもん。」

「だからって、今言わなくても「スズ、大丈夫ですか?」

「おっ、七海おかえり〜」

「七海先生…!だ、大丈夫です!」

「はぁ…五条さん、スズをからかうのも程々にしてくださいよ。」

「へ〜い。」


七海にバレないようにペロッと舌を出した五条は、悪ガキのような笑顔を彼女に向けるのだった。



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