解散した生徒達は、それぞれの学校に割り当てられた建物内でミーティングを開始した。

スズも真希や伏黒と共に移動し建物へと向かったのだが、着いた途端目に入ってきた光景は遺影の額縁を持たされた虎杖の姿だった。

パンダと狗巻が見つめる中、未だ機嫌の戻らない釘崎が彼と言い合いをしている。


「あのぉ〜これは…見方によってはとてもハードなイジメなのでは…」

「うるせぇ。しばらくそうしてろ。」

「……あっ、スズ〜」

「あ〜ぁ…だから悪ノリはやめた方がいいって言ったのに。」

「まぁまぁ、事情は説明されたろ。許してやれって。」

「喋った!!」

「しゃけしゃけ。」

「なんて?」


初めて関わる個性的な先輩達に、虎杖は興味津々な様子でキョロキョロしている。

そんな彼に、伏黒やパンダが"呪言師"について教え始めた。


「狗巻先輩は呪言師だ。言霊の増幅・強制の術式だからな。安全を考慮して語彙絞ってんだよ。」

「"死ね"っつったら相手死ぬってこと?最強じゃん。」

「そんな便利なもんじゃないさ。実力差でケースバイケースだけどな。強い言葉を使えばデカい反動がくるし、最悪自分に返ってくる。

 語彙絞るのは棘自身を守るためでもあんのさ。だからスズはよく棘とペア組まされるよな?」

「うん、そうですね!」

「え、何で?」

「スズには棘の術式が効かねーからだよ。」

「真希先輩、それは言い過ぎです…!棘先輩が殺す気で来れば、簡単にやられますから。」

「それは実質効かないのと一緒だろ。棘がスズを攻撃することなんてあり得ないんだから。」

「こんぶ!!」

「あははっ!それもそっか!」

「で?何でスズと狗巻先輩はペア組むことが多いの?」


スズと狗巻を交互に見ながら、虎杖は質問を投げかける。

それに答えたのは、またしてもパンダだった。

2人がよくペアになる理由…それはスズだけが狗巻を守ることができるからだ。

真希が言うように、まず大前提として常に体を呪力で覆っているスズに呪言は効かない。

それに加えて彼女には、五条にも引けを取らないハイレベルな呪力操作のスキルがある。

狗巻が強い言葉を使うとき、スズが彼の体を呪力で保護すれば狗巻自身への被害が最小限で済むというわけ。

また攻撃時にスズが味方の耳を呪力で覆うことで、狗巻は周りに気をつかうことなく術式を発動できるのだ。


「俺らは油断してると棘の術式効いちゃうんだけど、スズはそれが万が一にもないからな。

 周りを気にせず自由に術式を使えて、自分の体も守ってもらえる…スズと組むと棘にはメリットしかないってわけ。」

「なるほどね〜」

「でも私もたくさん守ってもらってますから。お互い様…ですよね、棘先輩!」

「しゃけ。」


そう言ってスズが笑顔を向ければ、棘も目元が柔らかくなる。

そうして会話がひと段落すると、次の話題は当然この後の交流会のことになる。

スズが戻ってくることはあらかじめ聞いていたが、虎杖まで復活したことで想定より人数が1人増えた東京校チーム。

それに伴い作戦を変更するか否かの話し合いが必要なのだ。


「で、どうするよ。団体戦形式はまぁ予想通り、スズの動きも考えてある…って、スズに作戦伝えてなかったか?」

「はい、どう動けばいいですか?」

「スズは棘と一緒に呪霊退治組だ。」

「らじゃ!よろしくお願いします、先輩!」

「しゃけ!」

「あとメンバーの状況把握と、もしもの時の治療班としても頼むな〜」

「え、あの、何か私の役割多くないですか?」

「気のせいだ。まぁスズはいいとして、もう1人メンバーが増えちまった。作戦変更か?時間ねぇぞ。」

「おかか。」

「そりゃ悠仁次第だろ。何ができるんだ?」


建物の柱によじ登っているパンダからの問いかけに、虎杖は"殴る蹴る"という回答を返す。

腕っぷしの強い奴は他にもいるため渋い顔をするパンダに、今度は伏黒が声をかける。

東京校・京都校のメンバー全員が呪力なしで殴り合ったら虎杖が勝つと…


「(東堂とってる恵が言うんだ、信憑性はある。)ずっと一緒にいたスズもそう思うか?」

