月曜日。
時刻は8:40を示している。
私を含めたバスケ部の1年生達は、揃って屋上への階段を上がっていた。
ドアを開けて最初に見えたのは、仁王立ちでこっちを見つめるカントクの姿だった…
「フッフッフッ…待っていたぞ!」
「…アホなのか?」
「決闘?」
「リコ先輩、ご乱心かしら…?」
「つーか、忘れてたけど…月曜って、あと5分で朝礼じゃねーか!」
大我の言う通り、毎週月曜は8:45から朝礼をやるのがこの学校の決まり。
今校庭に並んでいないのは、私達バスケ部だけだ。
逆に言えば、それ以外の人…つまり全校生徒が校庭にいるということになる。
一体ここでリコ先輩は何を始める気なの…?
「とっとと受けとれよ!」
「その前に1つ言っとくことがあるわ。去年、キャプテンにカントクを頼まれた時、約束したの。
全国目指してガチでバスケをやること!もし覚悟がなければ、同好会があるからそっちへどうぞ!!」
「…は?そんなん…」
「アンタらが強いのは知ってるわ。けどそれより大切なことを確認したいの。
どんだけ練習を真面目にやっても、"いつか"だの"できれば"だのじゃ、いつまでも弱小だからね。
具体的かつ高い目標と、それを必ず達成しようとする意志が欲しいの!
んで今!ここから!!学年とクラス!名前!今年の目標を宣言してもらいます!」
そして更に、リコ先輩はこう続ける。
目標を達成できなかった場合は、ここから今度は全裸で好きな子に告ってもらうと…
私は特別に水着着用でいいって言われたけど、そういう問題じゃない気がするんだが…!
でもまぁ…
「目標を達成すれば、それはやらなくていいってことですよね!」
「(! 相変わらずすごい声だわ。スズの強い意志と自信が伝わってくる!)
そういうこと!じゃあ早速始めるわよ。さっきも言ったけど、具体的で相当の高さのハードルでね!"1回戦突破"とか"がんばる"とかはやり直し!」
具体的で、相当な高さの目標…
そんなの、この前の帰り道でもう決めたっつーの!
でもどうまとめて言おうかな〜と、私が自分の考えをまとめていると…
「ヨユーじゃねーか。テストにもなんねー。スズ、オレ先行くぞ?」
「うん!いってらっしゃい!」
私の横を通り、タンっと軽やかに手すりに飛び乗った大我。
そしてお腹に力の入った、それはそれは大きな声で目標を宣言したんだ。
「1−B、5番!火神大我!!"キセキの世代"を倒して日本一になる!」
「…この前の帰り道で言ってた通りの目標だったね!」
「そうですね。まぁ変わってても困りますけど。」
「あははっ!確かに。」
大我の宣言を聞いてから、私とテツはそんな会話をし、笑顔を向け合った。
耳を澄ませば、校庭からはザワザワと声が聞こえてくる。
こりゃ早くやらないと先生来ちゃうな…よし!
「じゃあ次、私行きます!」
「いいわよ〜元気にお願いね!」
「はいっ!」
大我みたいに手すりに乗るのは怖すぎるから、その手前で足を止める。
そして大きく息を吸い込み、自分の想いと共に一気に吐き出す。
「同じく1−B、木下スズ!マネージャー志望!
私の目標は…カントクと選手が心身ともに最高の状態で試合に臨めるように支えること!!
この声で、どんなにアウェーな会場も、どんなにうるさい体育館も…ぜーんぶ誠凛のホームにする!!」
「なぁ、日向。」
「…ん?何だよ、伊月。」
「オレ、今泣きそうなんだけど。」
「オマエもか…オレもだ。」
「すげー子入ってきたな。」
「あぁ。最高のマネージャーだ。」
校庭の先輩達がそんなことを思っているとはつゆ知らず…
我ながら、なかなかいい感じに言えたな〜なんて思い、みんなの方を振り向いた途端…!
ガバッとリコ先輩に抱きつかれた。
まさかの展開にアワアワしている私を他所に、リコ先輩は全開の笑顔で声をかけてくれたんだ。
「スズ…アンタ最高!もう大好きっ!!」
「あははっ!ありがとうございます!私も先輩のこと大好きです!」
「! スズー!!」
さらに抱きつく力を強くしたリコ先輩越しに、テツと大我が笑ってるのが見えた。
"次はテツの番だね!"という意味を込めて視線を送ると、それに気づいたらしく頷きを返すテツ。
そしてどこからか持ってきた拡声器をもって、手すりの前に立つ。
「リコ先輩、テツが宣言始めるみたいですよ!」
「…あ、了解!」
まだ抱きついていた先輩を促して、私もテツの宣言を聞くため後ろに下がる。
大我の隣に立てば、"良かったぜ"と頭をポンと叩かれた。
私はお礼と笑顔を返し、彼と一緒にテツへ視線を向ける。
「すいません。ボク、声張るの苦手なんで拡声器使ってもいいですか?」
「…いいケド。」
そして息を吸ったテツがいよいよ声を出そうとした、その時…!
彼よりも先に、先生の怒鳴り声が屋上に響いた。
それから小一時間、私達は正座のままお説教を受けることに…
あーテツの宣言聞きたかったな。
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