「はい。死ぬ前よりも強さ増し増しになってますから。自信を持ってオススメします。」

「面白ぇ。」


伏黒と、狗巻の横に座るスズからの言葉に真希は口角を上げた。


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場所は変わり、教師陣の待機場所である応接室。

向かい合って座るのは、京都校引率の庵歌姫と我らが五条悟だった。

毛嫌いしている相手から呼び出されたことで歌姫は不機嫌モードだが、五条の方はそんなことに構わず自分の話を始めた。


「高専に呪詛師…或いは呪霊と通じている奴がいる。」

「! 有り得ない!!呪詛師ならまだしも呪霊!?」

「そういうレベルのが最近ゴロゴロ出てきてんだよね。本人は呪詛師とだけ通じてるつもりかもね。京都校の調査を歌姫に頼みたい。」

「…私が内通者だったらどうすんの?」

「ないない。歌姫弱いし、そんな度胸もないでしょ。」

「!」


五条の失礼極まりない発言に、歌姫は自分のお茶をぶん投げる。

"無限"発動中の彼には当たらないわけだが、それがまた歌姫の逆鱗に触れいつもの言い合いになってしまうのだった。

そんなこんなで話し合いが終わり席を立とうとする五条に、歌姫は真剣な表情で声をかけた。


「五条。」

「何〜?」

「アンタ…スズと何かあった?」

「……"何か"って?」

「いや、何となく…2人の雰囲気が変わった、かなと…」

「何、歌姫って僕のこと好きなの?」

「そんなわけないでしょ!?気にしてるのはアンタじゃなくてスズの方よ。何もしてないでしょうね?」

「ん〜…」

「何よその返事…!スズは私や硝子にとって大切な妹みたいな存在なの。半端な気持ちで手出したら許さないから。」

「あ〜じゃあ大丈夫だよ。」

「は?大丈夫ってどういうことよ。」

「本気で手出してるから大丈夫、ってこと。」

「!」

「ちゃんとマジで好きだから…邪魔しないでね。」


"じゃあ先行ってるから〜"

最後にそう言ってヒラヒラと手を振りながら部屋を出て行った五条を、歌姫は呆然と見つめる。

いつになく真面目な顔で言葉を発していた彼の姿は、長い付き合いである歌姫でもあまり目にしたことがないものだった。

遊び半分でないことは喜ばしいことだが、相手が相手だけに心配事は尽きない。


「スズも厄介な奴に好かれたわね…硝子と一度話し合わなきゃ。」


大きなため息を1つ吐き、歌姫もまた部屋を出て行った。


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正午が近づき、各校の生徒達がゾロゾロと外へ出てくる。

そんな中、不意に伏黒がスズと談笑中だった虎杖へ声をかけた。

その真剣な表情や声から大切な用事かと思いスズは席を外そうとするが、伏黒が目でそれを制止する。


「虎杖。」

「?」

「大丈夫か?」

「おーっ。なんか大役っぽいけど、なんとかなんべ。」

「そうじゃねぇ。…何かあったろ。」

「あ?なんもねーよっ。」

「…」

「……あった。けど大丈夫なのは本当だよ。むしろそのおかげで誰にも負けたくねーんだわ。」

「…ならいい。俺も、割と負けたくない。」

「! ししっ。」「ふふっ。」


伏黒の秘めた闘志を聞き、虎杖とスズは笑いながら顔を見合わせる。

そんな会話を傍で聞いていたのか、野薔薇を筆頭に東京校チームが続々と集まってきた。

どの顔もやる気と勝気に満ちたいい表情だ。


「何が割とよ。一度ぶっ転がされてんのよ!?圧勝!!コテンパンにしてやんのよ!!真希さんのためにも!!」

「…そーいうのやめろ。」

「明太子!!」

「そう!!真希のためにもな!!」

「はい!!燃えてきたー!!」

「へへっ。そんじゃまぁ…勝つぞ。」


真希、狗巻、パンダ、虎杖、伏黒、釘崎、そしてスズ。

五条が面倒を見てきた7人が、いよいよ出陣する…!



to be continued...



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